和庭園でくつろぎ トカゲやスズメのお土産持参で帰宅する、三毛猫「タマちゃん」
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
跳躍力にすぐれた三毛猫「タマちゃん」
小さいころ、猫はみんな同じようなフォルムだと思っていたけれど、猫がどんどん増えていくにつれ、それぞれ特徴があることに気付いた。
それは「タマちゃん」の後ろ足がとても長く、跳躍力がずば抜けていたからだ。
タマちゃんはキリっとした三毛猫で、どことなく「姐(ねえ)さん」という貫禄があった。
竹脇家の猫たちは外出をしない。初代の猫たちは庭を満喫していたが、大怪我をして帰ってきたことがあり、それ以来、みんな家の中に居てもらうことになった。
しかし、タマちゃんだけは台所脇の小さな勝手口にむかって「にゃーーん」と鳴き、それを母が「はい、はい」と受けて扉を開ける。すると目の前の塀に軽やかに飛び乗り、外の空気を胸いっぱいに吸い込み、さっそうと散歩に出かけて行った。
そして夕方になると、台所にある小さな窓に向かって「にゃーーん」と鳴き、台所に人がいなければ庭に回ってきて同じように鳴いて家人に合図し、必ず帰ってきた。
和風庭園で優雅に過ごす
さて、我が家の目の前には、手入れの行き届いた和風庭園が広がるすてきな家があった。そこには品の良いご夫妻とお嬢さん、そしてかわいいヨークシャーテリアのエル君が住んでいたが、ご家族全員、庭に出ることはなく、完全な観賞用だった。
薄く雪が降ったある冬の日、かの奥様が私と母に、「お宅のタマちゃんのね、小さくてかわいい足跡が、雪の上にチョンチョンチョンって残っているのよ。夏はとっても気持ちよさそうに木陰で寝ているの」とおっしゃるではないか。
実はそのお宅、猫は得意でなはいと伺っていたので、私も母もひきつる笑顔を顔面に貼り付けたまま、「ご、ご迷惑をおかけしてしまって……」と、じりじり玄関に後ずさりした。
帰宅してからタマちゃんに「姐さん、やるわね」と、家族で大笑いしたのは言うまでもないが、家に季節ごとに送られてくる贈答品の奥様への「おすそ分け」が、ちょっと豪華になったような気がした。
タマちゃんと黒いチョウ
そんなタマちゃん、狩りも大得意でトカゲやモンシロチョウ、たまにオナガやスズメを咥えてきては、勝手口で母と小競り合いをしていた。家に持ち帰ってみんなに自慢したいタマちゃんと、持ち込んでほしくない母。とりあえず勇者タマを褒め、なんとか口から離してもらう。そして必死の説得の末、タマちゃんだけご入場いただき、息があるものは、もう一度自然に戻ってもらう(ほとんどは庭に埋まっている)。
しかしある日、口中に泡を吹きながらよろよろとタマちゃんが帰ってきた。みんなで大騒ぎして触診していると、口の中からぽろっと真っ黒なチョウのようなものが出てきた。どうやら鱗粉(りんぷん)をもろに飲み込んでしまったらしい。しかし幸い重症にはならず、短時間で症状が治まり、みんなで胸をなでおろした。
タマちゃんは後ろ足がすっと長く、抜群のバネを持っていたから、チョウだろうと鳥だろうと捕まえずにはいられなかったのだろう。
彼女は家にいるときも、いつも窓越しに何かを狙っていて、ヒゲがシャンっとしていて、隙がなかった。
だからあの美しい和風庭園で寝そべり、穏やかな寝息を立てていたのかと思うと、少々妬ける。ねえ、それ、うちでもやらないの?と撫でまわすと、ちょっと迷惑そうにニヤっと笑ったような気がして、ますますタマちゃんの虜になった。
今でも春先に黒いチョウを見かけると、タマちゃんの雄姿が目に浮かぶ。
記憶をたどってみると、我が家の歴代の猫たち、男の子よりも女の子の方が、活発かもしれない。皆さんのお宅はどうですか?
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