農村移住した夫婦の家に、ワケアリ犬猫がやってきた! 3匹の家族が増えてにぎやかに

 人混みと騒音の都会暮らしに疲れ、農村の古民家に移り住んだ若夫婦のもとに、ボロボロの痩せた猫が迷い込んだ。元気になったその猫に友だちを作ろうと、愛護センターから、山中を放浪していた老犬を引き出す。さらに、ご近所さんから、行き場のない子猫を引き受けて……ひっそりと暮らすつもりが、たちまち田舎暮らしはにぎやかに。

(末尾に写真特集があります)

都会の喧騒から逃れて

 昌宏さん・愛(めぐみ)さん夫妻が暮らす古民家は、野菜やお米のおいしい南房総の農村にある。家の前には、まっすぐな一本道。わきには原っぱや畑が広がり、裏手には山々の深き緑。海へも20分で行ける。昌宏さんは在宅のWEBデザイナー、愛さんは養護教諭として特別支援学校に勤めている。

 ここに来て、まだ3年半。やってきたときは2人だったのが、3匹の家族が増えた。縁あって、迎え入れた命である。

犬と猫
廊下でまったり昼寝の3匹(昌宏さん提供)

 ふたりが縁もゆかりのないこの地に移住してきたのは、2017年9月。それまではにぎやかな街暮らしだった。

 どこに行っても人が多い。道路はいつも渋滞。騒音だらけの街から逃れたかった。昌宏さんの仕事は在宅作業なので、都会に住み続ける必要はなかった。

 千葉県内をあちこち探し回って、周りが田んぼだらけのここに決めた。

 愛さんは、若年性アルツハイマーを発症した父を介護中に通信制大学で取得した養護教諭の免許が、ここでの職探しにたまたま役に立った。

 ふたりとも動物好き。ここでの暮らしに慣れ、「そろそろ猫でも飼いたいね」と話していたときだった。

「トラクターを置いてある物置に、ある日、痩せこけてうす汚れた猫がいたんです。野良にしては、すぐにひざの上に乗るほど人懐こい。どこかで飼われていたのか、それとも、ひとりで生き抜くのがもう限界だったのか……」と、昌宏さん。 

茶白猫
迷い込んだ当時のヤンマーくん(昌宏さん提供)

 その猫はスルリと家に入ってきた。ガリガリで皮膚炎もあったので、老猫とばかり思っていたが、獣医さんに連れていくと、まだ1歳くらいと判明。マダニがびっしりで、カエルでも食べていたのか、おなかには大きな寄生虫もいた。

 猫は、トラクターのそばにいたので、「ヤンマー」と名付けられる。

「田舎暮らしの楽しみは、野菜作りや、動物たちと暮らすことだったので、いいタイミングで来てくれました」と、ふたりは笑う。

放浪犬を保健所から引き出す

 すっかり元気になった遊び盛りのヤンマーのために、留守番時の友だちを作ってやろうと昌宏さんたちは考えた。犬にしようか、猫にしようか。ヤンマーが仲良くできるならどっちでもいい。県の動物愛護センターの譲渡先募集のホームページで一目ぼれしたのが、「虎太郎(とらたろう)」という雄の柴犬だった。推定年齢は10歳くらい。捨てられたのだろうか、山中をさまよっているところを保護されたという。その日にもらい受け、「コタロウ」と名付けた。老後を、猫と穏やかに過ごしてほしかった。

柴犬
センターから引き出したばかりのコタロウ(昌宏さん提供)

 ヤンマーとコタロウは、同じ毛色同士もあってか、すぐに仲間として認め合った。コタロウが散歩に行くときは、ヤンマーはいつもついてくる。コタロウは、村の人々に可愛がられて、立ち寄る家もあちこちに増えた。ヤンマーは迷子にならぬよう、発信機をつけての散歩となった。

「僕たち、田舎で仙人のようにひっそり暮らすつもりでした。なのに、町内会、草刈り、お祭り、回覧板、犬の散歩……と、人とのつながりが都会よりも増えていったのは想定外でしたね」と、昌宏さんは愉快そうに言う。

モナカのお返しに、子猫

 コタロウがやってきて1年後の、一昨年8月。愛さんは、いつも野菜をくれるご近所さんに東京みやげのモナカを持っていった折に、行き場のない子猫をそのままにしておけず、連れ帰る。

「譲渡先を見つけるつもりでしたが、最初のお見合いがうまくいかず出戻り。また連れ回すのが可哀想になって、うちの子にし、『モナカ』と名付けました。モナカのお返しにもらってきたようなものだから」と、昌宏さん。

 ヤンマーはモナカの幼いときは我が子のように、大きくなってからは弟のように、それはそれは可愛がった。外生活が長いヤンマーは外にも出てしまうけれど、モナカは室内飼いだ。たまにモナカが庭に出てしまうと、ヤンマーはずっと見守っている。

子猫を抱きしめる猫
モナカを抱きしめるヤンマー(昌宏さん提供)

 コタロウも、猫の仲間が増えて元気に暮らしていたが、昨年秋に突発性の前庭疾患(平衡感覚を失ってしまう内耳の疾患)を発症。オムツでの介護生活を経験後、急激に老いてしまった。保護時からの難聴に加え、最近は認知症気味で、グルグルと室内を歩き回り、畳の上で粗相もするようになった。あれほどルンルンと楽しんでいた散歩も、家の前の一本道を往復するだけになったが、今も日に2回は欠かさず、ヤンマーが付き添う。

 老犬を引き取るからには、いつ介護が始まっても、という覚悟だった? そう尋ねると、愛さんは「もちろん」と笑顔で答えた。

自分たちなりの保護活動 

 モナカを保護した後も、何度か子猫を保護。自分たちで譲渡先を見つけたり、海辺で保護活動を続けているNPOに譲渡先を探してもらったり。迷い犬を保護して、いろいろなところに電話をかけまくり、無事に家に戻せたこともあった。

「うちはモナカで最後と、ふたりで決めたんです。これからも、行き場のない犬猫に出会ったら、自分たちなりにできる保護・譲渡活動をしていきたいと思っています」とふたりは言う。

なでてもらう猫
今も甘えん坊のヤンマー

 ここに永住なさるのですか、と聞いてみた。

「おいしい空気。プラネタリウムみたいな星空。季節ごとの鳥や虫やカエルの声。雨が水がめにたまる音。木々が風に揺れる音。心地よいものがいっぱいです。ご近所さんはみなさん親切で、野菜や果物、イノシシ肉もいただきます。フキノトウやアケビをその辺で採って食べる楽しみも」と愛さんは言い、「もちろん、いいことばかりではありません」と続ける。
「外食や買い物は不便。前は気軽に行けたお気に入りのカフェも、今では車で何時間もかかります。草刈りや枝払いなどの管理や、古い家の修繕なども大変で、気がめいることもあります」

 でも、ふたりの思いは同じだ。

「ここに来たから、ヤンマーに会えた! ヤンマーに会ったからコタロウにも会えた。そして、モナカにも会えた。ここはヤンマーたちが大好きな土地」

 そう思うと、「よし!」と、たちまち元気が湧くのだという。辺りの田植えも終わり、吹き渡る風はすっかり夏の匂いがする。

昌宏さんのInstagramYoutube

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「猫との約束」「里山の子、さっちゃん」など。Webサイト「フェリシモ猫部」にて「道ばた猫日記」を、辰巳出版Webマガジン「コレカラ」にて「保護犬たちの物語」を連載中。

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この連載について
猫のいる風景
猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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