これからの動物園のあり方とは どんな目的や役割を持つようになる?
ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点から解説します。今回は、動物園についてです。
動物園そのものを対象とした法律はない
今回は、ペットの次に身近に感じられる動物の一つとして、動物園やそこで飼育されている動物について、法律の観点から整理してみたいと思います。
実は、動物園そのものを対象とした法律はありません。私も最初にこの事実を知ったときは意外に思いました。
動物園は、「博物館法」という法律の中では、自然科学などの資料を展示する施設の一つとして位置づけられ、教育委員会の登録を受けるものとされています。ただ、条文の中に「動物園」の文言はありません。「博物館」と聞いて一般的にイメージするのは、模型、史料や絵画などが展示されている屋内の施設ではないかと思いますし、また、この法律に基づく登録は義務ではないので、博物館法の登録を取得している動物園は、ほとんどありません(平成25年10月現在で2園)。
また、動物園は、国や地方自治体が設置する都市公園の中の「公園施設」として、広場や休憩場、遊戯施設などと並んで条文に例示されています。ただ、これも公園施設の一部としての扱いにすぎず、また、私立の動物園は対象外です。
動物園はペットカフェと同じ法律で規制
動物の取り扱いに関する法規制について、営利目的の動物園は、動物愛護管理法の第一種動物取扱業者として、都道府県などへの登録が必要とされています。ペットショップや、動物カフェなどと同じ法律による規制の対象となっていることには、若干違和感があるかもしれません。
また、多くの動物園では、愛玩目的では飼えない「特定動物」や、日本の生態系に影響を及ぼす「特定外来生物」に該当する動物を飼育管理していることがあり、それぞれの法律に基づき飼育許可を得る必要があります。
ほかにも、動物園で飼育管理されている動物たちには、種の保存法、鳥獣保護法、文化財保護法、家畜伝染予防法など多くの法令が関わっているものの、動物園そのものを対象とし、動物園の目的や役割を明記した法律はいまだありません。
これからの動物園のあり方は
そこで、動物園の公的機能や社会的な位置づけを明確にする活動が展開されています。
平成25年度には環境省において専門家による検討会が設置され、平成26年3月、『動植物園等の公的機能推進方策のあり方について 平成25年度報告書』が公表されています。報告書には、「動植物園等の公的機能の取り組みを促す法制度の検討」にも触れられています。
さらに、地方自治体の動きとしても、札幌市において、「動物園条例」を令和3年度中に制定することを目指している旨が公表されています。札幌市は、犬猫の幼齢販売(いわゆる8週齢規制)について、動物福祉の観点を明記し、国の法律に先駆けて独自の条例を制定したこともあり、今回の動物園条例についても注目されます。
動物園は、野生動物を外国から気候の異なる日本に連れてきて見せ物にするものであり、また、インターネットや映像ソフトを通じてリアルな野生動物の映像が容易に入手・閲覧できる環境が整っていることや、そもそも、昭和の時代とは違って一般市民の娯楽は多様化していることなどから、動物園の存在意義は薄れているのではという指摘もあるかと思います。
私企業であれば営利のみの追及、自治体運営であれば予算の問題などにより、獣医師などの専門家の関与がなく、動物福祉の観点から問題が多い、動物園とは名ばかりのところも確かに一定数あります。こうした業者や施設については早期に改善を図り、改善の見込みがなければ、時代に合わない、あるいは役目を終えたということで淘汰(とうた)されるべきことには、大きな異論はないかと思われます。
一方で、かつての娯楽施設・見せ物的施設から脱却し、動物園の公的機能を確立させ、動物の「環境エンリッチメント」を考えた施設運営を行うなど、時代の流れに沿った新しい動物園を目指そうとする関係者の努力については、十分理解できるところだと思います。
動物園のあり方については、人によってさまざまな意見があるところだと思います。個人的には、簡単に答えを出せるテーマではなく、勉強を続けていきたいと思います。
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