猫の殺処分数のうち幼齢猫の割合が全体の66% 不幸な猫を増やさないためには?
ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主の暮らしにとって身近な話題を法律の視点から解説します。前回は、犬の飼い主が守るべき法令として、狂犬病予防注射の説明をしました。今回は、猫の飼い方に関する大事なルール、「屋内飼育」と「繁殖制限措置」についての紹介です。
保護猫「ゴヤール」の誕生日
元々外で暮らしていたうちのゴヤールは、「5月8日生まれ」とされています。
「されています」というのは、正確な日がわからないからです。保護して飼い始めた方が手放し、わが家にやってきたのですが、装着されていたマイクロチップのデータに5月生まれと記録されていたので、「ゴヤ」の語呂合わせで5月8日を誕生日としました。
外で生まれた猫は、生まれた日はもちろん、幼猫の時代から見ていなければ、大体の時期や月もわかりません。そういうことで、猫の出産が多いとされている5月生まれの猫は結構いると聞いたことがあります。
屋内飼育のススメ
ところで、外で暮らしている猫は、人に捨てられた猫か、屋外で生まれた猫で、これらは飼い主のいない猫といえます。他方で、サザエさんのタマちゃんのような、家の中と外を自由に行き来する猫も若干いるかと思いますが、これは昭和の古い飼い方であり、現代の日本、少なくとも都市部や住宅地においては望ましい飼い方ではないといえます。
猫にとって屋外は様々な危険があり、また、他者の財産や生活環境を損なう可能性があることから、猫を適切に飼育管理する責任がある所有者として選択すべき飼い方とはいえません。
この点、動物愛護管理法には、屋外飼育の禁止と関連した条文としては、「動物の逸走を防止するために必要な措置を講ずるよう努めなければならない。」というものがあります。
また、動物愛護管理法に基づき環境省が定めたルールに、『家庭動物等の飼養及び保管に関する基準』というものがあります。この中には「猫の所有者等は、疾病の感染防止、不慮の事故防止等猫の健康及び安全の保持並びに周辺環境の保全の観点から、当該猫の屋内飼養に努めること」と明確に定められていますが、いわゆる努力義務であり、法律上の強制力はないといえます。
屋外猫の数を増やしてはいけない
猫が屋外で飼われていても、その数が増えなければ、まだ飼い主の自己責任の範囲で収まる話かもしれません。より問題が大きいのは、その猫が不妊去勢されていない場合、同じく不妊去勢されていない別の猫と交配し、外の猫が増えていきます。
猫の繁殖力の強さについては、いろんな媒体で説明され、わかりやすいイラストなどで紹介されています。私も、以前この連載でも紹介していますし、以下のように大阪らしいユニークなものもあります(出典:ねこから目線。)。
環境省が公表する最新(令和2年度)の統計資料によれば、犬猫の殺処分数自体は10年前と比べて年間20万匹近く減少していますが、猫の殺処分数のうち幼齢猫の割合が全体の66%と非常に多く、屋外で生まれた子猫がかなりを占めていると考えられます。
不妊去勢手術も法律への格上げが望まれる
一般的に猫、とりわけ外で暮らす猫に関する問題は、人によって意見が真っ向から激しく対立するテーマが多いように感じますが、「外にいる猫をこれ以上増やさないために不妊去勢措置を徹底すべき」という点については、相当程度に共通認識が得られているのではないかと思います。
そのこともあってか、先ほど紹介した家庭動物飼養保管基準の中でも、猫の所有者は、「屋内飼養によらない場合にあっては、去勢手術、不妊手術等繁殖制限の措置を講じること。」と努力義務にとどまらない義務であると定められています。
ただ、この条文は、動物愛護管理法そのものの中には入っておらず、マイナーな存在であるため、多くの人に知られていません。2012年改正で脚光を浴びた「終生飼養」の責務も、もともとは家庭動物飼養保管基準にしか規定されていなかったものが、法律に「格上げ」された経緯がありますので、屋外猫の不妊去勢義務についても、同じような取り扱いをすべきと思います。
飼い主の権利も制限される時代に
一般的に、動物については飼い主の所有権が強く保障されており、動物愛護法令にも実質的に所有権を制限するような規定はあまり多くはありませんでした。その意味で、この屋外飼育猫に対する不妊去勢義務の定めは非常に珍しい条文といえます。
動物に限らず所有権は大事な権利ではありますが、他者の権利・利益を侵害したり、動物の生命身体が害されたりするような場面では、無制限に認められるものではなく、法令によって制限される時代になってきていると感じます。
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