いじめられっこで超マイペース女子な猫の「ボビ」 意外と武闘派であると判明

 東日本大震災のひと月前。自宅の庭に居ついていた白三毛の「ホビ」とサビ猫の「サビ」姉妹を保護しました。その妹(?)猫のボビのお話です。

(末尾に写真特集があります)

静かな頑固者・ボビ

 ボビの名前の由来は、極端に短いボブテイルから。しっぽは約3㎝。下を向いたままほとんど動かせません。ボビのしっぽが上を向いているのを見たこともありませんし、うれしくても怒っても、動いたこともありません。

 我が家で保護して最初に動物病院へ連れて行ったときも「これはこういう骨格で、異常ではありません」との診断でした。

 そんなボビ、遠目にはまるでしっぽがないように見えます。走り回る姿はコロコロとマリのよう。しっぽの動きがない分、ご機嫌がいいんだか、悪いんだか。いつも淡々と、マイペース。そして実は、とんでもない頑固者です。

 姉(?)のサビがエンマを出産した時もそうでした。

 母乳の出が悪かったサビに代わり、私が毎日、数時間おきに授乳。母猫の容体が落ち着くまでは、プラスチックの押し入れケースにペット用ヒーターを入れて寝かせていました。が、ボビがどうしても「エンマの面倒をみる!」といってきかないのです。

 押し入れケースのフタを無理やりにもこじ開けようと、どったんばったん。

「ボビ!ボビ!エンちゃんは今寝てるから、子守しなくていいよ!」

 どんなになだめても(やだ。エンちゃんの面倒は叔母の私がみるの)

 ……どったん! ばったん!

 やれやれ……。仕方なくエンマをケースから出し、ボビにだっこさせてあげました。

猫
のびのびボビさん。冬は布団の中で、脚と脚の間で寝るのがお気に入りなので困ります。

「わしゃわしゃ」が大好き!

 静かで頑固なのはわかったけど、あまりにもマイペースでどうしてあげたらうれしいのか、いまひとつわからないボビ。そんなボビとのコミュニケーションが上手にとれるようになったエピソードがあります。

 ある日、取材で長崎県の郊外にある平飼いで鶏卵を生産している養鶏場に伺いました。金網の小屋のなかには、たくさんの雌鶏たちが自由に遊んでいます。ときおり、立派なトサカをつけた雄鶏が混じっています。

 オーナーの奥様の案内で、鶏舎の中へ。触っても怒らない、というので触らせてもらうことに。と、一羽の雌鶏が奥さんの前へトットッ、とやってきました。

「……?」

 眺めていると、くるっと向きを変えてお尻を向けるではないですか。

「はいはい。わしゃわしゃしてほしいのね」

 奥さんは雌鶏の翼と胴の間に両手を差し込むようにして胴体をがっしりとつかみ、もみしだくように「わしゃわしゃ……」と。

 雌鶏はバサバサと翼を打ちながら、ケッ、ケッ! と声を上げます。

「こ、これは何を……?」

「こうすると喜ぶんんですよ」

「へええ……鶏もなつくんですね」

 帰宅してしばらくした日。香箱を組んでいるボビを眺めていて、ふと雌鶏を思い出しました。白くてふっくらした姿がなんとなくそれっぽく見えたのです。

「ボビもわしゃわしゃしてみる?」

 私の足元にすり寄ってきたとき、すかさず後ろから胴体をつかみ、わしゃわしゃわしゃ……!

「んにゃんっ!」

 あ、あれ? 怒った……?

「にゃおうんっ!」

 ごろん! 横になっておなかをなでろと催促です。

「お、おう。気に入ったのね?」

 それからというもの、何かあると私の目の前へやってきて、くるっとお尻を向けて『わしゃわしゃ』を請求するように。その姿はあの日の雌鶏にそっくりなのでした。

猫
キッチンで何かしていると、トットッとやってきてお尻をくるり。「わしゃわしゃしてぇー!」

意外な武闘派 これなら安心

 そんなボビですが、実は6匹いる猫家族のなかでは、比較的いじめられっ子なのです。特に長男猫の梵天丸が、なにかというとボビを追い回します。

 姉妹のサビもおいっ子のエンマも、知らん顔。人間だけが「こらっ梵っやめなさい!ボビちゃん何にも悪い事してないでしょっ」

 これでは留守中、どうなってるんだか気が気ではありません。どうかすると、ほかの猫も尻馬にのって、ボビをいじめている気配さえあります。どの子も私には大切な家族。ですが、弱い者いじめは許すわけにいきません。困ったなあ……と思っていたら。

「ふぎゃーーーっ!フーーッ!フーーーッッ!シャーッ!ギャウウウゥ!」

 ただならぬ声が聞こえてきて、仕事部屋を飛び出しました。2階の廊下から、白い毛のかたまりがふわふわと落ちてきます。さてはケンカです。それもガチの。

「こらーっやめなさーーーい!」

 怒鳴りながら階段を上がってみると。廊下の隅っこで鼻の頭を擦りむいた梵がバツが悪そうに毛づくろいしています。尻馬に乗るつもりでかけつけた猫のアルとベルもびくびくと遠巻きにボビを眺めているばかり。肝心のボビは涼しい顔でトットッとこちらへ。

 くるっ、とお尻を向けます(お母さん、わしゃわしゃしてー)。

「ボビちゃん。あんた何したの?みんなビビってるよ?」

(ボビ、知らない)

「でも安心したよ。やるときゃやる女なんだね」

(やらないときは、やらないけどね)

 どうやら今日も我が家は無事なようです。

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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猫と暮らし始めて、気が付けば40年! 保護猫ばかり6匹と暮らすライターの、まさに「カオス」な日々。猫たちとの思い出などをご紹介します!
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