幼い母猫に置いてかれたミケとミケ子 譲渡先が決まるも脱走「猫はあげない」と決めた
イラストレーターの竹脇さんが育った奥深い住宅地。この場所で日々繰り広げられていた、たくさんの猫たちと犬たちの物語をつづります。たまにリスやもぐらも登場するかも。
我が家にやって来た幼ない母
奥深い住宅地にたたずむ竹脇家には、いつも幼い母がやってきては子を産み、育てきれずにプイっといなくなってしまうことがよくあった。
もちろん、猫の話である。
私が子どもの頃はまだ、野良猫は家に入ってきたら去勢や避妊の手術をするが、外での生活を謳歌(おうか)している野良猫の猫権は尊重されていた。もちろん外には危険がいっぱいだから、懐けば家に入れるが、家猫を拒む猫には、「困ったらいつでも言いなさい」と声をかけていた。
さて、幼い母である。
やっぱりその年も2匹の可愛い三毛猫が置いていかれた。和風美人のミケと洋風美人のミケ子。2匹ともとても気立てが良く、すぐに家になじんだ。
しかしミケは若くして病を患い、どんどん弱っていった。私は大好物のパンを一切絶って願掛けをした。お弁当もなるべくお米にしてもらい、とにかく一生懸命祈った。
その幼い願いが届いたのか、ミケは一度快復したが、喜ぶのもつかの間、発病から半年くらいでこの世を去ってしまった。
「ミケ子が欲しい」
ミケ子は寂しそうにしていたが、あとからやってきた子猫の面倒をみたり、言い寄ってくる雄猫を上手にあしらいながら、我が家でのんびり暮らしていた。
ところがある日、母親が「ミケ子を欲しいという人がいるから、今度届けます」と突然言い出した。私はびっくりして断固拒否したが、子どもにとって親は絶対君主である。どんなに泣きわめいても、母親の気持ちは変わらなかった。私は目を真っ赤に腫らしながら「じゃあ、私もついていく」と弱々しくつぶやき、ぎゅっとミケ子を抱きしめた。
譲渡当日、夕方遅い時間に母親と譲渡先の家に行くと、優しそうな女性とその娘さんがミケ子を待っていた。私が難しい顔をしながらミケ子が入ったキャリーバッグを手渡した瞬間、「あ!!」と全員が叫んだ。
待ちきれず娘さんが開けたキャリーバッグから抜け出したミケ子が、私たちが帰るために薄く開いていた扉から外に脱走したのだ。
全員が凍り付いた。けれど遠くに行ってしまう前に、早くミケ子を探さなくては! と、全員が懐中電灯をもって外に駆け出した。子猫の時に家猫になってから一度も外に出たことがないミケ子を思うと、涙があふれた。全く知らない土地でおびえているに違いない。
「ミケ子!ミケ子!」と呼び続ける私の耳に、「ニャーン」と物置の下から弱々しい声が聞こえた。這いつくばって下を覗き込むと、目を真っ黒に見開いたミケ子がいた。
引きずり出してミケ子を抱きしめ、母親の方をキッとにらんだ。多分私はものすごい形相だったのだろう。母親は譲渡先の親娘に「ごめんなさいね、ミケ子は連れて帰ります」と言った。
帰りの車の中、私は無言でミケ子が入ったキャリーバッグを抱きしめ、家に着いた途端、車からパッと降りると、母親には目もくれずミケ子と2階の子ども部屋に上がった。
もう二度と嫁には行かせない!
それから先、二度と猫を誰かにあげることはなかった。
一度うちの敷居をまたいだら、「竹脇」の名字が付く。
お婿にも、お嫁にも出さない。
たまにカーテンの下から我が家の猫が顔を出し、まるでヴェールをまとった花嫁みたいになると、「ダメです。お嫁には行かせません」などと涙ぐんでいるのだから、私の猫好きはかなり重症なのだろう。
- 3つの香りのボディクリーム
- 竹脇麻衣さんがパッケージのイラストを描いたボディクリームが発売中。「コスメフルフリ」で好評の乳液タイプの美容液「3つのベリー」の調合をベースにクリームとしてアレンジ。なめらかなでサラリとべとつきがなく、無添加が特長です。美容液成分がガサガサになりがちな冬の角質層を潤します。香りは、かりんローズ、ネロリローズ、ダブルミントの3種類。商品の詳細はこちら
sippoのおすすめ企画
「sippoストーリー」は、みなさまの投稿でつくるコーナーです。飼い主さんだけが知っている、ペットとのとっておきのストーリーを、かわいい写真とともにご紹介します!
LINE公式アカウントとメルマガでお届けします。