ザラザラの舌先は空洞になっていた ネコがもつ「舌」の秘密

猫の舌
舌先をマイクロCTで拡大すると空洞があることがわかった

 ネコの生態を研究論文から科学的に読み解く本連載。第3回はネコの「舌」について調査した論文をご紹介します。

 ネコはきれい好きと言われています。よく自分で自分の体をなめて、毛のお手入れをしていますよね。お手入れ中の愛猫・スカイに手を近づけると、なんとなく流れで(?)なめてくれることがあります。しかし、ざらっとした舌で何度もなめられるうちに、だんだんと肌が痛くなってしまうことも。ネコの飼い主さんであれば、誰しも経験があるのではないでしょうか?

まるでストローのような構造の舌

 今回ご紹介する論文の著者であるアメリカ・ジョージア工科大学の研究チームは、ネコの「舌」がどのような形をしていて、どんな機能を持ち合わせているかを調べました。

 ネコの舌には角質でできた糸状(しじょう)乳頭と呼ばれる突起があります。1982年に発表された論文では、突起は三角コーンのようにとがっており、この突起を使い毛をブラッシングしていると考えられていました。しかし、研究チームが最新技術のマイクロCTを使い、突起を細かく観察すると、なんと突起にはストローを縦半分に切ったような空洞があることがわかったのです。

 またイエネコだけでなく、その他のネコ科動物(ボブキャット、クーガー、ユキヒョウ、トラ、ライオン)も同じような空洞のある突起を持っていることがわかりました。

 ネコは起きている時間の約24%を毛づくろいに費やすと言われています。(ちなみにネコは通常14時間ほど眠っているので、起きている10時間の24%=2.4時間も毛づくろいをしていることに!アゴが疲れそうです。笑) 

 主にノミや抜け毛の処理のために行いますが、毛に唾液(だえき)をつけることで発生する気化熱により、体温調節の機能があるとも考えられています。

 そこで研究チームは、新たに発見した突起が、ネコの体温調節にどのように作用しているのかを調査しました。 3匹の飼いネコを対象に、自分の毛を手入れしている姿を高速ビデオ撮影したのです。

すると、ネコのグルーミングには4つの段階があることがわかりました。まず、舌を口の外に伸ばす「伸張」、そして横に伸ばす「拡張」、続いて舌に力をいれて対象物に接する「払拭」、最後は出した舌を口内に戻す「収縮」です。

黒猫
あまりグルーミングをしないタイプの愛猫スカイ。舌自体は長いです

 続いて、この「払拭」フェイズを調査するため、舌と毛の再現装置(グルーミングマシン)を設計し実験をおこないました。

 ネコの毛はまるでダウンジャケットのように空気を含んでいます。舌を使いグルーミングするためには、その空気をふくんだ毛を押し下げる必要があります。研究チームはそれぞれのネコ科動物の毛の長さを調査し、毛の圧縮率を調べました。

 チーターやヒョウは毛が短く、手入れが簡単でしたが、ペルシャなどの長毛種は乳頭が皮膚に到達できないため、自身のグルーミングだけでは手入れが難しいということがわかりました。長毛種の飼い主さんは、ブラッシングをこまめにしてあげるとよいようです。

画期的なブラシの開発

 ここで終わらないのが、この論文の面白い点です。なんと研究チームは、このネコの乳頭の3Dモデルを用い、3DプリンターでTIGRブラシ(the tongue-inspired grooming brush)を作成しました。

猫の舌
ネコの舌を3Dプリンターで再現したTIGRブラシ

 このTIGRブラシで毛をブラッシングすると、ひっかかりが普通のブラシの半分以下になりました。乳頭が流線形で、さらに空洞があることで毛への抵抗が減少したと考えられます。またブラシに付いた毛の掃除も簡単でした。

 著者は、ネコの舌から発想した新しいブラシの開発は、ネコアレルギーの解決につながり、さらにはソフトロボティクスへの応用できる可能性があると述べています。

 ざらりとしたネコの「舌」をここまで細かく調査した研究チームの探究心にほれぼれします。

 今回ご紹介した論文 “Cats use hollow papillae to wick saliva into fur”

イラスト:長崎訓子(ながさき・くにこ)

【前の回】ネコのゆっくりとした「まばたき」の秘密 愛情表現だという逸話は科学的に本当だった!

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服部 円
編集者・研究者。武蔵野美術大学卒業後、ファッション誌の編集者を経てフリーランスに。 2011年にWEBメディア「ilove.cat」を立ち上げる。2021年、麻布大学で修士号(動物応用科学)を取得。現在は京都大学野生動物研究センターの博士後期課程に在籍し、ネコとヒトとの関係について研究を行っている。Instagram @madokahattori

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この連載について
ネコ研究最前線
京都大学野生動物研究センターに在籍中の著者が、ネコにまつわる最新の論文を紹介しながら、ネコ研究の面白さを伝えていきます。
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