「おばちゃん、植物いじるより、僕と遊んだ方がいいと思うんだよな」
「おばちゃん、植物いじるより、僕と遊んだ方がいいと思うんだよな」

「はち」の同居猫探し 会えば情が湧き、感じるのは迎えられない後ろめたさ

「はち」を迎えて2年が過ぎた春、私は、はちの同居相手となる猫を保護猫の中から迎えたいと考えた。

「はちと同じ猫エイズキャリア猫であること」「歳が近いこと」「できれば、メスであること」という3つの条件を設定。最初に訪れた自宅近所の保護猫カフェには、1つ目と2つ目の条件をクリアしている猫はいた。だがすでに猫エイズを発症していたため、家に迎えるのは難しかった。

(末尾に写真特集があります)

再び保護猫カフェへ

 次に私は、そこで紹介された同じ区内にある保護猫シェルター併設のカフェに足を運んだ。

 店は、私鉄沿線の駅からすぐの雑居ビルの中にあった。ブルーグレーの壁とヨーロピアンアンティークの家具でまとめられ、こぢんまりと落ち着いた雰囲気は、一般のカフェと変わらない。違うのは、店の奥にガラス窓と扉で仕切られた部屋があり、保護猫シェルター、通称「保護猫部屋」になっていることだった。

 ハンドドリップのコーヒーを飲み、おいしいサンドイッチを食べながら、ガラス越しに保護猫たちを眺める。ハンモックで昼寝をしたり、お客さんにじゃらし棒で遊んでもらっていたり、リラックスしているようだ。

 先代猫「ぽんた」に似た白黒ハチワレ猫もいて、じっとこちらを見ている。心ひかれるが、店内に掲示してある「家族募集中の保護猫たち」のプロフィールを見ると、すでに譲渡先が決まっていた。

「今日もおばちゃん出かけたけど、猫とか探しに行ったんじゃないよね」(小林写函撮影)

 オーナーの女性に「2匹目の猫を探しており、猫エイズキャリアの成猫が希望なのですが」と伝える。

 すると「該当する茶トラ猫が、数日後に入店予定」とのこと。1歳で性格は温厚だが「ビビリ屋さん」で、外で生活していたときは、ほかのオス猫にいじめられていたらしい。

 当時は、人には慣れていたという。だが捕獲されたのち、動物病院での隔離期間にいろいろあり、今は人間を警戒している、とのことだった。

 推定8歳のはちとは、歳が離れている。それにオスなので条件にぴったり、というわけではない。それでも、とりあえず会ってみようと考え、その茶トラ猫が来たタイミングで再びカフェに足を運んだ。

威嚇する猫、肩を落とす保護主

 オーナーと一緒に保護猫部屋に入ると、茶トラ猫はトンネルの中に隠れていた。威嚇が激しいので、オーナーも肘(ひじ)まである厚手のグローブをはめないとさわれない、とのこと。私が近づくと、小さく、でも力強く「シャー!シャー!シャー!」と声をあげた。

 その表情に、私はひるんでしまった。

 からだは大きく丸顔で、よくみるとかわいらしい顔をしている。本来は、攻撃的な性格ではないだろう。オーナーも「信頼できる人間の家族に引き取られたら、もとの温厚で人懐っこい猫に戻ると思う」と言う。

「アフタヌーンティーなのに3段トレイじゃないんだ」(小林写函撮影)

 だが、シャーシャー言う猫を、はちの世話をしながら人に慣れさせる自信がなかった。はちも野良猫時代は、ほかの猫たちに威嚇されて逃げているタイプの猫だった。この茶トラ猫が家に来たら、はちにも大きなストレスがかかることは間違いない。

 オーナーには「ごめんなさい、うちでは難しいです」とその場で意向を伝えた。

「そうですか……」と、オーナーは肩を落とした。

 猫エイズは人間には移らない。またキャリアであっても、一生発症しない猫もいる。それでも偏見があるため、健康な猫に比べると譲渡の際にハンディがあるそうだ。ましてや子猫ではなく成猫となると、縁はさらに遠のく。

 オーナーは、猫エイズのキャリア猫を多く預かっている別の保護猫カフェを教えてくれた。私はお礼を言ってカフェをあとにした。

「今日もひとりで楽しかった」(小林写函撮影)

 帰り道に考えた。

「世の中に悪人はいない」と言うが、悪い猫というのもきっと存在しない。だから、会えば情が湧く。猫だけでなく、猫の世話をしている人に対してもだ。

 そこで私は、猫に会いに行く前に、条件に合う保護猫が世の中にいるかどうかの情報収集をしっかり行うことにした。しっかりした保護団体はたいてい、譲渡可能な猫たちのプロフィールをウェブ上に掲載している。

 そして「これだ!」とピンとくる猫が現れるまでは、保護猫カフェにも、保護猫譲渡会にも足を運ばないことにした。

焦らず探すと決めた数日後

 さらに、はちの同居猫の3つの条件に、「猫エイズキャリア以外の疾患は持っていないこと」「人慣れしていること」の2つを加えることにした。

 すぐに検索をはじめたが、5つの条件がそろう猫がそうすぐに出てくるはずもない。はちと年齢が近くて人慣れしていても、猫エイズが陰性だったり。猫エイズ陽性でも、子猫だったり、「きょうだい2匹での譲渡が希望」と書いてあったり。

 焦らず探そう。そう腹を決め、数日が過ぎたときだった。なにげなく見ていたSNSに、1匹の保護猫情報が流れてきた。

「人慣れしていて甘え上手、おとなしくて手のかからない三毛猫みーちゃん(推定9歳)が家族を募集中!」

 そこには、ソファの上に転がって目線をこちらに送ってくる、くっきりとした三毛柄の猫の写真が掲載されていた。

(次回は11月17日公開予定です)

【前の回】愛猫「はち」の“同居猫”探しをスタート 条件をつくり、保護猫カフェを訪れた

宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
続・猫はニャーとは鳴かない
2018年から2年にわたり掲載された連載「猫はニャーとは鳴かない」の続編です。人生で初めて一緒に暮らした猫「ぽんた」を見送った著者は、その2カ月後に野良猫を保護し、家族に迎えます。再び始まった猫との日々をつづります。
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