魔法をかけたかのようにぴたりとケンカを納める 仲裁猫の「イリヤ」
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
家族全員が動物好きだった竹脇家には、私が物心ついた時には犬が3匹いて、庭には母が作った鳥のエサ台があり、野良猫がたくさん遊びに来ていた。
彼らは外で暮らす厳しさはあってもわりとのどかで、たくさんの「いきつけ」でご飯をもらい、どこかの庭や物置で眠ることを許されていた。
猫が苦手なご近所さんも「あら、あら」と、庭の片隅で香箱を作る猫に意地悪をすることはなかった。
私が小学2年生だったある日、ひとつ上の姉と犬の散歩についていったら(大型犬だったので、調教師が散歩を任されていた)、犬が前日の雨にぬれたいばらの中に顔を突っ込み、子猫を3匹みつけた。
「どうしよう?」と犬が私たちを見上げたので、「しかたない、連れて帰ろう」と犬に言うと、ほっとした顔をした。
早速母に話をつけ、洗面器にお湯をはって汚れを落としつつ温めたが、弱っていた1匹は助からなかった。しかし2匹はぐんぐん元気を取り戻し、めでたく初代の猫となった。
名前は三毛のミーと、茶トラのトラ。びっくりするくらいベタな名前だったが、ミーは姉に、トラは私に懐き、それぞれのベッドで一緒に眠った。大好きな犬と私たちで見つけた小さな小さな宝物。その時、「動物園の飼育係さん」が夢だった私の動物愛が猛烈に開眼してしまったことは、言うまでもない。
さて、もちろん家族も見事に開眼したその愛は止まることがなかった。父はやたら美しい猫をもらってくるし、姉はあらゆるところで弱っている猫を見つけては拾ってきて、母は拒むことなくせっせと全員の面倒を見た。一番小さい私は近所の猫担当で、子猫がどこかで鳴いていると、子供の特権を使って回収してまわった。
多い時で30匹を超える動物たちが家じゅうを右往左往。もちろんお世話はとても大変で、夏休みになると私がほぼ任されたために、2学期の私は、ちょっとほっそりしていた。
そんなにたくさんの猫や犬がいても、1匹1匹、全然違う。庭や道端から我が家にたどり着いてくれた動物たちのエピソードは、現在進行形で尽きることがない。
さて、初回を飾るのは多頭飼いの救世主、「仲裁イリヤ」だ。大きなオスのキジ猫で、耳が小さくてしっぽがふわふわのイリヤは、庭からやってきた。この美しい猫は優しい性格で、何事もどんぶり勘定だった。ケンカすることは一切なく、たくさんの動物たちの間を大きな魚のようにゆらーり、ゆらーり歩いた。
どこかで「みゃーーーーーお!!」「ふーーーっ! しゃーーーーっ!」と聞こえてくると、イリヤは、のっそり歩いていってゴロンと床に寝転び、猫たちのケンカを止めてしまう。どんなに大きな猫も、新入りの子猫も、イリヤが通るとまるで魔法にかかったみたいにピタっとケンカを止めた。
それが面白くて、猫のケンカが始まると、家族みんなで「イリヤ、お願い!」と声をかけていた。彼は嫌がることもなく、いつもの調子でのんびり立ち上がり、ゴロン。犬と猫の小競り合いにも、ごろーん。全部ぴたっと納めてしまう。
庭で野良猫たちがケンカを始めると、窓際にひょいと乗り、じぃっと見つめて念を送っているようだったが、それは届くはずもなかった。
優しくて大きなイリヤはどんな猫たちからも好かれていたし、犬たちからも一目置かれた存在だった。歳を取って天国へ旅立ったが、きっとあちらではケンカは起こるまい。暇を持て余して、きっと下界の猫たちのケンカに、じぃっと念を送っているのかも、と、時々思い出してはウフフ、となる。
これからの寒い季節は、猫の恋の季節だ。遠くから聞こえてくるオス猫たちの唸り声に「イリヤ、お願い」と、ついついつぶやいてしまう。
- 花の夢 ぬりえBook 花の館のどうぶつたちの、もうひとつの物語
- イラストレーターの竹脇麻衣さんが描く、大人気ぬりえBookの第4弾が発売中。
著者:竹脇麻衣
出版社 : コスミック出版
定価:1300円+税
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。