山のカラス軍団にさらわれかけた子猫 助け出され、今は甘えん坊な家猫に

 外で生まれた子猫は、たくさんの危険に取り囲まれている。感染症などにかかりやすいほか、都市部では交通事故が多く、農村や漁村部では、カラスやトンビに狙われる。今は、屋根の下でしあわせに暮らす「ぷてぃー」ちゃんは、生まれて2カ月くらいのとき、山のカラス軍団にさらわれかけていた。

(末尾に写真特集があります)

カラスの大群が騒いでいた

 南房総に暮らすちやこさんは、自宅でヨガの教室を開いている。裏には山々、すぐ目の前は一面の田んぼという自然豊かな風景が気に入って、1年半前に越してきたのだ。

 去年の11月初めのこと。キジ白猫のハナにリードをつけて、いつものように野道散歩に出かけるため、玄関から外に出た。カラスの鳴き声がやけにうるさい夕方だった。

三毛猫
散歩好きは、長毛のレン、三毛猫のモモ、キジ白のハナ

「裏山のほうで、100羽くらいのカラスの大群がけたたましくわめきながら飛び交っていました。その異様な光景を見た瞬間、あっ、と合点がいったんです。急いでハナを家に入れ、家庭菜園で使っている棒のいちばん太くて長いのを引っこ抜きました」

 昼前、保護猫マロンを避妊手術のために病院へ送って帰宅したとき、玄関の花プランターの横で、白い子猫を見かけていた。目が合ったとたん、子猫はすばやく逃げ去った。

 その日は休日。午後から三毛猫モモと散歩に出かけた夫が帰ってきて「草むらに子猫がいるよ」と言う。「あんな逃げ足の速い子だから、すぐには保護できないね」と答えて、キジ白猫のハナの散歩に出たところ、ちやこさんはたちまち異変を察したのだった。

 あの子がカラス軍団に狙われているに違いない!

 棒を引っこ抜いたのは、カラスと闘うためだ。夫に声をかけ、草むらに走った。子猫は、そこでうずくまっていた。昼前のようにすばやく逃げることはせず、あっさりと夫に捕まった。ネットに入れるとき、夫の手にもネットにも血がねっとりとついた。すでに襲われてうずくまっていたのだ。

けがをした子猫
保護直後の子猫(ちやこさん提供)

 子猫が救出されて家に入るまでを見ていたカラスたちは、すぐ近くの電線に連なって騒ぎ続けていた。

背中の2本の傷は深かった

 翌朝、ベランダの戸を開けると、たちまち偵察隊らしきカラスが数羽舞い降りて、室内をのぞき込む。「あの子猫をどこに隠した」とばかりにギャアギャアと文句を言う。獲物を取られたのがよほど悔しかったらしい。

「おあいにくさま」と言って、ちやこさんは、戸を閉めた。弱肉強食の自然界の摂理も、カラスとて食べ物探しは大変なこともわかるが、このときばかりは、カラスが憎ったらしくてたまらなかった。

けがした子猫
保護直後はケージ生活(ちやこさん提供)

 獣医さんに連れていくと、子猫は女の子で、背中のケガは、やはりカラスに爪を立てられて引きずり上げられたときのものであるとわかった。持ち上げたものの落としたか、人間の姿を見ていったん連れ去るのを中止したのかもしれない。

 傷は、2ミリ幅で長さ数センチのものが2本。皮下まで深く切れていて、縫合は無理とのこと。注射と薬で、自然治癒を待つこととなった。推定2カ月半というのに、たった750グラム。人に捨てられて何日もたっていたのかもしれないが、母猫がノラとすれば、母体の栄養の悪さがしのばれた。

「いいおうちを見つけようね」

 子猫は、シャム系で薄い水色の目をしている。傷が癒えたら譲渡するつもりなので、情が移りすぎないよう、ちやこさんは「おちびちゃん」と呼んだ。

 おちびちゃんは日に日に愛らしさが増し、ケージフリーになるや、やんちゃに走り回る。
 手元に残したい気持ちはやまやまだが、もうすでに、ちやこさんの家には、保護した猫たち6匹がいて手いっぱいだ。持病を持つ子や、やっと家に慣れ始めた子もいる。夫婦ともに仕事があるので、この子だけに手をかけてはいられない。

「いっぱい遊んでくれて、可愛がってくれるおうちを見つけようね」と、おちびちゃんに約束した。

けがをした子猫
だいぶ傷も癒えた頃(ちやこさん提供)

 やがて、背中の傷も治ってきたので、譲渡を開始することにした。

 譲渡先募集サイトで、たまたま、おちびちゃんの写真を見て気に入ったのは、埼玉県の草加市に住む金地さん一家である。お父さんと、高校生の娘さん2人は「猫を飼いたいね」と話し合っていたところだった。ただし書きに「背中に傷があります」とあった。

 お見合いに行くと、申し分なく愛らしい。穴のような傷痕はカラスに引きずり上げられたためと説明されたが、気にならず、迎えることを決めた。

「キャンディーみたいに甘く可愛い末っ子として、可愛がられるんだよ」と、ちやこさんは寂しさをこらえて送り出した。

一家の愛情を浴びる日々

 おちびちゃんは、「ぷてぃー」という名をもらって、新しいおうちのアイドルとなった。遊ぶのが大好き、人間も大好きな、賢くて飼いやすい子だ。

 すっかり家になじんだ頃、ぷていーの背中から少し出血している。獣医さんに行くと、かさぶたの下がうんでしまっていた。野生の生き物に襲われることは、こういう怖さがあるのだった。

 患部を少しえぐり取って様子を見ることになった。経過がよくなければ、手術で大きくえぐらなければならない。

 4週間の経過を見て、さいわい傷は完治となった。

抱っこされる猫
お父さんに抱っこされて甘えるぷてぃーちゃん

 ぷてぃーは、ますます甘えん坊となり、お姉ちゃんふたりの後をついて歩き、食事の時もひざに乗り、楽しき日々を送っている。目尻を下げて遊んでくれるお父さんも大好きだ。傷痕はもう全く目立たない。

 ぷてぃーは幸せをつかんだが、里山でカラスにさらわれてしまい、はかなく消えた小さないのちは数えきれないだろう。それは、未手術のまま外飼いをしている飼い主や、子猫を捨てる人間たちがいるからだ。

 ちやこさんは、巡りあった縁を大事に、保護して家の子にしたり、譲渡して次の幸せにつなげてきた。

「それは、あの子たちの存在そのものが愛で、私たち人間が猫たちにいっぱい愛されているから。昔飼っていたミーシャという猫がそれを教えてくれました。だから、私のしていることは、保護活動というより、猫への愛のお返しなのかもしれません」

 そう言って、ちやこさんはほほ笑んだ。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」は11年目。

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猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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