一人ひとりがペットを愛し大切にすること 老いた愛犬を前に、動物福祉について考える

トイ・プードル
6月で17歳を迎える愛犬「トゥルー」。どの角度から見ても、本当にかわいい(親ばかです!)

 公益社団法人「アニマル・ドネーション(アニドネ)」代表理事の西平衣里です。私が代表を務めるアニマル・ドネーションは11年前に「日本の動物福祉を世界トップレベルに」というミッションを掲げて活動を開始しました。活動開始の頃に比べると、犬猫の殺処分数はぐっと下がりました。それは大きな変化。けれど、動物の理解が進んだか、と問われるとあまり変わっていないように感じるし、ましてや「動物福祉」という観点からは程遠い現実があると思っています。

「動物福祉」とは?

【福祉】welfare
1)幸福。公的扶助やサービスによる生活の安定、充足。(広辞苑)
2)「しあわせ」や「ゆたかさ」を意味する言葉であり、すべての市民に最低限の幸福と社会的援助を提供するという理念を指す。(wiki)

 公益社団法人日本動物福祉協会では、「動物福祉」を以下のように説明しています。
【動物福祉】animal welfare
「動物が精神的・肉体的に充分健康で、幸福であり、環境とも調和していること」

長時間の留守番や散歩に行かない飼育の仕方は犬にとっては苦痛。動物福祉は動物の生態を理解することが重要(写真はイメージです)

 犬猫においては、野生動物ではないので自分で環境を整えることはできません。共に暮らす飼い主が動物の立場になって配慮することが必要なのです。

 そういった意味で、私自身、愛犬を100%満足させられているかというとまったく自信はなく。17歳目前の愛犬は、すっかり腰も曲がり耳はほぼ聞こえず、椅子の脚にぶつかる姿を見ると心がきゅっと痛くなります。

 そんな彼が、心を落ち着けて余生を送れる環境整備は飼い主である私のミッション。まだ先のことだとは思っていますが、最期を看取るまでできる限りのことをしてあげたいと思っています。

民法改正を目指したい

 SDGsへの高まりもあり、世界的な潮流として動物福祉への関心は増しています。一流ファッションブランドが動物の毛皮を使わないことを次々と発表していますし、フランスでは、2026年までにイルカやシャチを使ったショーの禁止がフランス上院で可決されました。

イルカショー
「楽しいショー」と思うのか「囚われの野生」と感じるのか。人間側の感性次第で動物福祉の進行速度が決まる。人付き合いと同じ。相手の立場になって考えたい(写真はイメージです)

 これらの動きを考えるとき、「各国で動物がどう定義されているのか」ということが実はとても大事。日本の民法では、動物はモノ扱いです。動物愛護管理法では「動物が命あるものであることにかんがみ、何人も、動物をみだりに殺し、傷つけ、又は苦しめることのないようにするのみでなく、人と動物の共生に配慮しつつ、その習性を考慮して適正に取り扱うようにしなければならない(第2条)」と定義されています。

 簡単に言うと「動物は命があるから大事にしよう」ということまでは法律になっています。

スイスの動物
以前視察したスイスの動物保護施設。スイスでは集団で生きる種類の動物は2頭以上で飼育すべし、という動物保護条例がある。動物の生態・感情に配慮している

 しかしフランスでは、「自然保護に関する1976年7月10日の法律」(Loin 76-629 du 10 juillet 1976relative à la protection de la nature)で、動物は人間と同じく「感覚ある存在」(être sensible)と規定されています。

 動物福祉が進んでいると言われている国では、動物のサイコロジカル(心理面)を重視して向き合っています。

 そう、トゥルーが天国に行くまでには間に合わないかもしれないけれど、日本の民法を変えたいと思い始めています。こんなに愛しい犬猫たちをモノ扱いしている国ではなく、豊かな感情のある動物であることを定義した国にしたいし、なれると信じたいのです。

World Animal Protectionについて

 日本の現状を知る上で世界との比較がわかるサイトをご紹介します。「World Animal Protection(世界動物保護協会)」という組織が、世界50か国を動物福祉基準に沿ってランキングしています。対象は、犬や猫だけではなく、飼育されている産業動物や野生動物、実験動物など動物全般です。

世界地図
上位国は、緑色のイギリス、オランダ、スイス、デンマーク、スウェーデン、オーストリア。日本は下から3つ目のカテゴリー(World Animal Protectionより)

 我が日本のランキングは、7分類のうち下から3つ目の「E」評価。2020年の調査によるものなので、2021年の動物管理愛護法の改正を考えると、もう少し上位に行けるのでは?という期待もありますが、それでもまだ緑の上位国とは法整備に大きな差があります。

子猫
極端な見た目を優先した繁殖は健康を害す。マンチカンやスコティッシュフォールドなどの繁殖禁止は主にヨーロッパで進んでいる(写真はイメージです)

 サイトでは、国を選んで<比較>を選択すると自国の強みと弱みがわかる指標ページもあります。日本のプロフィール内には「このように変えるべき」といった推奨内容が書かれています。動物福祉をどのような観点で見たらよいのか、ひとつの参考になりそうです。

 ぜひ、Google翻訳さんに活躍してもらって、チェックしてみてはいかがでしょうか。

人×動物。共に暮らし支え合ってこその福祉実現

「動物福祉」が少々難解で奥が深い。しかし、難しく捉えるのではなく、今目の前にいる愛犬愛猫を理解する、そして行動することが理解への早道かもしれません。

 何万年も前から、犬や猫と一緒に暮らしてきたのはお互いに必要であるからこそ。私自身は、トイ・プードルという小さな生き物に毎日あたたかい気持ちをもらっています。触るだけで確かに心拍は落ち着くし、散歩中にちらっと見てくる目に深い信頼を感じ、とても豊かな気持ちになります。

 犬猫たちからもらうばかりではなくて、きちんとお返しすることが、動物福祉の向上になるのだと思います。目の前の愛おしいペットを愛する人が増えれば、日本全体が変わっていくと期待しています。

(次回は6月4日公開予定です)

【前の回】平和を願い、動物を愛する者として ウクライナの犬や猫たちのために出来ること

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この連載について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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