愛猫がほとんど隠れて出てこない、姿を見ない 「家庭内野良猫」との上手な付き合い方
猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。今回は「家庭内野良猫」について、入交先生が答えます。
姿を見ることすら珍しい
寒い毎日ですが、先日梅の木にたくさんのつぼみがついているのを発見しました。春の足音がちょっとずつ聞こえてきています。猫も柔らかくなってきた日差しのなかで、丸まってうつらうつらしています。うらやましい……。
さて、今回はこんな相談が届きました。
Q 10歳前後と思われる、野良猫で保護された成猫(メス)を譲り受けました。とっても怖がりで、家に来てから約半年、ほとんど家庭内猫野良猫状態で、日中姿を見ることが珍しいくらいです。先代の猫はとても甘えん坊だったので、寂しさもあり、また愛猫自身もストレスが多いだろうなと想像し悲しくなります。
ずっと隠れている猫の気持ち
猫さんがずっと隠れているのは、おそらく人のことが不安で怖いからだと思います。今まで立派な外猫として生き抜いてきた子です。人への恐怖心があって、人と絶妙な距離感を取れなければとっくに捕まっていたか、事故にあっていたことになるので、うまく人から距離をとることのできる子だったのでしょう。
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人と距離をとる理由は、猫さんにとって、基本的には人という動物がわからないからです。不安や恐怖という気持ちからになりますが、ほかにも、社会化期といって人やほかの動物に慣れる子猫の時期に、人とのフレンドリーで温かい接触があまりなければ、その後もずっと、人は恐怖の対象になってしまうものです。
薬を用いて改善していく方法
それでも猫は、野生動物ではなく家畜化された動物です。1万年前くらいから人と一緒に仕事をするようになり(食物貯蔵庫のネズミ退治仕事)、人に慣れる要素を持った子たちが今の猫になってきました。野生動物ではないので、人に慣れることのできるDNAは組み込まれているはずです。でも、性格的に不安が強い子もたくさんいます。
距離を詰めるにはかなり丁寧な、時間的にもゆっくりとしたアプローチが必要です。また、あまりにも性質的に不安傾向が強いようであれば、不安を緩和する薬を使いながら「人は怖くないよ」ということを教えた方が、人も猫も楽かもしれません。
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不安を緩和する薬は、猫をゾンビにしてしまうような、眠りっぱなしにするようなものではないので、動物病院にご相談ください。もし薬が必要で、専門知識がより必要なら、獣医動物行動学の専門の獣医さんをご紹介いただいてもよいかもしれないですね。今回の場合も、半年以上姿を見せないくらい慎重な不安の強い猫さんなので、考えてみてもいいと思います。
穏やかに「待つ」ことを大切に
不安傾向の強い猫さんには、とにかく無理強いをしないことが大切です。一生懸命距離をこちらから縮めるのではなく、猫さんからくるのを待ってあげてください。
テレビを見ているようなときに、猫さんの隠れている場所の近くに好物を置いて様子を見ます。おいしいおやつを食べている間、人は何もしないし、驚かさない動物だよ、と教えてあげます。抱っこやブラッシングは、今は必要ありません。まずは穏やかに待つことから始めましょう。
家庭野良猫になってしまっている保護猫ちゃんは意外にも多いもの。私の愛に落ちるのは何年かかるか、のんびり攻略していくつもりで、時間をかけてあげてください。
ちなみに私が最初に保護した猫は、布団の中に入ってくれるまで9年かかりました! それも武勇伝として語れます。今までの猫さんがベタベタだと、猫さんがいるのにさわれないのはなかなかキツイのですが、違う楽しみ方、遠くから愛でる楽しみ方で、猫愛を伝えてあげてください。
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