個人で保護活動を続け本を出版! 保護犬たちに支えられているのは他でもない私自身
公益社団法人「アニマル・ドネーション(アニドネ)」代表理事の西平衣里です。この連載は「犬や猫のためにできること」がテーマです。今回は、まさに犬や猫のために自身の生き方を決めている、人気インスタグラマーtamtamさんこと「たまさん」にインタビュー。たまさんは常に10匹以上の行き場のない犬や猫を保護しています。行動や発信の根っこにあるのは、犬猫への深すぎるほど深い愛情でした。
根源を知りたいからとブリーダーの扉をノック
「犬や猫が好きだし保護活動に興味があったから」という理由で、公益法人が運営する保護団体で職員として勤務した2年間。毎日10件以上ある引き取り依頼の電話に追われ、子猫の出産シーズンは多数の赤ちゃん猫のお世話と、とても忙しかったとたまさんは語ります。またせっかく保護したのに数日で亡くなることも珍しいことではなく、落ち込むことも多々。そんな日々でも、新しい飼い主さんへと命をつなぎ、これ以上の幸せはない様子を見たときにやりがいを感じていたのだそうです。
それでも、いくら保護を続けても先の見えない現状をなんとか打破したいと、たまさんはブリーダーへの転身を決意。動物保護の活動をしていると必ず問題にあがる「生体販売」について、その根源を知りたいと思っての行動でした。勤務先のブリーダーには、子犬を産むための父母犬たちが常に100匹以上いたといいます。
「日中のほとんどをケージで過ごしている母犬たちの穏やかさに驚きました。温厚で社会化できている子の方が多く、人に逆らうような子は少なく、むしろ人が大好きな子たちばかりだったんです。そんな犬たちを何とかして幸せにしてあげたくて、繁殖引退犬を新しい飼い主へと譲渡する活動を自発的に行ってみたものの、譲渡して空になったケージには、すぐに新しく子犬を産めそうな若い犬が入り……。自分のやったことに憤りを感じることもありました」
そうして、たまさんが次に知りたいと思ったのは、飼い主さんたちの心情。明らかに犬の知識がないのに超大型犬を選ぶ人や、さみしいからと子犬を求める高齢の方をブリーダーの現場で見てきました。なぜそう思うのか。需要と共有のバランスをどうとっていくべきなのか。だったら日々飼い主さんに接してみようとたまさんが次に選んだ勤務先は、動物病院でした。
言うはやすし、自ら知りにいく。その行動力に脱帽です。
現状とモラルを伝えたくて、インスタグラムで発信
私自身は17歳のシニア犬1匹と小学生男子のお世話だけでも大変で毎日キリキリしちゃうのに、たまさんは小さなお子さんを2人も育てながら、積極的に発信をしています。
「インスタグラマーになりたかったわけではなくて。きっかけは姉に誘われて……というカタチでしたし。最初は交通事故に遭った猫ちゃんの話を書きました。その記事が拡散されて、大手WEBサイトで取り上げられたりして徐々にフォロワーが増えていきました。今までの経験や想(おも)いを一人でも多くの方に伝えることができたらと思い、今でも投稿を続けています。そして今回、出版社さんからも声がかかって。DMに出版の打診がきたときは、いたずらに違いないって完全に疑っていました(笑)」
勝手ながらイラストのイメージで、お団子ヘアのかっぷくのいいお母さんをイメージしていましたが、見事に裏切られました。実物のたまさんは、お子さんが2人いるのを疑ってしまうほどお若く、かわいくて元気いっぱい。
どうしても動物愛護の世界は誰かを攻撃しがち……。でもたまさんは、犬猫を遺棄してしまった人にすら配慮をし、誰も傷つかない発信をしています。それができるのは、偏りのない動物業界での経験によるものかもしれません。そして多くの方から共感を得られるのは、問題をしっかり分かっていて、その上で大事なことをきちんと伝えているからなんだろうと感じました。
ビビりの「ビビちゃん」、1年経って飛びきりの笑顔に
たまさんと暮らしている、現在新しい家族募集中の「ビビちゃん」は元野犬です。ビビちゃんは収容されて半年間、愛護センターの檻(おり)の隅っこで、痩せ細った姿を震わせていました。そこは殺処分を行っていない、つまり「殺処分ゼロ」の愛護センターです。殺処分はされなかったけれど、動物福祉的観点から野犬問題に疑問を感じたたまさん。ご自身の家に迎え、お世話をしています。
「殺処分ゼロは素晴らしいことだが、その陰にはビビのような犬が多くいて、昼間でも薄暗い施設で過ごしています。その先のケアが問題になってくる」と語ってくれました。
ビビちゃんはたまさんのもとで人を知り、人と暮らすことを一から学んでいます。おすわりや待て、ハウスも上手にできるようになりました。「野犬=懐かない」ではなく、人を知らないだけ。ビビちゃんが心を開いていく様子はインスタグラムにアップされているので、ぜひ見てほしいと思います。
「試行錯誤しながら発信をしています」とたまさん
最後に、sippoの読者さんに伝えたいことは?と聞いてみました。
「一歩外に出れば、犬も猫もいると思います。例えば、台風がまもなく上陸するときに、あの塀の上の野良猫はどこで過ごすのだろうか、庭につながれっぱなしの犬はガタガタと震えながら過ごすことは普通のことなのか? 私にとっては、それは見過ごせないことなんです。この現状を変えたくて、経験したことを絵に描いて伝える、ということを続けています。興味のある方は勇気をもって、動物愛護の問題に足を踏み入れてほしいと思います。そして疑問を感じたことに対して、みなさんができる範囲のことをやってほしいです。絵が得意な方であれば保護団体の新しい飼い主募集のイラストを描いてみるとか、活動団体のサポーターになるのもすてきですよね。私自身も言葉で言うなら保護活動なのですが、好きなことの延長で活動している気持ちがとても強いです」
そして実は、この本の売り上げの一部を公益社団法人アニマル・ドネーションに寄付したい、とのお申し出をいただきました。常日頃、寄付サイト「アニドネ」を運営しながら思うことは、寄付はお金ではあるものの、今を変えたい想いや希望がぎゅっと詰まっているものでもあります。寄付をいただいたからには、たまさんの想いをしかと受け止めて、日本の動物福祉をもっと早くもっと良く変えねば、と心に強く思ったインタビューでした。
たまさんによる初の著書『たまさんちのホゴイヌ』(世界文化社)、ぜひご覧ください。
(次回は12月5日公開予定です)
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