「シロタ」に「オイデ」 猫に名前をつけると宇宙でたった一つのすてきな生命体になる
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
竹脇家の猫たちの名前
猫を保護して一通りの処置を終え、まず初めにすること、それは「名前をつけること」だ。
庭に来ていたり、居ついていたりする「通い」の猫たちは、いつ入ってきてもいいように名前をつけているが、突然拾ってしまった場合や、そのまますぐに病院へ連れていかなければならない場合、いの一番に名前が必要になる。
病院ではカルテに書くのに必要だし、家で看病するときはいつも声をかけるので、名前がないととても困る。
竹脇家は大佛次郎ほどではないけれど、なかなかの数の猫たちが居ついたので、命名会議はどんどん時間がかかるようになった。可愛くて長生きしそうで、一つの陰りもない名前が条件だから、辞書や歴史の教科書が出てくることもしょっちゅうだった。
そしてセナのことがあってからは、「人間の名前からいただくのはやめよう」となり、なんとなく、お菓子や果物などから拝借することになった。
プリン、バニラ、シナモン、カヌレ、マフィン、マロン、しじみ、あさり、みかん、ココ(ナタデココ)、ピックル(ピクルス)、ルッコラ、イチゴ、メロン、モモなど、書き出したら原稿の大半が埋まってしまうのでやめるが、この手の名前は考えている時に可愛い色やおいしい味を思い出す楽しさがあって、家族でワイワイと盛り上がった。
でも、まだ猫が増えはじめの頃の、トラ、ミー、ムク、キキ、レオ、シマ、太郎、ノアール、ミケコ、タマなどのシンプルな名前も、とても好きだ。
名前とともに思い出がたくさん
そしてその頃の、今でも思い出しては笑ってしまう名前がいくつかある。
まず一つめは「シロタ」。真っ白い雄猫だったからシロタで、よくあるシンプルな名前だ。
けれど、このシロタはとにかくオトボケで甘えん坊で、初めての人にでもスリスリと人懐こくて、名前を呼ばれるのが大好き。そしてもちろん呼ぶこちらも、シロタが大好き。
そんな相思相愛家族だから、家のあちこちで「シロター、おいでー」と呼ぶ声がする。
そしてシロタは、お目々をキラキラさせながら声のする方にトコトコと歩いていくのだが、その後ろ姿も可愛いので別の方向からもお声がかかり、またトコトコルンルンと、シロタが歩いていく。
そのうちシロタは「シ」だけでも来るようになり、「シオ」でも「シカ」でも「シ」が初めに付けばなんでも自分の名前だと思うようになった。
それがまたかわいくて、家族で声をひそめて小さな声で「シ?」と呼んでみる。
するとシロタは、くるっと振り向いて、ニコニコニコーっと満面の笑顔を見せながら小走りでやってくる姿が、とてつもなくいとおしかった。
宇宙でたった一つのすてきな生命体
もうひとり、どんな名前も自分の名前と信じていた猫がいた。
庭にいついた三毛猫の姉妹で、最初は両方ともミケちゃんと呼んでいたが、1匹は「おいで」というと庭の端からニコニコとやってくるので、名前を「オイデ」にしちゃおう、ということになった。そしてもう1匹は、晴れて「ミケちゃん」になった。
オイデを呼ぶときはもちろん「オイデおいで」となり、名前を連呼されていると信じて疑わないオイデは、とても優しくて面倒見のいいお姉さん猫になり、新入りの大きな猫にも小さな猫にもとても親切だった。どの猫を呼ぶときも「おいで」がつくので、小柄でふわふわで太陽のにおいがしてすてきな三毛の配色のオイデは、いつもそばにいてくれた。
名前がついた途端、私にとって猫は猫ではなく、その名前の宇宙にたった一つのすてきな生命体になる。ネコ科という種族を軽く飛び越えた家族になる。
この感覚を動物と暮らしたことのない人に伝えるのは難しいけれど、この連載を読んでくれている人たちとなら、一晩中語り合えそうな気がしている。
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