ほえ続けるポメラニアンに飼い主の感情爆発 「優しいトレーニングの呪い」から脱する
やまないほえに悩み続けながら、気づくと愛犬のポメラニアンは成犬になっていた。心も体も疲れ果てたお母さんは、ある日、限界を迎え爆発。そして、泣きながらUG DOGSアトラスタワー中目黒店(以下UG)の高橋信行店長に助けを求める。
激アツ店長、中目黒の駅前で叫ぶ。
「『優しいトレーニングの呪い』から脱して、人が変わる。すると犬も変わる!」
(前回のお話はこちら)
ポメラニアンの犬育てに悩む飼い主は多い
1年以上苦しんだ育犬ノイローゼ。我慢の限界が来てしまったお母さんは、お父さんとたぬくんの前で感情が爆発し、外出先で泣き出してしまった。
実はUGのことはすでに知っていた。ネット検索する中で、高橋店長のブログを見つけていたのだ。しかし、夫がUGに行くことに反対した。「もし、たぬが他の犬にいじめられたらどうするの? つらい思いをしたら?」と。いつも言い合いになり、ちゅうちょしていているうちにたぬくんは1歳を過ぎていた。「夫になんと言われようと、もう無理。アウトレットの駐車場で、泣きながらUGに電話しました」
それから数日後、初のカウンセリング。たぬくんは抱っこされているとおとなしいこともあり、店長は「それほど? と思いましたね」と振り返る。しかし、ポメラニアンの犬育てで悩む飼い主はUGでは後を絶たない。
ふわふわのゴージャスな被毛にくりくりの大きな目。愛らしいルックスで人気のポメラニアンは、ドイツ原産の犬種だ。「ドイツの犬は全体的にとても強い。見た目はかわいいほわほわの毛玉ちゃんですが、ポメラニアンも例外ではなく、意志が強く番犬気質もあり、ほえる子は少なくない」と店長。こう続ける。
「たぬくんは、そういう意味では『ポメラニアンらしいポメラニアン』。強くてほえるけど、明るく闇はない。ただ、すでに1歳をすぎ成犬になっていたので、うちで1週間過ごしたところで劇的に変わるかはわかりませんでした」
お母さんも「変わりたい」
早速、一緒にお散歩へ行ってみる。UGがある東京・中目黒は、車通りが激しい山手通りと、年中人でごった返している目黒川沿いと、たぬくんが人目を忍んで歩いていた静かな裏道とは大違い。しかし、にぎやかさに驚く様子はあったものの、たぬくんは人にもバイクにもほえずに歩くことができた。「たぬが店長のペースに合わせて歩いていて、本当にびっくりしました」とお母さん。
店長が心配したのは、むしろお母さんの方だった。「たぬくん育てに疲れ果てているのが手に取るようにわかったので、まずはたぬくんから離れて休むことが重要と考えました。ただ、繰り返しになりますが、1週間預かったところで成犬のたぬくんが変わるかはわからない。お泊まり後、たぬくんと暮らしていくためには、この1週間でたぬくん以上にお母さんが変わらなければならない。人が変わらなければ犬は変わらないのです」
店長に「やりますか?」と聞かれたお母さんはこう答えた。「自分も変わりたい。お願いします!」
こうしてたぬくんの社会化お泊まりがスタートした。UGの群れに放たれると、いち早く店長の愛犬で群れのリーダーのロイスの強さを見抜き、「敵意はありましぇーん」とばかりにおなかを見せたたぬくん。「犬のルールはある程度理解している。たぬくんの頭の良さがわかりました」と店長。最初こそ来店客に警戒してほえたりもしたが、自分と同レベルの強い子ととことん遊び、夜はケージでほえることなく眠ることができた。
しっかり休んで、お迎えに行くときにはすっかり冷静さを取り戻したお母さん。店長からは「高い声で接するとたぬくんの興奮を助長するので、落ち着いた声と態度で接して」と指導された。また、早朝のケージでのほえについては、分離不安気味だったことも原因の一つと考え、これまで別の部屋のケージで寝かせていたが、お父さん、お母さんの寝室にクレートを置いて寝かせることをアドバイス。実践すると、たぬくんは朝までぐっすり。お散歩に行っても、バイクに反応はするもののほえることはなくなった。
外を通る人や車にほえるからと、ずっと開けられなかったリビングの大きな窓の雨戸。ある日、閉めるのを忘れてしまった。「閉め忘れたことに気づかなかったんです。だって、たぬがほえずに静かにしていたから」。お散歩も家の中も、そしてお母さんの心も。暗闇から抜け出した瞬間だった。
「UGで取り違えちゃった? と思うほど、本当に別犬のように変わりました」。そう話すお母さんも変わった。たぬくんに「ダメなものはダメ」と言えるようになったのだ。店長はこう解説する。
「たぬくんは頭がいい。言えばわかる。お母さんはそれをわかっていたのに言えなかった。でもそれは裏を返せば、たぬくんをうたぐっていた、ということでもある。心から信じられるようになったから、はっきりと伝えられるようになったのだと思います」
たぬが「お兄さん」になった!
そして今年8月、たぬくんに弟分ができた。同じポメラニアンの「ゆきと」くん。たぬくんがドッグランなどでほかのワンコと楽しそうに遊ぶ様子に、「うちでも一緒に遊べる子を」と考えた。「この子はどうかな、と候補を見つけるとすぐに店長に相談。ようやく3匹目でお墨付きをもらい、お迎えを決めました」
最初こそ小さな新入りに困惑した様子だったたぬくんだが、すぐに大の仲良しに。「たぬのうちの子記念日でケーキを用意したら、食いしん坊なのに少し残して、『食べなよ』とゆきとに譲るんです。けなげで泣きそうになりました」と、お母さんは目頭を押さえる。
ゆきとくんは、明るく聡明(そうめい)、何にも物おじすることはないという。たぬくんで悩んだような吠えやかみももほぼなし、お散歩も最初から問題なく歩けた。「遊び相手はたぬがしてくれるし、本当に手がかからない。でも、なるべく早くに店長には見てもらおうと、カウンセリングをお願いしました」とお母さん。たぬくんが変わったことで、お父さんもすっかりUGのファンになっていた。
店長は、久しぶりにやってきたたぬくんとお母さんに驚いた。「めちゃくちゃ穏やかで落ち着いていて、最初気づかなかったほど」と笑う。「たぬくんもお母さんも、家に帰ってからも頑張ったことが伝わってきました」。
ゆきとくんについては「確かにすごくいい子。だけど、末っ子気質というか、ちょっとわがままで調子に乗る雰囲気を感じました。頭が抜群にいいだけに、下手するとたぬくんに下克上してしまう可能性もある。たぬくん以外の犬と過ごすことでルールを学んでもらった方がいいかな、と」。店長の勧めもあり、ゆきとくんも社会化お泊まりを経験。「ほかのワンちゃんとの遊び方が抜群に上手になって帰ってきました」とお母さんもうれしそう。
「かわいそう」ではなく、愛犬を信じて
月齢7カ月を迎えたゆきとくん。「自我が目覚めてきたのか、少し警戒心が強くなっているかも」。しかし、もうお母さんが動じることはない。「ダメなものはダメ。ゆきとにもそう伝えます」。今はポメブラザースと出かけるのが楽しくて仕方ないという。「すべてはたぬとゆきとファーストで暮らしています。私も夫も2匹がかわいくてかわいくて仕方ない。最高に幸せです」と、お母さんの笑顔が弾けた。
たぬくんのお母さんは「自分も変わりたい」と心に決め、実際に変わった。しかし店長は「『優しいトレーニングの呪い』から脱せず、なかなか変われない飼い主さんもいる」と話す。
優しいトレーニング=ほめて育てる、は今や主流だ。この連載でも店長は繰り返し言っているが、「優しいトレーニングで大丈夫な子は、犬にとっても飼い主にとってもそちらの方がいい。でも、うちにくるような強い子はそれではうまくいかない場合が多い」のだ。
「叱ったら傷つくんじゃないか、ケージに入れるなんてかわいそう……。飼い主さんがそういう『優しいトレーニングの呪い』から抜け出せずにいると、たとえ社会化お泊まりの1週間で変わったとしても、家に帰った途端、元に戻ってしまう犬は少なくありません。なぜなら、うちに来る強い子は往々にして頭がいいので、お泊まり前のようにルールをあいまいにして甘やかせば、『嫌なことがあったら、ほえたりかんだりすればいいんだ』とルールを自分で決めてしまうから」
店長は続ける。
「飼い主の生活に支障が出るようでは、犬を幸せしてあげることなんてできません。家族が普通に暮らせるように、ダメなものはダメ、嫌なことは嫌と言っていい。遠慮して言えないのは、僕からすれば優しさではなく、愛犬を信じていないから。強さを否定しごまかそうとするのではなく、強さを肯定し信じてあげる。そんなふうに人間が変われば、犬も必ず応えてくれる。それほど犬は聡明で、けなげなのです」
普通の日常こそ、最高の幸せなのだ。
- UG DOGS アトラスタワー中目黒店
- 住所:東京都目黒区上目黒1-26-1 中目黒アトラスタワー106
TEL:03-5708-5592
営業時間:11:00~20:00(年中無休)
公式サイト:https://anm.ugpet.jp/ - 店長ブログ:https://www.ugpet.com/blog/anm/
※カウンセリングは電話、対面とも要予約。HPや高橋さんのブログをチェックした上で問い合わせを。UGでは基本的に保護犬を預かる活動はしていません。
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