悲しいけどペットロスにはならなかった 「天寿を全うした」と思えるから
いつか来るペットとのお別れの日――。経験された飼い主さんたちはどのような心境だったのでしょうか。
2014年に動物保護猫団体から譲り受けた愛猫「らくちゃん」と5年強を過ごし、2019年10月に享年推定年齢15歳でらくちゃんを見送った菊地紗綾さんに、お話をお伺いしました。
余命宣告があったらから覚悟ができた
――らくちゃんの死を覚悟したときのことを教えてください。
2019年の10月頭の木曜日、仕事から帰宅したら、らくちゃんが猫毛布におしっこをして、その中で立ち上がれずに寝ていました。毛も尿にまみれていて。獣医さんに来ていただいて、「意識レベルの低さを見ると、もって1週間かな」と言われました。
余命を宣告されたことで、時間軸ができ、覚悟もできて、「じゃあ、1週間何をしてあげられるのか?」と。急きょ私の仕事は在宅勤務に切り替え、オムツを買いに走り、らくちゃんには食事は食べられるものはなんでも食べさせようと、おいしいものをあげるようにしました。
――看取りの瞬間はどのようなものでしたか? またどう感じましたか?
らくちゃんが自力で立てなくなって6日後の水曜日の朝、抱っこしたら呼吸がおかしいことに気が付きました……。そのまま抱っこしていたら「あ、今亡くなった」ってわかりました。頭が私の胸にガクッと乗って、最後の瞬間にらくちゃんが私に乗り移ったような重みをはっきりと感じました。そのとき、「らくちゃんは亡くなるけど、いなくなったわけではないんだな」と腹落ちしました。
闘病生活…自宅で点滴をした日々
――らくちゃんはもともと体調が悪かったのでしょうか?
2018年2月に「異常に水を飲むな」と思い、病院に連れて行って血液検査をしたところ、かなり腎臓病が悪化していることがわかりました。
クレアチニンと尿素窒素の値が非常に悪かったんです。すぐに療法食に切り替え、投薬、生理食塩水の点滴を開始したところ、脱水症状が改善し、みるみる値も回復しました。でも2019年のGW頃からなんとなく体が弱ってきていて……。獣医師からは「腎臓も悪いけど、全体をみると、老衰かな」と言われていました。
――ご自宅で菊地さんが点滴をされていたと聞きましたが…
腎臓病がわかり、獣医師から皮下点滴のやり方を教えてもらいました。病院へ毎回行くのは猫にとって負担ですし、往診に来てもらうのも時間的、経済的に大変なので、亡くなるまで、私が自宅で点滴をしていました。
水が飲めなかったわけではないのですが、どんどん尿で出て行ってしまい脱水症状が出るので、点滴は必須でした。獣医師から「悟りを開いた猫」と言われるほどらくちゃんはおとなしく、私が点滴の準備を始めると、定位置に来て待機しているような子でした。
やれることはすべてやった、十分に生きてくれた
――らくちゃんを亡くして、ペットロスになりましたか?
相当なペットロスになるだろうと夫婦で覚悟をしていました。でもなりませんでした。薄情なように聞こえるかもしれませんが、らくちゃんが立派に、苦しまずに亡くなってくれたことにホっとしたところがあります。十分に生きてくれた、天寿を全うしてくれたという感じです。
そして、一緒に暮らした5年間幸せだったし、腎臓病が見つかってから2年間、私たち夫婦はやることはすべてやった。もっとうまくできたこともあったかもしれなかったけれど、その時その時、最善の選択を常にしてきたと思います。
それまで、通い猫を数匹見送った経験もありましたし、いい獣医さんに恵まれて死期を教えてもらえたこと、複合的な要因でペットロスを回避できました。
――らくちゃんが亡くなって1年半、今のお気持ちを教えてください。
亡くなった日、らくちゃんが大好きだった「本枯れ節」を買って、らくちゃんと本枯れ節を一緒に火葬したのですが、骨を拾う時に、ふわーとかつお節のいい香りが漂いました。お寺さんから帰宅する車内もかつお節の香りで、その中で、夫婦でらくちゃんの思い出話をしていました。
今でもあの時のかつお節の香りを思い出します。夫婦で看病し、看取って、お見送りできて良かったです。「悲しいけれど、5年間一緒に過ごせて楽しかったなー。良い猫に出会えたなー」という思いですね。らくちゃんは、本当に賢くて親孝行な子でした。
らくちゃんと共に過ごした5年間を「楽しかった」と振り返りながらも、インタビュー途中、何度も声を詰まらせて、質問に答えてくださった菊地さん。懸命な介護のもと、天寿を全うしたらくちゃんは、菊地さんご夫婦のもとで5年間を過ごせてきっと幸せだったのだろうな、と感じました。
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