シニアが保護犬猫を迎え、万が一の時は保護団体がサポート 「想像以上によい仕組み」
公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。自分が何歳になるまで愛する犬や猫と暮らせるか、と考えることはありませんか?私は、いつも考えています。犬猫を残して死ぬのは無責任でしょう、だけど一方でこのいとおしく温かい存在が側にいない生活も考えられない、と思います。今回はそんなキモチに寄り添う施策にチャレンジしている保護団体さんをご紹介します。
利用者の声から始まった「永年預かり制度」
北海道の札幌で保護猫カフェを営みながら、年間に400匹近い猫の保護活動を続けているNPO法人 「猫と人を繋ぐツキネコ北海道」。数年前からシニアの方々に保護猫を預かってもらう「永年預かり制度」をスタートさせました。きっかけは、保護猫カフェに訪れた女性の一言から始まったそう。
「猫をレンタルしてもらえませんか?」
それにはびっくりして応えられないと思ったそうですが、よくよく聞くと、ご自身の年齢と、ご主人に先立たれ子供たちは万が一を考えたとき猫を引き取ることは反対している。そんな状況だけれども、どうしても猫と暮らしたい、であれば自分に何かあった際には頼れる場所が欲しいということでした。
猫の所有権はツキネコのまま、万が一の際には再度引き取ることを前提に預かっていただく制度が誕生しました。ツキネコさんにとっては、次々とシェルターに入ってくる猫たちのお世話をお願いできると、それだけレスキューする頭数も増えることになります。猫だって多頭生活のシェルターはベストな環境とは言い難い、ということで、猫にとっても保護団体にとっても飼い主希望のシニアにとってもいい制度だったのです。
200匹の預かり猫、戻ってきたのは5匹
うれしい誤算、とおっしゃるのはツキネコ代表の吉井さん。「実は預かり猫がもっと頻繁に戻ってくることは覚悟していたのです。ですが、シニアの方はみなさん猫との暮らしを熱望されていますから、本当に猫のためを考えて生活してくださる。また、厳密にはご自身の猫ではないので『大事にせねば』というキモチも芽生えるのでしょう。責任感の強い飼い主さんばかりです」
ここ数年で致し方なく戻ってきた猫たちは、飼い主さんがお亡くなりになった、大病をされ入院、老人性のうつ病になった。そして、預かった猫を脱走させた際に、自分たちでは探せずにツキネコに捕獲器をしかけてもらった、再び脱走の心配があるので戻してもらった、という理由だそう。
ツキネコスタッフの吉川さんに、この仕組みを運用してみて困ることがないか、と聞いてみました。
「あまりないですが、爪切りとかが苦手な高齢者がいるので頻繁に呼ばれる時はあります。逆に、うれしいことのほうが多くて。最期の時を永年預かりさんからしっかり愛情をもらって看取ってもらえた猫達がいます。そんなご報告を受けた時はとてもうれしいです。保護施設で保護猫として看取る時が一番切ないからです」
「生き物がいると生活が楽しい」
ツキネコさんから猫を預かっている方に話を聞いてみました。川口浩さん(81歳)は、甘えん坊の猫ももちちゃん(女の子)推定12歳と暮らしています。
「やっぱり生き物がいると生活が楽しいです。朝起きたら寄ってきてくれてうれしい。以前は犬を飼っていたのですが、犬と違って手間がかからないし猫は年齢に合っているのだと思います。高齢で動物が好きな人でも、永年預かりというシステムがあると安心して一緒に暮らせます。年齢のせいで動物と一緒に暮らすことを諦めないでください」
森田小代子(68歳)さんは、猫の小梅ちゃん(女の子2歳)と雀ちゃん(女の子2歳)と暮らしています。18年間、共に暮らした先代の愛猫のペットロスから立ち直れずに生活していました。
「我が家に来たばかりの頃は2匹ともなれない環境で私に対して距離がありました。小梅ちゃんはすぐに慣れてくれたのですが、雀ちゃんはビクビク隠れたりと。しかし4カ月たってそばに寄ってきたり、甘えてきたりと少しずつ距離が縮まっているのがとてもうれしいです。
猫たちが吐いたり、耳をかゆがったりした時にツキネコさんに相談したらアドバイスをくれたり、すぐに家まで来てくれ耳掃除をしてくれました。年齢的に飼えないという不安があると思いますが、猫たちに何かあったときにツキネコさんがサポートしてくれるので安心して飼うことができています」
生活が豊かに、犬との暮らしを満喫
名古屋の特定非営利活動法人「DOG DUCA」は、「犬の保育園」を営業しながら非営利活動として保護活動をされています。犬に人生を支えてもらった経験のある高橋代表は「シニアドッグサポーター」を2019年に立ち上げました。これは飼い主と別れた高齢犬を高齢者が飼う仕組みで、万が一の場合はDOG DUCAが犬を引き取ります。現在48匹のサポートドッグがいます。
「長らく高齢犬と高齢者は、動物愛護の世界からは排除されてきたんです」と高橋さん。
保護センターや保護団体さんへ自分の年齢を伝えると「年齢的に難しい。お譲りできません」と断られる経験をした方も多いのでは、と思います。それはある意味正しいです。犬猫は人間より短い寿命です。最後まで面倒を見る責任は飼い主にあります。だから、規定を設けざるを得ない行政や保護団体のキモチも痛いほどわかります。
ドッグトレーナーである高橋さんは言います。「高齢犬ほど深い愛情を必要としています。犬だって高齢になれば体調の変化もあります。そんなときに、在宅時間の長い高齢者と過ごすほうがいいとも言えるんです。お散歩もお互い無理のないスピードでのんびり歩く、それはとても豊かな時間だと考えます」
お世話自体が楽しい
市原正英さん(66歳)は推定12〜13歳の犬ウィズと暮らしています。今年は、スキューバダイビングの免許取得を目指している、まさにアクティブシニア。一人暮らしが始まったときに、離れて暮らす子供達に進められてDUCAさんの犬をサポートすることになりました。
「ウィズと暮らし始めて、発する言葉や笑いが、段違いに多くなりました。犬と暮らすとやることが増えます。トイレのお世話や抜け毛の掃除など。だけど、私のボケ防止も含めて、良いことだと思っています。ペットからもらえる安らぎ、癒やしは、想像以上です。
そして、DUCAさんには多くのサポートを頂いて、大変助かっています。病院代、フード代などの金銭面だけでなく、私の趣味やゴルフなどで出かける際は一時預かりをお願いしています」
安易な放棄につなげてはならない
万が一のサポートがあることで、安易な飼育を助長することは決してあってはならないと思います。犬や猫は私たちが思った以上に感情があります。次々と飼い主が変わることや、シェルターで暮らすことは決して幸せではありません。ですので、今回取材をした保護団体さんも、かなりの覚悟を決めてこの仕組みをスタートさせています。いい加減な飼い主が増えるリスクもありますし、犬猫が多数戻ってきてしまえば普段の保護活動ができなくなります。ただ、いずれもおっしゃるのが、「想像以上に高齢犬猫、高齢者双方の気持ちが満たされ愛にあふれる結果となっているので、全国の保護団体さんでも取り組んで欲しい」と。
人生100年時代、となりました。健康寿命を犬猫と共に延ばす、そんな時代になってきましたね。超高齢化社会である日本らしい動物愛護のカタチなのかもしれません。
*いずれも、預かりのできるシニアの対象は保護団体近郊にお住まいの方となります。何かあったときにすぐに駆け付けられる距離であることは動物福祉的に重要です。
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