本当に怖い犬や猫の歯周病、心臓病を引き起こすことも 予防策をセミナーで報告

 犬や猫の歯周病と聞くと、あまり大変な病気だというイメージはないかもしれません。しかし、実は心臓病などの全身疾患を引き起こす可能性もあり、健康に重大な影響を与えます。さらに2,3歳以上の犬は80%、猫は70%が歯周病になるといわれるほど、身近な病気なのです。

 そんな犬や猫の歯周病対策などを報告する「いなばペットフード 歯と歯茎の健康セミナー」が9月7日、帝国ホテル(東京)で開催され、オンラインでも同時配信されました。日本小動物歯科研究会会長でフジタ動物病院院長の藤田桂一先生、日本小動物歯科研究会理事でセンターヴィル動物病院院長の幅田功先生が登壇し、最新の研究や事例が報告されました。

歯周病対策としてカテキンの研究に注力

 開会のあいさつでは、主催のいなばペットフード株式会社の稲葉敦央社長が登壇。同社では長年、犬や猫の健康を考え研究・開発を行っており、特に、歯周病対策に関しては力をいれています。

「32年前にお茶のポリフェノール成分のカテキンに注目し、大学の研究機関と研究を行ってきました。カテキンは歯周病の原因となる細菌に有効なだけでなく、糞尿臭の軽減など日常生活に役立ち、また腸管の悪玉菌の排除など、ペットの健康にも役立ちます。本セミナーが、ペットの健康に大きく影響する口の病気の問題について学ぶ機会になればうれしい」と語りました。

口の中はうんちより汚い 小型犬は注意!

 基調講演では、藤田先生が「犬と猫の健康な口腔(こうくう)を目指して」というテーマで報告をしました。

「犬や猫の口の中では、1日あたり約1000億個もの細菌が増殖しています。口の中は常に唾液(だえき)などでぬれた状態で、温かいので、細菌が繁殖しやすいのです。うんちと口の中では、口の中の方が汚いと言われることもあるくらいです。これらの細菌が繁殖して、歯周病を引き起こすのです」

 藤田先生によると、歯周病や歯肉炎が犬や猫の手術・入院理由の中で一番多く、身近な病気だそうです。特に、犬は小型犬が要注意だといいます。

「日本で多く飼われている小型犬は、あごの形に対して、歯が大きく、歯と歯の隙間が狭いです。そのため、歯垢(しこう)や歯石がたまりやすく、歯周病原性細菌が増えてしまうのです」

犬の歯の説明
短頭種は構造的に歯と歯の隙間が狭いので、歯周病になりやすい

口の中だけではなく、全身の病気になる可能性も

 そもそも、歯周病とは「歯肉溝に歯垢がたまって炎症を起こし、歯周組織が壊されてしまうこと」。それを放置してしまうと、どうなるのでしょうか。

「歯根のまわりで炎症が進行し、あごの骨の炎症を引き起こして、さらにそれが歯茎や口腔の粘膜に達し穴があいてしまう内歯瘻(ないしろう)や、顔の皮膚を突き破って貫通してしまう外歯瘻(がいしろう)など、あごのまわりの疾患を認めるようになります。

 さらに歯周病は口まわりだけでなく、全身疾患に広がる可能性があります。歯周病の放置が続くと、口腔の粘膜から細菌が血管に入り込んで、全身に広がり、糸球体腎炎、心臓疾患、肝臓疾患などを引き起こすことが、研究で明らかになっているんです。歯周病がいかに怖いかがわかりますよね」

講演する獣医師
日本小動物歯科研究会 藤田桂一会長

無麻酔の歯石除去や硬いおやつに注意

 歯周病予防のためには、歯垢・歯石除去とデンタルホームケアが有効と藤田先生はいいます。

「ただし、最近、無麻酔で歯石除去を行い、トラブルや事故につながるケースが多発しています。無麻酔による歯石除去は、歯面や歯肉などを傷つけるばかりでなく、歯と歯茎の間の歯周ポケットの中の歯垢・歯石は除去できないために、絶対に避けるべきです。国内外の学会でも推奨されていません」

 また、歯が折れてしまうトラブルも増加しているそうです。「一般的には硬いペットフードやデンタルケアグッズを与えると、健康な歯になると思われているかもしれませんが、誤解です。それらによって歯が折れてしまうこともあるので要注意です。そういった観点で、ソフトなウェットタイプのもののほうがいいこともあります」と警鐘を鳴らします。

歯によくないものの紹介
特にヒヅメは危険。骨や石なども事故も多い

 では、歯周病を予防するにはどうしたらいいのでしょうか。「一番大事なことは飼い主さんのデンタルホームケアなんです」と藤田先生。なかでも「歯磨きに勝るものはない」といいます。ケアを続けるポイントとして、おやつなどのご褒美を用意することや、優しく声をかけてリラックスをさせること、嫌がるならば無理をしないことなどを挙げました。

猫の歯周病は気付きにくく重篤化しやすい

 続いての基調講演では、幅田先生が登壇し、主に猫の歯周病について解説しました。

「猫の口腔内疾患の大きな問題点のひとつは、猫は口腔内の状態が悪くなっても、痛がらずに普通にものを食べてしまうことです。普通に食べるので、飼い主さんはそんなにひどいものと思わない。口が臭いな、と気付いた時には、すでに何年も放置してしまっているので、重篤化しやすいのです」

猫の歯周病の事例
長年放置された歯垢や歯石により、細菌が増殖し、重篤な歯周疾患に

 また、口腔内疾患の治療で注意してほしい点として、幅田先生も全身麻酔が必要であることを強調します。「麻酔をしないといけないのは、痛がるとなかなか治療ができないからです。犬と猫を押さえつけることで、歯面や歯肉などを傷つけるほかに、歯を折ってしまったり、股関節の脱臼を起こしてしまったりすることがあります」

 飼い主が麻酔を怖がって、拒否することもあるといいます。しかし、今の麻酔の危険性は大変低くなっており、事前の検査や健康チェックをしっかりするので、高齢でも全身麻酔することが珍しくないそうです。

講演する獣医師
日本小動物歯科研究会 幅田功理事

犬や猫の健康を考えていきたい

 質疑応答で「歯周病の改善で寿命は延びるか?」という質問に対して、藤田先生から、毎年スケーリングをしている犬は死亡リスクを20%近くも減らせることができるという論文が紹介されました。幅田先生も「皆が歯周病ケアをしたら、あと2年くらい平均寿命が延びるのではないか」と答えました。

 稲葉社長は、カテキンによる歯周病菌の減少についての特許を取得したことを報告。今後もメーカーとして犬や猫の健康を考えていきたいと話しました。

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