医学生の解剖実習、奈良医大が廃止 これまでマウスやヒヨコなどで実施
奈良県立医科大学(以下、奈良医大)の医学科の受験を希望する高校生の保護者の方などから、「奈良医大では、多くの種類の動物の解剖実習がある」「地元なのでこの大学の医学部にわが子を入れたい。けれども、子どもは解剖をすることがつらいと言っているし、親としても解剖はさせたくない。医者は命を助ける仕事なのに命を軽視する人間になってしまう」といった相談がJAVAに寄せられました。
情報開示請求で分かった実態
JAVAは事実確認のため、同大学に対して動物実験計画書承認申請書の開示請求を行い、次の通り、毎年のように多くの解剖実習を実施していることが明らかになりました。
※ここでいう「解剖実習」とは、動物の体を切り開き、体内を観察する目的で行う実習をいいます。他の目的での実習は含みません。
また、解剖実習以外に、次の3種の動物を使った実習も医学生のカリキュラムの中で行われていることが判明しました。
① 麻酔下で致死させたモルモットから摘出した腸を使って行う薬理学実習「摘出モルモット腸管の収縮に対する各種薬物の影響」
② 麻酔したラットの鼠径(そけい)部を切開し、大腿(だいたい)動脈・静脈を露出させ、挿入したカテーテルから薬剤を投与し、血圧や心拍数を観察したのち致死させる薬理学実習「ラットを用いたin vivoでの循環動態の観察と薬物による修飾」
③ 麻酔したラットから肝臓・膵臓(すいぞう)・腎臓・血液を採取し、断頭して致死させる生化学実習「ラット肝臓から酵素(AST)を部分精製およびラット各種臓器から特異的RNAの分離・検出」
代替法で行うべき
動物の体の仕組みや発生の過程などを学ぶ方法には、生体や死体を用いる以外にも、コンピューターシミュレーション、動画、精巧な3Dの模型など様々あります。そのような代替法を使用すれば、たとえば解剖の過程を何回でも繰り返しでき、また学生一人一人が自分のペースで行うことができるなど、多くのメリットがあります。生き物の解剖を行った学生と代替法で学んだ学生では、その知識に差はない、むしろ代替法で学んだ学生の方が優秀であったことが数多くの研究で証明され、論文が発表されています。
それにより米国とカナダには211の医学校がありますが、全ての学校で生きた動物を用いる実習がなくなりました。世界トップクラスの優れた医学校であるハーバード大学やジョンズ・ホプキンズ大学などもここに含まれています。
他の公立大の実態は
奈良医大を含め日本には医学部を有する公立大学が8大学あります。奈良医大以外の公立大学に対しても、JAVAは動物実験計画書の開示請求をしました。その結果からも奈良医大が解剖する動物種がいかに多いかがわかります。
すべての医学部で解剖実習廃止を
JAVAは2019年9月、奈良医大の細井裕司学長に対し、医学部のカリキュラムにおいて、動物の生体解剖実習を廃止することを求める要望書を提出しました。奈良医大は、定めた回答期限までに廃止の回答をしてきませんでした。ところが、JAVAが同大学に実習の状況の確認を行い続けた結果、「カリキュラムの見直しに伴い、解剖は実施しないことにした。今後も、実施しない」との回答。ついに奈良医大は医学生のカリキュラムにおける解剖実習を廃止にしたのです。
さらに、2021年4月、解剖実習以外の動物を用いた3種の実習のうち、①のモルモットの実習と②のラットの実習も廃止したことを確認しました。ただし、③の「ラット肝臓から酵素(AST)を部分精製およびラット各種臓器から特異的RNAの分離・検出」は、新型コロナウイルスの影響から、実施時期は未定としながらも、今後も実施される可能性があります。
とはいえ、まだ他の公立大学でも解剖実習が行われている中、最も数多く実施していた奈良医大が、解剖実習の廃止を決めたことは評価すべき英断です。これを機に全ての医学部における動物を犠牲にする実習廃止の動きを促進させていきたいと思います。
(次回は7月12日に公開予定です)
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