罰則が強化された動物虐待事件 検挙が難しいとされる理由とは?
ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点から解説します。今回は、動物虐待事件とアニマルポリスについてです。
犬や猫を殺傷・虐待することは犯罪
犬や猫などの動物が何者かに無残に殺された、傷つけられた、ネグレクトされた、ゴミのように棄てられた――というニュースを頻繁に目にするようになりました。
20年ちょっと前までは、動物愛護管理法(当時は「動物保護管理法」という名称でした)では、犬猫その他家畜などの動物を殺傷・虐待・遺棄した場合、「罰金3万円」以下でしか処罰されませんでした。刑罰が軽かったことも関係していると思いますが、動物虐待事件に対するメディアの関心も高くはなく、ニュースに取り上げられることは珍しかったように思います。
その後、動物虐待を許さないとする社会的関心が次第に高まり、法改正のたびに厳罰化され、2020年6月からは、殺傷罪の法定刑は、5年以下の懲役または500万円以下の罰金となりました。
犬や猫をはじめ法律で定められた動物を殺傷・虐待することは、かなり重い刑罰が科せられる可能性のある犯罪行為です。
動物虐待の検挙が難しいとされる理由
ところで、動物虐待事件が発生した場合、事件現場を管轄する警察署の生活安全課という部署が捜査を担当することが多いです。生活安全課は、ほかにも、痴漢、ストーカー・DV、ヤミ金融・悪質商法などを取り扱っていることが一般的です。幅広い事件を担当する部署であり、動物の事件ばかりをやっているわけではありません。
唯一、兵庫県警本部は、動物虐待の電話通報窓口(アニマルポリスホットライン)を設置していますが、これも、県内で発生した動物虐待の情報を一元的に集約するもので、実際に捜査するのは、管轄警察署の生活安全課となります。
そのため、かなり以前から、動物保護団体や関係者を中心に、海外の一部で存在するという「アニマルポリス」を日本の警察にも導入してほしい、ということが強く言われてきました。
さて、動物虐待事件は、以下のような特殊性があります。
- 密室で行われると容易に発覚しない。しゃべれない動物は被害を申告できないので、警察が認知困難。
- 死骸が発見されても、発見者が埋葬または自治体が廃棄処分(火葬)して重要な証拠が失われることが多い。
- 殺人事件などのように、被害者の人間関係から犯人を絞り込んでいく手法が基本的に使えない。
- ネグレクト型の場合、室内に大量の死骸があっても、死因を特定することが容易ではない。
このような性質から、検挙が難しい犯罪類型の一つとされています。警察に通報してもちゃんと動いてくれない、といわれるのは、このあたりに理由があるかもしれません。また、見つかりにくいために、虐待しようとする者の心理的な歯止めがなく、罰則の強化にもかかわらず動物虐待事件が減らないことの原因となっているかもしれません。
動物虐待事件に対応・捜査できる体制整備が大事
欧米では、動物虐待と暴力的事件との関連性についての研究が進んでいる、といわれています。日本でも、動物虐待と非行少年の関係について、科学的な調査に基づく論文が2007年に発表されています。
人に対する重大犯罪をした者のうちの多くは、それ以前に動物虐待を経験している―という事実が仮にあったとしても、では逆に、動物虐待者の多くが人に対する重大犯罪をするのかといえば、必ずしもそうは言い切れないかもしれません。
しかしながら、動物虐待と人に対する重大犯罪の関連性が証明されるか否かに関わらず、社会に対する危険があることには変わりがないと考えます。動物虐待の段階で、しっかりと検挙して適正処罰することで、それ以降の犯罪を防止することが大事であることは間違いありません。
いうまでもなく、深刻・重大な殺人事件が発生してからでは取り返しがつきません。動物虐待事件の早期かつ確実な発見・検挙は、動物のためだけでなく、国民生活の安全にとっても重要な課題といえます。
そこで、動物虐待事件が発生したときに適切に対応・捜査できる体制を整備することが大事になります。それができなければ、罰則をいくら強化しても、絵に描いた餅になってしまいます。
次回は、アニマルポリスの類型と、どのような形であれば導入する余地があるのか、あるいは導入は不可能なのかを検討してみたいと思います。
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