ある晴れた日に遠出した公園で
ある晴れた日に遠出した公園で

“人間関係”なんて狭い世界 犬がいるだけで心が落ち着き、規則正しくなる

 先代犬の富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らすライターの穴澤 賢さんが、犬との暮らしで悩んだ「しつけ」「いたずら」「コミュニケーション」など、実際の経験から学んできた“教訓”をお届けしていきます。

(末尾に写真特集があります)

仕事に追われて眠る日々

 ほとんどの人は、何かしら仕事をしている。だいたい週5日は働いて、1日か2日休む。もちろん私もそんな暮らしを長いことしてきた。職業は色々転々としたが、働いていなかった時期はない。つまり、回遊魚のようにずっと泳ぎ続けてきた。

 それは暮らしていくためだから仕方ないが、中にはずっと仕事に追われている人もいる。朝から夜遅くまで働いて、休日があっても寝て過ごす。やりがいを感じているならいいが、ただ目の前に積まれた課題に追われ、職場の人間関係に悩み、疲れ果てている人もいるだろう。そんな暮らしを続けていると、自分の世界が人間関係に限られてくる。上司、同僚、友人、恋人、家族など、その人たちとの関わりに終始してしまう。

このカエルティッシュケースをしょっちゅう枕にしていた富士丸

富士丸が気付かせてくれたこと

 そういう私も若い頃は仕事に追われ、夜は友人と酒を飲み、翌日二日酔いで苦しみながら仕事して、夜は復活してまた酒を飲む、という暮らしをしていた時期もある。

 ただ、先代犬の富士丸と暮らし始めてから、少しずつ変わったような気がする。なぜなら、犬にとって私の人間関係なんてどうでもいいからである。彼は、出来るだけ私のそばにいて、一緒に遊びに行きたいというのが願いだった。とてもシンプルなのだが、それが本心だった。

 私の人間性など関係ない。20代の頃、夜な夜な高円寺あたりの居酒屋で飲んだくれて、世の中への不平不満や、自分を理解してくれる人がいないと文句をたれていた青臭い人間でもおかまいなしだ。完全に信頼して、頼って、大好きでいてくれた。そんな奴は初めてだった。

なぜか富士丸がソファで私が床に座っていた

 私が外で嫌なことがあっても関係ない。仕事で失敗しても関係ない。彼女と別れても関係ない。世間と切り離された富士丸という存在のおかげでどれだけ救われたか分からない。だから私も次第に富士丸のためなら何でもやろうという気持ちになっていった。

 人間社会で暮らしていると見えなくなりがちだが、そもそも人間関係がすべてではない。もっといえば私の周囲の人間関係なんて、ごく狭い世界だ。そんなところに閉じこもって追い詰められるのは馬鹿馬鹿しい。そばに富士丸がいてくれたおかげで、そのことに気が付いた。そんなこといっても仕事はしなくちゃいけないが、頑張って働いて、たくさん遊びに行くようになった。

「どっか遊びに行きたいなぁ」の顔

富士丸が気付かせてくれたこと

 その考えは今でも変わらず、仕事はちゃんとするが、無理はしない。なぜなら、大吉と福助がいるからだ。朝夕の散歩はあるし、他にも色々やることがある。それらを済ませて仕事をしていると、日中は大吉も福助もおとなしく昼寝していて、邪魔してくることはない。

満足しているときの寝顔

 それがたまに夜8時をすぎて仕事していると、大吉が仕事部屋にトコトコやって来て「まだ終わらないの?」と目で訴えてくることがある。彼は夜9時にはリビングで一緒にくつろぎたいのだ。きっとそれが生活リズムなんだろう。だから私もそこで、「じゃ、そろそろ止めるわ」と従う。

 また、忙しかったりしてイレギュラーなおでかけがしばらくないと、ふたりそろって露骨に「最近つまんねーオーラ」を出してきたりもする。

「最近つまんねーオーラ」のとき

 夜の催促も、つまんねーオーラも、私はどちらも彼らが正しいと思っている。夜遅くまで仕事しても集中力が切れてクオリティーは落ちるし、休日もなく働き詰めだと体に悪い。自分ひとりだとそれでも無理してやろうとするが、彼らがいるから無理はしない。

「働きすぎじゃない?」という彼らの主張はだいたい正しいのだ。だからどんなに立て込んでいても、夜更かしせず、ちゃんと睡眠をとるようにしている。翌朝には散歩に行かないといけないしね。

まるやち湖(八ヶ岳)でご満悦の大福

犬が持つ力

 犬(猫)と暮らす人は「私もそう」とうなずいているんじゃないかと思うが、犬にはそうやって生活リズムを保つ(ように仕向ける)力がある。そして、人間関係で悩んでいたりしても「ま、いいか」と思わせてくれる力もある。

 なので、仕事に追われ、人間関係に悩んでいる人は、犬や猫を迎えてみるといいと思う。もちろん何度も書いているように迎えるなら最後まで面倒を見る覚悟が必要だが、そんなに構える必要はないと思う。それだけ守ればいいし、迎えてみると心境が変化するはずだから。

 別に犬や猫に限らず、山や海や川へ行って釣りをしたっていいし、花や鳥の写真を撮ったりしてもいいと思うが、人間関係なんて狭い世界だと意識してみると、ちょっとは楽になるんじゃないかと思う。私の場合はそれが犬だっただけで、彼らのおかげで心のバランスを保ち、規則正しく生活しているんだなと思う。

 特に最近、そのことを実感している。というのは、このところ妻が大福を連れて実家に帰ることが多く(もめてるわけじゃないよ)、一週間くらい一人暮らしをして、一時的に戻ってきてまた一週間ほどひとり暮らし、というサイクルが続いている。独身時代の経験から炊事洗濯は困らないし、大福がいないから散歩にも行かなくていいし、夜出かけるのも自由なのだが、なんだかつまらない。早く帰って来ないかな。

11歳と9歳で未だにこうして遊ぶのがうれしい

【前の回】天使がいるとしたら、それは犬だ そばにいるだけで彩り豊かになりなぜか活力が湧く

穴澤 賢
1971年大阪生まれ。フリーランス編集兼ライター。ブログ「富士丸な日々」が話題となり、犬関連の書籍や連載を執筆。2015年からは長年犬と暮らした経験から「デロリアンズ」というブランドを立ち上げる。2020年2月には「犬の笑顔を見たいから(世界文化社)」を出版。株式会社デロリアンズ(http://deloreans-shop.com)、インスタグラム @anazawa_masaru ツイッター@Anazawa_Masaru

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この連載について
悩んで学んだ犬のこと
先代犬は富士丸、いまは保護犬の大吉と福助と暮らす穴澤賢さんが、犬との暮らしで実際に経験した悩みから学んできた“教訓”をお届けしていきます。
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