都市伝説ではない「里親詐欺」 2カ月半で猫17匹引き取り

 ペットや動物の事件に関わっているという話をすると、「どうしてペット問題に関わるようになったんですか?」という質問をよく受けます。初対面の方に「どーも弁護士です~」というと「専門は何ですか?」と聞かれるのと同じくらい、または、飲み屋で「とりあえずビールで」と注文するのと同じくらい、ありがちです。

 そういうときのこちらの答えも決まっています。というのも、ちょうど今から10年前、大阪で発生した猫の里親詐欺事件に関わったことが、ペ弁のはじまりといえます。

「里親詐欺」というのは、ご存じの方も多いと思いますが、犬や猫などの里親として「一生きちんと育てます」と言って信用させて引き取っておきながら、実際にはまともに飼わず、譲渡した動物はすぐにいなくなる、という不思議なケースのことをいいます。同時期に複数の里親希望を出し、譲り受けているというパターンが典型です。

 動物がいなくなった理由が、虐待して殺すなど証拠が残っていることもまれにありますが、たいていは「逃げた」「病気で死んでしまった」「保健所に連れていった」と言い訳をされ、裏づけが取れず実際の行方はわからないことが多いです。警察の捜査によっても明確な手がかりが見つからず、どうして短期間で何匹もの動物を集めていたのか、真相はわからないこともあります。

 私が最初に関わったその里親詐欺事件では、高層階のワンルームマンションに住む1人の若い女性が、2カ月半の間に、9人のボランティアから17匹の猫を別々の機会に譲り受けていました。ちなみに、この女性は、法廷では、合計で30~40匹の猫を譲り受けたと証言していました。

 猫の里親詐欺事件は、ボランティアの現場ではおそらくそれまで(2004年以前)にもあったと思われます。ただ、渡した側も「あなたも不注意だ」とボランティア仲間から強く責められ、また、猫の幸せを思って譲渡したことが逆に苦しめた――という良心の呵責もあり、里親詐欺の被害にあったことをなかなか言い出せなかったのではないかと思います。

 ほかにも、里親詐欺にあった――という訴えの中には、保護主が期待していたのと違う飼い方をしているというものや、譲渡後に連絡が取れなくなって飼育状況がわからないといった、それだけでは里親詐欺とは断定できないものもそれなりに含まれていたと思われます。

 そのため、里親詐欺は「そういう事件があるらしい」と言われているけれど、絶対にあるとは言い切れない「都市伝説」のような存在であったかもしれません。

 それが、インターネットの普及によって、里親募集サイトを通じてメールで連絡を取り合うことから証拠が残りやすくなり、また、同じ里親希望者から連絡があった被害者の掘り起こしもしやすくなったことで、それまでに比べて里親詐欺がバレやすくなりました。

 大阪の事件でも、2カ月半で9人から17匹を同じワンルームマンションに受け入れている、それなのに、部屋の中で他の猫を見たボランティアはほとんどいない、という客観的な状況から、裁判の準備段階で、まともに飼育しているとは考えられないことを浮き彫りにできました。そして、複数の被害者たちが精神的に支え合い、初めて裁判という公の場に出て、被告に十分な反論の機会も与えた上で、公平中立な裁判所が証拠に基づき「判決」という形式の中で「里親詐欺」の事実を認めました。この事件は、その点で大きな意義があったと思います。

 保護猫を譲渡したボランティアが、里親詐欺にあったとして集団で慰謝料を請求する訴訟をおこし、これが認められた珍しい判決だったからと思いますが、代表的な判例雑誌にも取り上げられ、また、判決の全文が最高裁のホームページにも掲載されています。

 里親詐欺は、もはや都市伝説ではないことはもちろん、望ましいことではありませんが、決してレアケースでもないといえます。

 私自身、その後に5、6件は里親詐欺事件を扱いましたが、刑事手続で罰金とされ、民事訴訟で里親詐欺の事実や損害賠償が認められています。犬や猫の里親探しをする人たちは、里親詐欺事件が実際にあることを頭の片隅に入れて、万が一にも被害にあうことのないように、細心の注意を払い、慎重に新しい飼い主を探す必要があるでしょう。

2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。ペットの法と政策研究会代表、ペット法学会会員。

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