保護犬や保護猫の譲渡、トラブルになるケースも 契約書を作成しよう

なでてもらう犬
保護動物の譲渡に伴いトラブルになることも

 ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点から解説します。今回は、保護犬や保護猫の譲渡時のトラブルについてです。

保護動物の譲渡でトラブルも

 ペットの事件ばかりをやっているわけではないのですが、sippoでこうした連載をさせていただいていると、犬猫をはじめ、動物に関するさまざまな事件の相談をお聞きします。その中でも、たくさん寄せられる相談類型の一つとして、保護動物の譲渡に伴うトラブルがあります。

 あらためての説明は不要かもしれませんが、保護動物の譲渡とは、動物を一時的に保護している人が、知り合いや不特定多数から新しい飼い主を募り、申し込みのあった人の適性を判断した上で、動物を譲り渡すというものです。かつては、飼っている犬猫に子が産まれたからもらってほしいと近所の人や地元広報誌に掲載するなどが主流でしたが、インターネットの普及・発達とともに、譲渡先を募集を仲介する専門サイトができ、こうしたサイトに登録することで、不特定多数の、動物を引き取り取りたいと思って探している人に情報を届け、マッチングができるようになりました。

 申し込み時の内容にうそがありそれが譲渡後に発覚した、保護主に連絡もなく勝手に別の人に渡してしまった、思ったような飼い方をしてくれない、お試し期間中なのに返してくれない、といった内容が典型です。ひどいケースになると、譲渡した相手が動物をみだりに殺傷したとか、複数の保護主から譲り受けた動物が短期間で忽然といなくなった、ということもまれにあります。

引き渡し完了後は口出しできない

 動物を保護した人から引き取りを希望する人に譲渡し、引き取りを希望する人がこれを譲り受ける行為は、法律上は「贈与契約」として、動物の引き渡し完了によって契約は終了します。それ以降は、原則として、保護主は譲渡先が動物をどのように取り扱おうが、基本的に口出しはできなくなります。

 完全室内飼いのはずだったとか、譲渡先が動物病院で不妊去勢手術をすることが条件であった、としても、口頭での話だけでは、譲渡先にそのようなやりとりを否定された場合、対外的に証明することが難しくなります。

 一方、譲渡された側としては、善意で引き取ったのに飼い方について必要以上に口出しされたくないう思いがあり、動物を引き渡すまでの間に、保護主と譲渡希望者の思いや認識にギャップがあると、後々トラブルになりがちです。

トラブルを避けるため契約書を

 こうしたトラブルを避けるために、保護動物の譲渡契約書(負担付贈与契約書)を作成しておく必要があります。契約書のひな型について、今回インターネットで検索したところ、以前に比べて、必要事項が記載された適切なものがいくつかありましたので、こうしたものを参考にして保護主の方で準備するとよいでしょう。

 主なポイントとしては、次のとおりです。

  • 譲渡動物の特定(年齢、性別、犬種・猫種、特徴など。写真もあるとよい)
  • 所有権の移転時期。お試し期間を設定する場合はその期間と、お試し期間中の所有権は保護主にある旨を明記
  • 申し込み時に申告した事実に誤りがないことの確認
  • 譲渡先に守ってもらいたい項目。それぞれのケースで異なるかと思いますが、終生飼育、ペット禁止物件で飼わない、第三者に譲渡しない(万が一飼育困難になったときは連絡する)、完全室内飼い、不妊去勢未了の場合は実施時期、などを盛り込むことが一般的でしょう。
  • 譲渡先が守るべき項目に違反したときの返還約束

 なお、契約書を作成することは必要ですが、契約書があれば十分というわけではなく、不幸にもトラブルになったときに備えるものです。基本的には、譲渡希望者が適性であるかを見極めることが大切であることはいうまでもありません。どうやったら見極められるのか、これをやっておけば問題ないというものがないのが悩ましいところですが、経験者に教えてもらったり、インターネットなどで調べたり、観察力・コミュニケーション能力を磨くことで、自分なりのノウハウを身につけていただければと思います。

緊急レスキュー時にも契約書を

 一方、譲渡の前の段階で、保護団体などが多頭飼育の飼い主や業者から保護を依頼された場合については、契約書を取り付けることはそこまで意識されてこなかったかもしれません。元の飼い主は困っている状態で、保護してくれる団体に感謝こそすれ、異議を述べてトラブルになることはないとも考えられるからです。

 しかしながら、緊急的なレスキューに入った場合などは、混乱の中で了解を取り付けて持ち出した後に、一晩経ったら飼い主の気が変わり、返還を請求されることもあります。押しかけられて強引に持っていかれた、勝手に盗まれた、と言われるリスクさえあります。こうしたトラブルを避けるために、これまでも「所有権放棄書」を取り付けることが推奨され、ある程度は定着してきたように思われます。

 ただ、法律上は、元の飼い主が所有権を放棄すると、「無主物」といって、誰の所有でもなくなってしまいます(「無主物先占」により、放棄後その動物を占有した者、基本的には動物を保護した者が所有権を取得しますが、わざわざこのような複雑なプロセスで所有権を取得する意味はありません)。厳密には、元の飼い主に「放棄」させるのではなく、元の飼い主から、保護団体または個人が「譲り受ける」形の契約書にするのが適切といえるでしょう。

【前の回】動物虐待をなくすために 市民や民間団体ができることとは?

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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この連載について
おしえて、ペットの弁護士さん
細川敦史弁護士が、ペットの飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点からひもときます。
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