愛犬のその後を決める 「犬の社会化」に必要なこと

兄弟や他の犬と遊ぶのも大切な勉強
兄弟や他の犬と遊ぶのも大切な勉強

 人間の赤ちゃんは、周囲の大人からたくさんのことを学んでいます。そして、ある程度の年齢になると、同じ年頃の子供と遊んだり、幼稚園に行ったりして、家庭の外の世界で、さらに多くのことを学びます。一方、子犬の場合は、人間が積極的に言葉やルールを教えようとしなかったり、ほかの犬とまったくふれ合う状況を作らなかったりした場合、何も学ばないまま、大きくなってしまうこともありえます。犬には、人間のように毎日、幼稚園や学校に通ったり、勉強をしたりする機会があるとは限らないのです。


 そこで、飼い主は子犬に対して、「社会を教える」ように心掛けることが大切です。

 

 

◆犬の社会化って?

 犬にさまざまな経験を積ませて、社会に慣れさせる「犬の社会化」。この「社会」には、人間社会だけでなく、ほかの犬との社会も含まれています。


 社会化ができていない犬にとっては、世の中の多くのものが「経験したことのないもの」です。未知なる世界は、人にとっても恐怖の対象となりますが、これは子犬でも同じです。未経験のものや知らないものは怖いため、吠えたり、威嚇したりしてしまうのです。


 子犬のうちに以下のような経験を積ませることで、「怖くないんだ」「普通のことなんだ」ということを教えてあげましょう。


・人に慣れる


 子犬を迎えたら、なるべくたくさんの人に会うようにしてください。積極的にお散歩に行って、たくさんの人に会う経験を積むことで、「人がたくさんいる場所」や「家族以外の人」に慣らすことができます。


 子犬が問題なく散歩をしたり、人と会えるようであれば、近所の方の手からおやつをあげてもらったり、なでてもらいましょう。ただし、いきなり正面から頭の上に手を伸ばすと子犬が怖がる可能性があるため、おやつで気を惹きながら横からなでてもらうのがおすすめです。


 なお、社会化のためには、いつも同じ人になでてもらうのではなく、老若男女いろいろな人にお願いするのが効果的です。また、「散歩中に会う人」「家に遊びに来た人」「獣医師」など、さまざまなシーンで人に慣らしていくことも大切です。

 

人とのふれ合いで、人に慣れさせる
人とのふれ合いで、人に慣れさせる

・犬に慣れる


 他の犬を怖がったり、吠えたりしないように、できるだけ多くの犬と会わせて、楽しく触れ合う経験を積ませましょう。


 ただし、犬とふれ合うのが得意でない犬もいます。いきなり犬同士を近づけるのではなく、まずは飼い主さん同士が挨拶をし、相手の了解をとりましょう。飼い主さんがOKでも、相手の犬が後ずさりしたり横を向くなど、嫌がるそぶりを見せたときは、距離をとって好物を与えるなどして、悪い印象が残らないようにしましょう。


・たくさんの刺激に慣れる


 爪切りやシャンプー、ブラッシング、歯磨きなど、犬には慣れさせるべき行為がたくさんあります。子犬のころから体を触る練習をして、スムーズなお手入れができるようにしておきましょう。お手入れを嫌がるようならないように、やさしく褒めておやつをあげながらやるなど、「お手入れをするといいことがある」と思わせるようにしてみてください。


 また、バイクの音や電話のベル、テレビから聞こえる犬の吠え声なども、犬にとっての刺激になります。こうした音にも慣れさせる必要がありますから、いろいろな音を聞かせてみてください。怖がる様子が見られたら小さな音から少しずつ慣らし、同時に好物を与えるようにしましょう。

 

トリミング、シャンプーにも慣れさせる
トリミング、シャンプーにも慣れさせる

◆社会化期の過ごし方が、その後の生活を左右する

 3週齢から16週齢頃を社会化期と呼びます。 社会化期の子犬は、柔軟に物事を吸収し、覚えていきます。この時期の経験が、その後の犬の生活を左右することになるといってもいいでしょう。この時期に引きこもって犬や人と会わず、ケージの中で留守番ばかりして育ってしまった犬は、将来、問題行動を起こす可能性が高くなります。


 もちろん、社会化期を過ぎたら社会化ができなくなるということではありません。しかし、幼い子供が老人よりも新しい環境に適応しやすいのと同じように、犬も月齢が上がるごとに社会化がしづらくなってしまうのです。

 

 

◆「うちの子は穏やかだから大丈夫」は本当?

 犬にも人間と同じように性格があります。ですから、最初からどこを触っても怒らず、散歩中ほかの人や犬に吠えたり走っていこうとしたりすることなく、何の問題もなく成長していくような子犬もいるでしょう。だからといって、「うちの子は大丈夫」と思い込んで十分な社会化を行わないと、成長するにつれて問題が起きてくる可能性があります。


 中には、今までできていたことができなくなったり、ほかの犬が苦手になってしまったり、人に吠えたり咬みついたりするようなケースもあるのです。


 同様に、「もう十分に社会化できた」と判断して、人や犬と関わらせるのをやめてしまった場合も、だんだんと元に戻ってしまうことがあります。


 犬の社会化は、犬が楽しく暮らしていくために、必ず行わなければいけないことです。社会化期にはもちろん、それを過ぎたあとも、「いろいろな経験を積ませる」ことを意識して犬と接するようにしましょう。うまく社会化ができている犬にとっては、そうした経験を飼い主さんと継続的に積んでいくことが勉強になるのと同時に、楽しく充実した時間でもあるはずです。

 

 

「こころのワクチン ――子犬に教える人としあわせに暮らす方法」

  著者:村田香織
  出版社:パレードブックス
  定価:1,543円 (税込)
  体裁:四六判・294頁(ソフトカバー)

監修:村田香織
獣医師、もみの木動物病院(神戸市)副院長。イン・クローバー代表取締役。日本動物病院協会(JAHA)の「パピーケアスタッフ養成講座」メイン講師でもある。「パピークラス」や「こねこ塾」などを主催、獣医学と動物行動学に基づいて人とペットが幸せに暮らすための知識を広めている。

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この連載について
子犬の飼い方・しつけ方
犬のしつけで大切なのは、子犬の時期。飼い方やしつけのポイントを、動物行動学に詳しい獣医師に解説してもらいます。
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