じじ柴ハチさんとのいとしき日々 老いて変わっていく愛犬「本当に可愛い」
『96歳の柴犬ハチさんは、今日もお散歩しています。』(竹書房)とその第2弾となる『じじ柴ハチさんは、今日も生きています。』は、コノマエヨミ子さんの愛犬の様子をつづった漫画。切ない老犬の生活がリアルに、時にユーモアを交えて描かれています。人生の大半をハチと分かち合ってきたコノマエさんに、シニア犬との向き合い方とあふれる思いを伺いました。
成犬になれないかと心配
「私がハチと初めて会ったのは小学生高学年の時。それ以来、兄妹であり、親友であり悪友であり……大事な相棒なんです」
コノマエさんが、感慨深そうに話す。
柴犬ハチは、当時40代だったコノマエさんのお父さんが譲渡会で出会った。母柴の飼い主がセンターに持ち込んだという。
「父はもともと、ハチの兄弟を先に見て『欲しい』と思ったのですが、他に希望者がいたので、ジャンケンをしたら負けて。会場のスタッフに“兄弟犬がいますよ”といわれて見ると、隅っこで小さくなって震えている子犬がいた。それがハチでした」
ハチは弱そうで、家に連れて帰る車中でもゲーゲー吐いたので、「成犬になれない弱い子かも」とお父さんは心配したという。初日はコノマエさんも“お触り禁止”だった。
ハチは、コノマエさんの抱いていた子犬のイメージと違ったようだ。
「子犬ってころころと丸い感じですが、ハチは細くてとんがって耳ばかり大きくて、キツネ!?と思いました。触ろうとすると、するりと逃げるわがぶりとやられるわ、手ごわかった。でも生傷だらけでじゃれあったお陰で、割とすぐ“子分認定”をいただけました(笑)」
ハチは次第に頼もしい存在になった。アラームが鳴ると起こしに来たり、散歩中に歩調を合わせつつリードしたり、コノマエさんがお母さんに叱られるとすっ飛んで来たり。
「気が付くと足元でまるくなっている。そのくせハチ~と抱きつこうとするとスッとかわされて。イチャイチャはさせてくれない硬派なイケメンでした。でも遠ぼえが音痴だったり、どえらい寝顔だったり、結構ビビりだったり、そのギャップにベタぼれでした」
コノマエさんが思春期に家出をしたいと思った時は、「でも、ハチと居たい」と思いとどまったそうだ。
老いてそれまでと違う関係に
すくすく育ったハチは、10歳を過ぎても若々しく元気だった。コノマエさんが働きはじめた時は15歳で、まだまだお散歩大好き。16歳になっても食欲旺盛だったが、17歳の冬に急に倒れた。劇症肝炎だった。
コノマエさんは、ハチが幼い時から成長を記録した「ハチ日記」をつけていたが、倒れてからの日々を漫画に描くことにした。
「2週間の昏睡(こんすい)の後、奇跡的に回復したのですが、急に老いて、それまでとは違う関係になってしまったんです」
足腰が弱くなり、見かけも変わった。みっしり生えていた赤毛からポソポソの白茶になり、顔も白くなった。シッポは先の方から毛がはげて、中身だけ残って細くなった。
「いろいろと変化したんですよね。鼻や肉球の柔らかさがなくなって、筋肉や関節が硬くなって、散歩がゆ~っくりになって。ひとりで立ち上がることもむずかしくなりました……」
毛が少なくなった体を触ると、前より冷たかったので「洋服」を着せるようになった。床ずれができないように、寝返りのお手伝いも必要になった。
それでも支えると歩き、おしっこも立ってしたがり、林に下ろしたとたん、じょーじょーと元気よくした。好きなサンマを焼くと、ハチは目を光らせて完食した。
「すべて失われたわけでなく、毛の抜けた尾は感情にあわせて動いたし、はげて肌色だったおなかには新しくモサッと白い毛が生えてきたんですよ」
ハチはおじいちゃん犬として頑張って生きようとしていた。家でのトイレ時などに鳴いて呼ぶので、両親とシフトを組んで、必ず誰かが“新生ハチ”のそばにいるようにした。
今がいちばん可愛い
18歳を過ぎると、ハチは少し離れた所から警戒したように「じいっ」とコノマエさんを見たり、隙間にハマッて出られなくなったり。ボケの症状だ。
「ハチが散歩中に急に“無”になって一点を見つめたり、背中を丸めた前傾のローケン’sスタイルで長~いおならして気づかなかったり(笑)。でもその姿が本当に可愛いんですよ、『今がいちばん可愛いんじゃ……?』と思うくらい」
年をとっても変わらない面もあった。それは、マイペースさと、こだわりの強さ。
「急がない、慌てない。気に入らないものは気に入らない。寝床はテーブルの下、バスタオルはお下がりが好き、水は新しいものがいい……ご飯は毎回くんくんチェックするのですが、子犬の頃から慎重だったので、それがこだわりとして残ったのかもしれません」
食事は昔から魚、肉、卵、乳製品中心でカリカリは間食程度。シニアになっても変わらなかったが、食べやすくほぐしたり、薬を混ぜたり水分を含ませたりして、工夫をした。
「同じ物が続くとプイッとするので、特売や魚のアラコーナーをチェックして、色々調達しました。基本はゆでていますが、時々焼いてみたりして。シニアになってからは一回の量は減らし、かわりに食事の回数を増やしました。医療費がいつまでいくらかかるとわかっていたら、もっと食事も充実させられるのになぁ……なんて思ったこともありますけど」
やってよかったこと、やっておけばよかったこと
介護グッズもいろいろと試したコノマエさん。はじめは健康に良いこと=長生きする為と考え、完璧に頑張ろうとしたが、ある時「ハチはハチのスタイルで、もう長生きしているんだ!」と気づいたそう。
「何もかもはできないので、ハチの顔色を見ながら、“いい顔をしていたらよい”ということにしました。ハチに主導権を持ってもらえたのは、お互いによかったかも。でもお風呂に関しては……考えましたね」
老犬には皮膚のケアが必要だが、ハチは若い頃からお風呂嫌い。そこで動物病院に相談し、「薬湯」にいれてもらったそうだ。
「ハチがトリマーのお姉さんを好きだったのが何より(笑)。優しくお風呂に入れてもらうのが気持ちよかったみたい。気候や体調を見ながら、定期的に薬湯に通いました。若い頃からしておけばよかったなあと思うのは、 トイレに関して。家の中でも出来るよう、場所を作ってトレーニングしておけばよかったなあと思います」
時々車でトイレシートを使うことがあったので、シート=トイレと認識してもらえたが、「シニアになって一から教えたら大変だった」と振り返る。
失敗させてしまった時のしょんぼり顔を思い浮かべると、コノマエさんは今も胸がぎゅうっとなるそう。
朝から何も変わらなかった日に
ハチが17歳で倒れてから、「目指せ二十歳!」を合言葉に、リハビリして18歳、19歳、そしてついに2015年5月に20歳の大台に乗った。
「言葉はわからなくても、何かを感じて20歳まで頑張ってくれたのかなあ」
ハチに異変が起きたのは、20歳を迎えてまもなくだった。
朝から何ひとつ変わらない日。朝からちょっと食欲がなかったが、ウンチが出ていないからかな、とコノマエさんは思った。そのくらい、いつもと変わらぬハチだった。
「父と交代して買いものに行って、母も外出から帰ってきて家族そろって。そうしたらご飯の支度中、ハチさんがアウッアウッと鳴いたので、『サンマの催促ですか~』となにげなく見たら、浅く呼吸してそのまま……それが、最後でした」
あまりに急だったので、悲しむ間もなく、まだ居るみたいな感覚が続いているという。
「普通に家族の会話に出てきますし、毎朝、写真の前に卵焼きとハムを置いて。ペットロスの前に、まだロス出来てないような……」
ハチが家からいなくなり、家族に変化はあったのだろうか。
「久しぶりに家族3人で出かけましたが、そこでもハチの話をして。多分ずっとこんな感じなのではないかなあ。今も家族の中心にハチが居る。それは変わりません」
コノマエさんは思いの丈を漫画につづっているが、あらためて、こんなふうに語ってくれた。
「ハチと出会った時はお互いに子どもだったので、もしもう一度犬を迎えても、私は大人からのスタートで、一緒に大きくなる事はない。そう思うと本当にかけがえのない、戻らない時間なのだなあ……。あの時、ハチに、出会えて、私は幸せものです。ハチ、今までもこれからも、ありがとう」
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