捨てられた犬を保護し、生きづらさ抱える若者が世話 ともに次の一歩踏み出す取り組み

「お互い助け合っていこうぜ!」そんな掛け声が聞こえてきそうなハイタッチ。キドックスのシェルターでの風景

 公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。私は動物関連の仕事をしておりますので、毎日犬猫のことを考えます。かわいいや癒やしといった言葉では到底表現できないほどの「犬のすごいチカラ」を目の当たりにします。犬と人が支えあうときの効力に感嘆しっぱなし。今回は、一度は人間の勝手な都合で捨てられた犬たちが、発達障害や引きこもりといった生きづらい環境にある若者たちを支える仕組みをご紹介します。

(末尾に写真特集があります)

犬も人もゴールを目指して集う場

 茨城にある認定特定非営利活動法人「キドックス」。キッズ×ドックスという造語です。キドックスさんは『いぬのいえ』という自立に悩む若者たち向けの自立支援プログラムに取り組んでいます。これまで、発達障害や引きこもりなどの生きづらい事情を抱えた若者たちを63名受け入れてきました(2021年6月時点。相談者は約260名)。63名の多くは10代~30代で20歳前後が最も多く、8割が学生時代に不登校を経験し、引きこもり期間は6カ月~10年以上だそう。

 そして、ここに集うのは人間だけではなく、主に茨城県の動物指導センターからレスキューされた殺処分予定だった犬たちがいます。見た目も性格もとても個性的な犬たち。保護された時点では、当然精神面も健康面も良くない状態の犬たちが多くいます。若者たちは、そんな犬たちのお世話やサポートをすることによって自信や人とのコミュニケーションを学び、社会への一歩を踏み出すことを目指すのが『いぬのいえ』なのです。若者は就労につくことがゴール、犬たちは新しい家族を見つけることがゴール、です。

保護犬たちのシェルター。主に茨城県動物指導センターから保護。最初は状態が良くない子が多いため、医療や食事やサプリなどで身体の状態を整えるところから始まる

犬を送り出したことが自信に

 現在通所しているSさん(20代男性、2020年10月から参加)は、この半年で大きな一歩を踏み出しています。もともと好きな犬たちのために何かをしてあげたい、という思いを胸にキドックスの扉をたたいたそう。

「キドックスでは、犬たちの散歩や犬舎の掃除、健康チェックにケアやトレーニングをしています。犬たちが新しい家族と出会い、コミュニケーションをとりながら一緒に暮らしていけるように、オスワリやマテ、オテなどの練習をします。そのトレーニングの成果もあり、自分が今まで担当してきた『まろん』と『つくね』と『ゆき』の3匹が無事に新しい家族と出会うことが出来ました」

Sさんと犬のトレーニングの様子。アイコンタクトをとりながらの散歩はノンバーバルコミュニケーションが身に付き、それは人間社会でも役立つスキル

 Sさん、最初の頃は犬の接し方がうまくいかず落ち込んだり、何で出来ないんだろうと自分を追い込むことがあったそうです。しかし、スタッフさんや一緒に活動している方々のアドバイスや手助けもあって、担当した3匹の犬たちを幸せな家庭につなぐことができ、少しずつ自信になったと話してくれました。

 当然ですが、犬は人間の言う通りにはなりません。ましてや、一度は人間に裏切られた過去を持つ保護犬たち。一筋縄ではいかないことは容易に想像できます。Sさんから同じような境遇の方へメッセージをもらいました。

「自分は今まで働いたことがなく、新しい場所に行くと不安になるので、いつも嫌なことから逃げていました。ですが、頑張ってキドックスに入ってからは、一緒に活動している方々と周りのスタッフさんの助けをもらいながら活動していくうちに、まだ少しは残っていますが不安が徐々になくなってきました。今は不安から逃げずに頑張って良かったなと思っています。なので、一人で抱え込まずに、周りの人や親しい友人に頼ってみると少しでも不安が楽になると思います」

Sさん。最初は週3日の通所でしたが今では週5日通所できるように。今後の目標は犬たちの様子をよく観察して犬の気持ちをもっと理解できるようになることだそう

自分なりに人とやり取りできるように

 もう1名お話を聞きました。Uさん(20代女性、2018年8月から参加)は自分を変えたくて、キドックスに3年通っています。

「私は人と関わることが苦手です。言葉がうまく出てこなかったり、相手の様子をどうしてもネガティブに捉えてしまうのです。自分が発した言葉を相手がどう受け取るのだろうという不安と、嫌なことを言われるのではないのかという恐怖が常にありました。このような自分の気持ちを周りに話すことができず、ただただ時間だけが過ぎていきました。自分はなにも変わらないのに、周りはどんどん変化していく。焦りもありましたが、諦めの気持ちの方が大きかったです。

 そんな中キドックスに通い始め、少しずつですが自分なりに人とやり取りをすることができるようになりました。話すことに緊張したり、相手の言動や行動を気にし過ぎてしまうことは変わりませんが、そんな自分でも受け入れてくれる人たちがいるということを実感しています。今はキドックスの中で、精いっぱい自分のできることをやりたいと思っています」

 Uさんは、最初の1年間は販売用の犬の木のオモチャを作成し、その後保護犬のお世話やトレーニングを担当しています。通所のきっかけはUさんのお母様のすすめだったとか。通い始めてからの自身の変化として、人とコミュニケーションが取れるようになってきた、と語るUさん。それは大きな変化だったに違いありません。『自分は自分、人は人』、こんな気持ちがキドックスの活動で芽生えてきそう。

 トレーニングしてきた犬たちは、外の刺激に興奮して引っ張りが強くなってしまう犬、車や自転車が苦手な犬、他の犬や動物に過剰に反応してしまう犬、色々な犬がいたそう。もしかしたら、そんな個性豊かな犬たちに自分自身を重ね、自分を認められるようになってきたのかもしれません。

Uさんからメッセージです。「何かに迷っていたとしたらキドックスに見学に来てみてください。犬のお世話のほかに木工作業などの手先を動かす作業などもあります。もしかしたら自分に合うものが見つかるかもしれません」

おもいやりや共感性が育まれていく

 キドックスを立ち上げた代表理事の上山琴美さんにインタビューをしました。

――なぜ保護犬なのでしょうか?

 上山さん:「キドックスを利用する若者たちは『誰かから支援される』ためではなく、社会の一員として他者を『支援する側』として参加しています。一般的なセラピードッグ活動では犬とのふれあいを通じて癒やしを得るという『サービスや支援を受ける』という状況が多いかと思いますが、キドックスでは子供や若者たちが社会に貢献するために参加しているため『犬を保護して支援する』ことが、彼らの自己肯定感や自己効力感を育むためにとても重要な意味を果たしています。

 また、恵まれない状況にいることが多い保護犬たちは、時に若者たちの境遇と重なることもあり、保護犬が今を生きて、温かい家族に囲まれた未来への希望をつかんでいく姿そのものが、若者にとっても将来への希望につながります。また、譲渡先から感謝されることを通じて、犬を幸せにすることができたという充実感と共に、他者に感謝される経験を通じて、どんどん自信をつけていきます」

認定特定非営利活動法人「キドックス」代表理事の上山琴美さん

――犬たちのどういった態度が、若者たちへ影響を与えるのでしょうか?

 上山さん:「色々なパターンがあります。どんな人にも尻尾を振ってくれる人懐こい犬は、やはり人側も受け入れてもらっている安心感につながり、優しいふれあいの中で精神的な安定を与えてくれます。逆に怖がりで隅っこで固まっている犬は、人が気持ちを想像し共感し、どのように受け入れ関わることが犬にとって良いかを考え、人間側が行動を変えていくきっかけにつながります。

 さらに、自己主張が強いタイプの犬の場合には、犬が適切な行動をできるようになるにはどうやって伝えたら良いのか、人間側の意思を適切に伝えて犬を正しい方向へと導く力を身につける機会になります。

 必ずしも絵に描いたような『可愛くて従順な態度』を犬に求めません。人が思い描く理想の犬の態度が、人間に良い効果をもたらすわけではありません。むしろ、人が思い描かなかった犬の態度こそ、人間が学ぶ機会を得て、成長する機会を得ると考えています。その過程の中で、人は自分とは異なる存在を認め想像し、おもいやりや共感性が育まれていくのではと思います」

着実に次の一歩へ

 これまで通所した若者たちの63名のゴールを聞いてみました。約3分の1の22名は進路が決定し社会へ、5名は他の専門機関へ、その他17名、現在通所中19名。『いぬのいえ』プログラムを経て、着実に次の一歩へ進んでいます。

 一方、犬たちのゴールはどうでしょうか。保護総数が64匹、譲渡52匹、現在保護中が12匹だそう。キドックスに保護されなければ、もしかして処分されていたかもしれない犬たち。見事に若者を支援し、そして自分の幸せもつかんだと言えるでしょう。

 実はキドックスさんは、今後活動の幅を大きく広げるために、新しい施設を計画されています。先んじて、新施設の詳細を聞いて、筆者は希望を感じました。犬という存在は時として、人を癒やし、人を救います。犬によって人生を変えた、という方も多くいます(その実私も)。犬のチカラで生きづらい若者が一人でも救えたら、すばらしい取り組みだと思います。クラウドファンディングを実施するそうなので、ご興味がある方はぜひご支援ください。

<プロジェクト概要>
・目的:"ヒューマンアニマルコミュニティセンターキドックス"の立ち上げプロジェクト
・公開期間:7月12日(月)〜9月10日(金)
・目標金額:500万
・URL:https://readyfor.jp/projects/kidogs2021

(次回は8月5日に公開予定です)

【前の回】シニアが保護犬猫を迎え、万が一の時は保護団体がサポート 「想像以上によい仕組み」

西平衣里
(株)リクルートの結婚情報誌「ゼクシィ」の創刊メンバー、クリエイティブディレクターとして携わる。14年の勤務後、ヘアサロン経営を経て、アニマル・ドネーションを設立。寄付サイト運営を自身の生きた証としての社会貢献と位置づけ、日本が動物にとって真に優しい国になるよう活動中。「犬と」ワタシの生活がもっと楽しくなるセレクトショップ「INUTO」プロデユーサー。アニマル・ドネーション:http://www.animaldonation.org。INUTO:http://inuto.jp

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この特集について
犬や猫のために出来ること
動物福祉の団体を支援する寄付サイト「アニマル・ドネーション」の代表・西平衣里さんが、犬や猫の保護活動について紹介します。
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