春は狂犬病予防接種の季節(getty images)
春は狂犬病予防接種の季節(getty images)

6月中に飼い犬に接種を 法律的観点から、改めて「狂犬病予防接種」を知る

 ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主の暮らしにとって身近な話題を法律の視点から解説します。今回は、狂犬病予防接種についてです。

春は狂犬病予防接種の季節

 すっかり暖かくなりました。4月は新年度、新学期、桜の季節ですが、犬の飼い主にとっては、毎年恒例の狂犬病予防注射の時期です。

 多くのSippo読者もご承知のとおり、狂犬病予防法と施行規則により、犬の所有者または管理者は、取得したときの市町村に対する登録申請義務とあわせて、毎年1回、4月から6月までの間に、狂犬病予防注射を受けさせることが義務づけられています。

毎年1回、4月から6月までの間に接種を受けさせる(getty images)

 なお、令和4年度も特例が定められ、コロナの影響によるやむを得ない事情がある場合は、12月31日までに予防接種を完了すればよいとされています。ただ、原則は6月30日までに実施するものなので、早めに動物病院などですませておきましょう。

目的は、犬を守るのではなく日本社会を守ること

 狂犬病予防法は、犬の飼い主に適用され、動物愛護管理法の次にメジャーな動物関係の法律といってよいと思いますが、犬を守ってくれる法律かというと、基本的にはそういう性質ではないといえます。

 1条に「この法律は、狂犬病の発生を予防し、そのまん延を防止し、及びこれを撲滅することにより、公衆衛生の向上及び公共の福祉の増進を図ることを目的とする。」と定められ、おそろしい狂犬病から日本社会を守る目的が明記されています。

制定は狂犬病被害が甚大であった昭和25年

 もう少し掘り下げてみると、狂犬病予防法が制定された昭和25年には、以下のような通知が出されています。一節を引用します。

「本法制定の主旨は、近年狂犬病の発生が激増し、これによる被害が甚大である状況に鑑み、本病の予防防疫体制を一層徹底強化するため狂犬病発生時における防疫措置を完璧ならしめるとともに、通常時においても本病の予防防疫体制の万全を期するため、予防防疫対象を確実に把握し、常時すべての犬に免疫を与え、我が国をして狂犬病の無毒地域たらしめようとすることにあるのであり、左記事項に留意の上、その運営に遺憾なきを期せられたい。なお本病の予防については、犬の所有者の責任自覚が第一条件であるので、新に犬の所有者に種々の義務を課した本法の施行を機として、犬の所有者の啓蒙指導に特に努力せられたく命によつて通知する。」

徹底した取り組みによって日本は狂犬病清浄国に(getty images)

 狂犬病の発生が激増し、被害が甚大であった当時の社会状況下においてできた法律であり、完璧、万全、確実、常時、すべてといった文言から、国が法律の遵守を徹底しようとしていることが読み取れます。

 このような狂犬病撲滅に向けた徹底した取り組みの結果、世界的にはアジアやアフリカを中心に年間数万人の死亡者が発生し続けている中で、日本は、1957年以降、国内での発生例はなく、世界でも数少ない狂犬病清浄国とされています。

接種率は70%を切ると想像する

 近年、狂犬病予防法はどの程度周知徹底されているか、見てみましょう。

 直近の国の統計では、令和2年度の全国における犬の登録数は609万頭、そのうち注射済みは427万頭と公表されています。この数字だけをみれば、70%強の接種率といえますが、実際には、無登録の犬も一定割合いると考えられます(ペットフード協会が毎年公表している犬の飼育頭数推計と上記犬の登録数には100万頭単位の差があります)。市町村への登録申請はしないけれど、予防接種はする、という飼い主はあまりいないと考えられることから、実際の接種率は70%よりさらに低いと考えられます。

 加えて、コロナ感染予防のため、市町村が獣医師会に委託して実施していた集団接種が軒並み中止になっています。これにより、接種率の低下が懸念されるとの報道も見られます。

違反すれば罰金、前科として残ることも

 しかしながら、狂犬病予防注射は、犬の飼い主としての基本的な義務です。道徳やマナーといった曖昧なものではなく、法律上の義務であり、法律に違反して年1回の予防注射を受けさせない飼い主には、20万円以下の罰金が科される可能性があります。

 実際、私が関わった多頭犬の虐待事案では、市町村への登録申請や予防注射を怠った飼い主に対し、裁判所が罰金の有罪判決を出しています。これは交通違反のキップ(反則金)とは違い、れっきとした刑罰なので、前科として残ります。

犬が社会の一因として扱われるために

 一方で、狂犬病予防ワクチン接種による副反応は、絶対にないとは言い切れません。厚労省のウェブサイトには、平成27年度に、468万頭の予防接種中、18件の副反応について報告があったと記載されています。ただ、そうであったとしても、予防接種をしなくてよい正当な理由にはなりません。

 予防接種による副反応リスク、予防接種を実施する獣医師・獣医師会に対する疑念などから、年1回の予防接種に反対する意見を持ち、中には実際に飼い犬に接種をさせていない人もいるかもしれません。

犬も社会の一員として(getty images)

 個人的には、そうした意見を持つこと自体を否定したり、議論すること自体を否定するつもりはありません。過去、昭和60年の法改正で、それまで半年に1回の接種であったのが、現在の年1回に改正されたことはありますので、年1回がこの先変わる可能性について否定もしません(一方で、可能性を肯定する知見も持ち合わせていません)。

 ただ、社会的な理解が得られ、法律改正がされるまでは、年1回の予防接種を受けさせないことが法律上正当化されることはないでしょう。

 大切な家族が社会の一員として扱われるために、犬の飼い主がルールを守る必要があると思います。

【前の回】法律に響き渡る悲痛な犬たちの鳴き声 長野県繁殖業者虐待事件~裁判傍聴記①

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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この連載について
おしえて、ペットの弁護士さん
細川敦史弁護士が、ペットの飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点からひもときます。
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