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猫が成長と共になつかなくなってしまった 考えられる理由と仲良くなるための秘訣

 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回は、読者から寄せられた「猫が成長と共になつかなくなってしまった」という相談に、入交先生が答えます。

はじめに

 4月、新年度も始まりました。心わくわくの季節です。

 しかし、世界に目を向けると心を傷めるニュースが入ってきて、うきうきできない自分がいます。平和な世界があってはじめて、花を愛でたときに「きれい」と感じるのだな、と考えさせられています。早く平和な世界に戻ることを祈っています。

 さて、今回も多くの猫に関するご質問をいただきました。その中から、「愛猫が成長と共になつかなくなってしまった」という質問にお答えしていこうと思います。猫が成長するほどなつかなくなっていくというのは、どういう状況なのでしょうか。

 原因が異なりそうな3名をピックアップし、まずは質問にお答えします。

パターン1 独立心が強いことでなつかない

Q1. 愛猫は、4歳半のシロキジの男の子です。子猫のころはノドをゴロゴロと鳴らしていましたが、今はまったく鳴らさなくなりました。抱っこも嫌いですぐに降りたがります。その子の性格だから、改善は無理でしょうか?(玉ちゃん大好きさん)

猫の瞳
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 ノドのゴロゴロは人に甘えるときの音と思われていますが、「今こちらに関心を向けてください、大変に弱っております」という気持ちを伝える行動であることもわかっています。

 玉ちゃん大好きさんの猫の場合は、「いまダメなのー、あなたが必要なのー」ということを、わざわざ言っていないだけかもしれません。

 また、抱っこを嫌う猫、一緒に寝てくれない猫はたくさんいます。うちにいた先代の猫も抱っこと添い寝は苦手でした。独立心の強い子と捉えることができると思います。無理して布団に入れると嫌がられるので、いつかそんな日がきたらいいな、と淡い期待をして待ちましょう。

 独立心の強い子とのコミュニケーションには、おやつをご褒美に使った「トレーニング」がおすすめです。いろいろ教えてみてください。きっと一緒に楽しめると思います。

パターン2 学習によってなつかなくなる

Q. 愛猫は体重500gの子猫の頃から飼っている女の子で、今は5歳です。病院に連れて行くたびになつかなくなり、今では顔を見たら逃げるようになりました。4匹の多頭飼いで一番弱くはありますが、猫とは仲良く寝ています。しかし私はなかなか触ることができません。賢く執念深い性格のようで、なでてほしそうに2mくらい先で床にスリスリしていますが、目が合うと逃げます。アレルギーで低タンパクプロテインしか与えられず、ご飯でつることができません。なんとか近づけるようになりたいのですが、いい方法はありますか?(花火さん)

スリスリする猫
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「お母さん=病院に連れていかれるかもしれない」と学習してしまったのですね。その子のために連れて行っているのに、寂しいですね。

 アレルギー食は種類がありますので、動物病院でほかに食べられる食事やたんぱく質に関して相談し、それを使って「近くに来るといいことあるよ」ということを教えられます。最初は、近くに来てもらうだけで、無理に抱っこしたり触ったりしないようにしましょう。「触られる=抱かれて病院かも!?」という状況では近寄ることも躊躇(ちゅうちょ)してしまうので、触らないで近くにいてもらうところから始めることが大切です。

 好きな遊びがあれば、他の猫たちを別の部屋で遊ばせている間に、仲良くなりたい猫と一緒にかくれんぼや猫じゃらしなど、好きなゲームで遊んであげてもいいでしょう。

 もし病院に連れていくのにキャリーを使われていて、入れることを嫌がったり、キャリー自体を疑うようになったりしているのであれば、中にご飯を入れるなど普段からキャリーに慣らし、「キャリー=病院」にならないような工夫も必要です。キャリーに抵抗なく入れれば、病院の印象も少し変わるかもしれません。

パターン3 そもそも人間のことが怖い

Q. 保護して1年、1歳半くらいの猫です。初めは膝に乗ってくれることもあったのに、いつの間にか近づくと逃げるようになりました。手を近づけるとクンクンはしてくれるのですが、よほど気が向いた時だけしかなでることができません。脅かしたこともなく、心当たりがまったくないのです。6匹の多頭飼いで、仲良くできる子もいますし、自分より弱いと感じたら追いかけてやっつけようとすることもあるくらいなのに、なぜかお世話をしている我が家の人間には一線を引いている感じです。どうしたら良いのでしょうか?(くるみさん)

人が怖い猫
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 人間のことがちょっと怖いのかもしれません。我々は大きいですし、高い位置から見つめられると怖いのでしょう。いろいろな刺激に対して怖がる性質は、遺伝的に母猫や父猫からもらってくることもあります。また母猫からの離乳の時期や、そのあとの経験からも不安が強くなってしまうこともあります。くるみさんのせいで人が怖くなったといよりは、もともと怖がりな性質だったと考えられます。

 無理してなでたりしようとせず、近くで美味しいおやつをあげるところから始めましょう。無理に抱っこやマッサージはしないでいるとよいかと思います。猫の方から距離を縮められるように、人は寛大な心で待ってあげましょう。

終わりに

 子猫のときは比較的新しいものに対して心を開きやすいのですが、大人になると、怖いものは怖い、と認識し表現できるようになります。

 成長と共に慣れなくなったというよりも、おそらく子猫のころから神経質な性質は見え隠れしていたと思います。猫が成長したことで神経質さが明確に現れ、そのことに気がついたら、ゆっくりゆっくり時間をかけて「大丈夫」ということを教えていきましょう。

「人に対してなつかない=その人がちょっと怖い」ということなので、無理に仲良しになろうとせず、猫のペースに合わせていただきたいと思います。

 焦らないこと、強引にならないことが成功の秘訣です。

(次回は5月8日公開予定です)

【前の回】猫と人の知恵比べ してほしくないことは“させない環境づくり”で解決する

入交 眞巳
獣医師。東京農工大学 特任准教授。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。

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この連載について
ねことの暮らし相談室
 獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が、どうやって猫と幸せに暮らすかのヒントとともに、猫たちの困った行動への疑問に答えていきます。
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