猫との暮らしはいつも悲しみと隣り合わせ それでも1番幸せな時間に変わりない
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
拾ったのは生まれたての子猫
私が大学生の頃、帰宅すると母が明らかにウキウキしていた。
「どうしたの?」と言う私の言葉をさえぎって、「大変なの!今日、小さすぎる子猫を拾ってしまったの!」と母は言った。
すでに色々な処置がほどこされたその子猫は、かまぼこ形のキャリーバックの中でスヤスヤ眠っていた。
うーーーん、これはどう見ても生まれたてじゃないの。と思っていると、なんとへその緒がついていたと言う母の声。
助かるかどうかわからないけれど、とにかく名前をつけようと、あーだこーだ言いながら、「ミモザ」という名前をつけた。小さくて黄色くてふわふわでかれんなミモザ。食前に飲む、爽やかなカクテルの名前でもある。うん。なかなかいい名前。
母はミモザの状態が少し落ち着くと、いつもTシャツやセーターをまくっておなかの中にミモザを入れ、首元からのぞいては「ミーモちゃん」と呼んで、手厚すぎる看病に忙しくしていた。
そしてミモザはみんなより少し病弱な、とても甘えん坊の可愛い男の子に育った。
愛されて駆け抜けた猫生
ミモザはだいぶ大きくなっても、夏になっても、母のおなかのなかに入って眠り、母はいつも妊婦のようなおなかをさすりながら、優しい声で子守唄を歌ってあげたりしていた。
あまりにもミモザを甘やかすので、母の首元のシャツを伸ばして「ちょっとー、ミモちゃん、暑くないの?」と聞くと、母のおなかに顔をうずめ、片目だけ開けてチラっとこちら見あげる。
母は「邪魔しないでください」とニヤニヤしながら言うし、ふたりの間にはミジンコだって入る隙がなかった。唯一、ゴマアザラシの白い小さなぬいぐるみがミモちゃんの宝物で、いうなれば3にん仲むつまじく、という不思議な光景だった。
竹脇家は助けを求めてきた犬や猫たちの家だったので、病弱なミモザだけ毎年ワクチンをうっていた。動物病院からワクチン接種のはがきが来ると、母は「ミモちゃんにお手紙がきたよ」と言っては、病院へ連れて行っていた。
けれどある年、ワクチンを受けたミモザの体調が崩れた。
みるみる弱っていくミモザにできることがあまりなく、あっという間に天国に旅立ってしまった。
ミモザが旅立った原因はわからないけれど、母はワクチンに連れて行った自分を責めて責めて責め続けた。子供のように泣き続ける母に、私はかける言葉が見つからなかった。
どんな言葉もむなしく、そして何が正解だったのかは永遠にわからない。
私は絵の学校に通い始めた頃だったので、下手くそながらもミモちゃんとの思い出を絵本にして母に贈った。それが私にできる、精いっぱいだった。
悲しみと隣り合わせだけど…幸せな時間
猫たちの病気や死は、どんなに丁寧に観察していても、きちんと検診を行っていても、突然「その日」がやってくる。
そのあと獣医と相談しながら、時には別の獣医からのセカンドオピニオンに頼ったりしながら、何をしてもしなくても、どんなに頑張っても後悔ばっかりだ。
彼らが旅立ったあとは「あの時ああしていたら、ああしていなかったら、どうだったんだろう」「なんでもっと、ああしなかったんだろう」、そんなことばかり、頭に浮かぶ。
それでも自分の元にやってきた動物たちを見過ごせないから、竹脇一家の人生はいつも深い悲しみと隣り合わせだ。
病と闘った記憶は、残った薬と一緒になるべく早く退場してもらいたいけれど、毎回ものすごく苦戦する。
でも、それでもやっぱり「1番幸せな時間は?」と聞かれたら、迷うことなく「動物たちと過ごす、もしくは過ごした時間」と答える。
もっと言うと、「動物たちと目覚ましをかけずに昼寝する時間」だ。
何も考えず、日だまりで、ふわふわのぬくもりと聞き慣れた寝息に包まれた時間。
頭に思い描くだけでも手足が温かくなるのは、私だけだろうか。
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