犬や猫の「見た目優先の繁殖」を禁じたオランダ 現地の団体に聞く実現までの道のり
公益社団法人アニマル・ドネーション(アニドネ)代表理事の西平衣里です。アニドネでは、海外在住の情報リサーチスタッフが活躍しています。海外のリアルな情報は今後の日本の動物福祉の方向性を考えるうえで、とても役立っています。今回はオランダ在住のHiroさんを通じて、オランダの150年の歴史ある啓発団体を取材しました。日本とは問題も解決策も異なるけれど、粘り強く解決に向かう姿勢や市民を巻き込むやり方は大変学びとなりました。
殺処分のないオランダ
国の敷地面積は日本の九州とほぼ同じ。人口は約1750万人(日本は1億2,548万人)。小さい国ながら世界幸福度ランキングでは常に上位(2020年は6位報告、出典:国連「World Hapiness Report 2020」)、人間の福祉面ではオランダモデルと言われ世界を牽引(けんいん)している印象の強いオランダ。
実は、動物の福祉面でも、殺処分はしておらず、また街中には生体販売ショップはみられません。Opvangcentraと呼ばれる保護シェルターは国内に約200カ所あり、逮捕権を持つアニマルポリスも活躍する国。参照:「Rapport Feiten en Cijfers Gezelschapsdierensector 2015」オランダ王国政府(Rijksoverheid)
今回、Hiroさんに、オランダの「ソフィア・ソサイエティ」(正式名称:Royal Sophia Society for the protection of Animals)を訪れて取材してもらいました。
150年前にソフィア女王が設立
ソフィア・ソサイエティは、1867年にウィリアム3世の妻・ソフィア女王によって設立されました。動物を使役する歴史を持つヨーロッパ。その使い方に疑問を抱いたソフィア女王によって活動が始まった、最も古い動物関連団体のひとつです。その活動は脈々と続き、現在でも時代によって変わる動物問題の解決を牽引している団体です。
市民を巻き込み、粘り強く変えていく
ソフィア・ソサイエティ活動内容として、解決せねばならない問題をキャンペーンとして実施し、署名を集めロビー活動にいかしています。最近の実績のひとつには、『ブリーダーが犬・猫を処分(殺害)することを禁止』する法改正にまでつながりました。デザインを施した動物の繁殖をとめるキャンペーンも実施し、オランダでは2014年にデザイン犬・デザイン猫を生産することが法律で禁止されました。また、『動物をペットショップのショーウィンドウで販売することを禁止』する署名を行政に提出し、実際、禁止になった事例などがあります。
実はHiroさん、実際にソフィア・ソサイエティのステフィ・ヴァン・ホルクさんに話を聞く前は、オランダでの動物問題は日本ほどは多くないと思っていたそう。しかしながら実際に詳しく聞くと、隣国と陸続きであることの弊害(動物の輸入など)や、文化の違い(ペットへのタトゥー)があり、根深い問題があることを知りました。その中のひとつとして、デザイン犬猫の問題が挙げられます。
デザイン犬猫とは、人間の都合で見た目だけの特徴を際立たせてしまうブリーディングのこと。2009年からキャンペーンを始め、10年後の2019年に、ある一定の条件をクリアしないと、フレンチブルドック、イングリッシュブルドック、ペルシャ猫など、平な鼻を持つ犬・猫の繁殖が禁止となりました。
これは、大変大きな成果です。人間の好みによる見た目優先の繁殖は、動物の呼吸のしづらさや頭痛やてんかんを引き起こすのです。「動物の福祉」を重視した方向転換を牽引したのです。
このキャンペーンは、大変地道な努力が必要だったそう。見た目のかわいさを求める市民の理解は反発する方も多く、そして他の動物愛護団体はブリーダーへの極端な反発もあったそうです。しかし、ソフィア・ソサイエティは「寄り添う姿勢」を大切に改革を実施。対立ではなく、ブリーダーに向けて説明・説得をくり返し、共に解決したいという姿勢を持ち続けたことがポイントだったようです。
生活してみて感じる動物観の違い
今回取材してくれたHiroさんは、日本在住のころから動物福祉に強い興味を持ち、アニドネのリサーチ資料を作ってくれたり、「Animal Walk Tokyo」という東京駐在の外国人からなる任意団体と一緒にさまざまなチャリティイベントを企画したり、とアグレッシブに行動をしていました。透明感のある華奢な見た目からは想像もつかないくらい行動力にある女性です。オランダに住み2年、日本との違いなどを聞いてみました。
――オランダに住んで2年。Hiroさんが感じる、動物に対する日本との違いはありますか?
「オランダに2年ほど滞在し感じたことは、ペットは『飼っている動物』というより、子供のように迎え入れる『家族のメンバー』という感覚が強いことです。オフィスに連れてきて一日中一緒に過ごしたり、かごなどに入れることなくトラムに一緒に乗っていたり、カフェに一緒に遊びに来ていたり、人と動物が分けられているというよりは共存しているように感じます。その共存にネガティブな意見を言う人もいません」
――2国を比べ、日本で改善すべきことは?
「やはり大量に殺処分している日本は異常に感じます。行政の保護施設があるにもかかわらず、ヨーロッパでいうところのアニマルシェルターになっておらず、ペットを迎えたい人々が行ける場所になっていないのか……一番の理由には日本の方が圧倒的に母数が大きいので管理をするという点で難しいかもしれませんが、実際に私も訪れたことがある行政の保護施設はとても暗く悲しい、山奥にありました。新たにペットを迎える時に近寄ることも想像できないかもしれません。行政の保護施設のそのような印象を取り払い、ペットを迎えたい人が気軽に訪れるアニマルシェルターに変わっていけたら、素晴らしいと思います」
――ソフィアさんの話を聞いて、率直にどう感じましたか?
「ヨーロッパは動物福祉が早くから進み、確かに日本を含め多くのアジア各国と比較すると総合的に良いと評価できると思います。日本は他のアジアよりは進んでいるように思っている人も多いと思いますが、日本を含むアジア全体としてヨーロッパからの評価は好ましくありません。
ただし、欧米では、動物が相棒だからこそ、ペットへのタトゥーなどを気軽にしてしまう人もいます。タトゥーは動物自身からすると虐待でしかありません。タトゥー入りのペットを輸入したりする人もいる話を聞きました。また、『飼えなくなったら譲り合う』ようには感じましたが、オンラインストアでペットを販売もしています。
そのため、ソフィア・ソサイエティのステフィさんからオランダの現状の話を伺った際は、動物福祉が進んでいるヨーロッパでも、動物自身からしたら過酷なこともまだあり、飼い主ではなく動物にとって本当に自然体に生きられる人生を考えると道のりはまだまだ長いと思いました」
――Hiroさんが伝えたいことがあればなんでも!
「動物達がグローバル化で行き来(輸出入)する以上、世界の各国がバラバラの基準で動物福祉に取り組んでも意味がないと言うことを実感しはじめています。どこかの国では動物のタトゥーを禁止しても、隣の国で実施されることを見てみぬふりをしては、まだ動物にとって自然体に生きられる世界にはなっていません。
他のアジアの国で動物達がファーやウールのために残酷な飼育をされているのをニュースで見て他国を批判することはあっても、実はそれらのファーを日本が輸入して私たちが消費しています。一般的なセーターに使われるウールを収穫する際も、従来の合理的な方法として羊の体を切る方法が採用されていることもあります。犬猫殺処分に関しては、近年メディアでも注目されることが増えたと思いますが、動物実験など動物がどのように扱われているのか、見えにくい部分がまだたくさんあると感じています。
動物の命のことを考えると、答えはシンプルではありません。食べ物として食肉処理して良いのか、医療のためであれば実験して良いのか、動物はどこまでを動物と考えるのか……など。動物福祉の仕事を本業としているわけではないですが、少しでも興味を持って、普段の自分の生活の中で実は間接的に動物たちを傷つけているライフスタイル(ファーや動物実験をした化粧品の使用など)はないか興味を持って確認したり、日々動物にとって自然体に生きられる環境なのかということを考え、情報発信など自分にできることから今後も継続的にしていきたいと思います」
日本らしい動物福祉を
オランダの今があるのは、大変地道な努力の結果ということを知り、筆者の西平は勇気をもらいました。どこの国だって社会問題はそう単純ではないわけですよね。問題を突き放すのではなく寄り添う、それはとても大事だと思いました。
アニドネサイトはこの9月で10年になります。立ち上げたころは、保護犬ってなに?という時代でした。ですが、最近は認知もあがり「2匹目は保護犬猫を」という方も増えてきました。日本人は細やかで繊細な気質があります。動物をより理解する、動物の立場になって考える、諦めずに続ければ動物福祉の向上は図れると信じ、アニドネ活動を続けます。
(次回は6月5日に公開予定です)
【前の回】日本の常識は世界の非常識!? 動物福祉で一歩先行くドイツのリアルが知りたい!
〈訂正して、おわびします〉
5月5日に公開した記事で、「オランダでは2019年にデザイン犬・デザイン猫を生産することが法律で禁止されました」としましたが、8月31日に「オランダでは2014年にデザイン犬・デザイン猫を生産することが法律で禁止されました」と訂正しました。確認が不十分でした。訂正し、おわびします。
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