ペットが亡くなり獣医療ミスの可能性がある場合 落ち着いてから第三者に相談を

 ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点から解説します。今回は、動物病院で犬や猫が亡くなり、獣医療ミスの可能性がある場合です。

「動物病院に連れて行ったのに…」 

 ペットなど動物に関する法律相談をしたいという連絡を全国各地からいただきます。

 寄せられる相談の中でかなりの割合を占めているのが、「動物病院に連れて行ったが亡くなってしまった。獣医師のミスではないか?経過の説明を求めたが、獣医師にちゃんと説明してもらえず、納得がいかない」といった獣医療過誤の可能性がある事案です。

 相談者の多くは、愛するペットを亡くして間もない時期に、深い悲しみ、やり場のない怒り、後悔、無力感などがごちゃまぜになった状態でやってきます。

三毛猫
愛するペットが動物病院で死んでしまったら

 それらの感情を共感しつつ受け止めるだけでもかなり大変なのですが、相談者の話をずっと聞いてあげるだけでは法律相談にはなりません。

 ひとつひとつ順を追って事実経過を説明してもらいながら、証拠関係の有無を確認し、できることとできないことの整理、これから取るべき手順についてアドバイスすることになります。

「過失」が認められるのは簡単なことではない

 一般論として、獣医師の診療行為に「過失」があると認められ、その過失によってペットが死亡したと判断される場合は、獣医師や動物病院は、飼い主に対する損害賠償責任を負うことになります。

 このように言葉でいうのは簡単ですが、実際はそう簡単なことではありません。飼い主が獣医療過誤があったと思っても、法律上の「過失」があったとは必ずしもいえないからです。

 動物病院で獣医師が行う診療行為にもさまざまなものがあり、その中には危険を伴うものもあるでしょうし、ペットの持病や高齢などにより、診療行為によるリスクが高まることもあります。

 事後的に、診療や手術の経過について、担当した獣医師から詳しい説明を受けることにより、納得できる、あるいはそういうものかと気持ちの整理がつけられることがあるかもしれません。

 獣医師がカルテを見せながら、丁寧な説明をすることで、獣医師の考えや手術時の状況が理解できるかもしれません。逆に、最低限の説明もなければ、言えないようなことがあったのでは?と疑念が大きくなることが多いでしょう。

外部の専門家から意見を聞くことが重要

 獣医師の過失があったかについて双方の見解が食い違うときは、カルテ(血液検査の結果や、どの時点でどのような薬剤をどれだけ投与したかなどの記録)のコピーをもらい、それを外部の獣医師に見せるなどして、専門家の客観的な意見を聞くことが重要になります。

 利害関係のない獣医師が、過失があるとはいえない、または過失がないとはいえないけれど証明するのは難しい、といった意見であれば、残念ながら、法的責任を問うことは困難と思われます。

眠る犬
民事調停を申し立てるという方法も

 また、動物病院との話し合いでは解決できない場合、すぐに裁判所へ訴訟をするのではなく、例えば、民事調停を申し立てることも考えられます。

 民事調停は、簡易裁判所で話し合いを行うもので、2名の調停委員が個別に事情を聞き、紛争の当事者が直接顔をあわせずに、合意による解決を目指す手続きです。この手続きであれば、弁護士に依頼しなくても、申し立てることができると思います。

訴訟になると経済的、精神的に負担大

 一般的に、当事者として紛争が続いていることは精神的な負担となります。しかも裁判所での訴訟となれば、双方に弁護士がついて、書面で主張や反論を繰り返し、裏づけとなる証拠資料を提出した上に、ドラマのように法廷で証言することもあります。

 相手方の主張や対応に何度も立腹したり、審理の展開が思うように進まないことに不安や失望を覚えたり、長期間にわたり大きなストレスが続く可能性があります。裁判をしたことで精神的につらくなっても、そのことによる慰謝料が認められることはまずありません。

 また、獣医療過誤の訴訟は、獣医療に関する専門的な事柄が争点となる可能性が高く、引き受けてくれる弁護士を探すのもかなり難しいと思われます。経済的な負担も相当なものになることを覚悟する必要があるでしょう。

つらい経験をしたらまずは心身を休めて

 それらの高いハードルをいくつもクリアして訴訟をし、勝訴判決をもらえたとしても、得られるのは金銭の支払いです。獣医療過誤の事案では、判決で謝罪をさせることはできません。

 ネガティブな話ばかりで恐縮ですが、亡くなったペットの思いを想像しつつも、飼い主家族の体力・気力・経済力を考えて、どこまでやるかを当初の段階で慎重に検討することが大切だと思います。つらい経験をした飼い主さんには、少し休んで落ち着いた段階で、弁護士など外部の第三者に相談することにより、冷静な検討ができると思います。

(次回は2月15日に公開予定です)

【前の回】クリスマスに犬や猫を買って家族を喜ばせたい、これってダメ? 一緒に考えてみよう

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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この連載について
おしえて、ペットの弁護士さん
細川敦史弁護士が、ペットの飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点からひもときます。
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