行方不明になって376日、無事見つかった猫 きっかけは貼り替え続けた捜索チラシ

 年老いた両親と共に可愛がっていた茶白の雌猫「ねね」が、ある日、忽然と海辺の家から姿を消した。懸命に探し回り、町内のチラシはいつも新しいものに貼り替え続けた。ねねは必ず帰ってくると信じて。情報もすっかり途絶えた頃、「この猫を見た」という電話が、チラシを見た人からかかってきた。行方不明から376日後のことだった。

(末尾に写真特集があります)

いつも猫がそばにいた

 初冬の日差しが、窓から降り注ぐ。2階の窓からは、九十九里の青い海がすぐそこだ。幸子(さちこ)さんのそばで、6歳の愛猫「ねね」が転がる。甘えても甘えても、甘えたりないように。ねねは、376日の行方不明ののち、ふたたび、幸子さんのもとに帰ってきたばかりだ。

寝転がる猫
幸子さんのひざ元で転がる、ねね

 幸子さんは、九十九里浜にある町に生まれ、小さい時から猫はいつもそばにいた。両親はじめ大の猫好き一家だったのだ。

 実家を出て近くに住み始めてからも、年を取っていく両親が気がかりで、仕事に出かける前と仕事帰りには、実家に寄るのが日課だった。猫たちの面倒も幸子さんが見ていた。  

6年前の秋、庭に捨てられた子猫に困った近所の人が連れてきたのが、「ねね」だった。当時いた老猫2匹は、すんなり新入りを受け入れた。

 老猫が相次いで旅立った後、「との」が迷い込んだ。青い目を持つ彼は、ねねとすぐに仲良くなった。猫をいじめる人などいない町だったし、開けっ広げな作りの古い家ばかりだから、この辺の猫たちは、みな、気が向くと外に遊びに出かける。ねね・とのコンビの遊び場は、もっぱら裏の雑木林だった。夕方になっても帰らなくても、雑木林で「ねね~、との~」と呼ぶと、すぐに「にゃあん」と返事が返ってきた。

原っぱにいる猫2匹
裏の原っぱで遊ぶとの(左)と、ねね(右)(幸子さん提供)

「どこへ行ってしまったの……」

 昨年11月7日のこと。仕事帰りに実家に行くと、朝はこたつの中でとのと一緒に寝ていたねねが見当たらない。

「母は『夕方はいた』というのですが、雑木林にもいない。周辺の川沿いなどを探してもいない。翌朝になっても戻らず、これは大変、ということに」

 もよりの警察署、保健所、愛護センター、清掃局にも連絡をし、必死で探し続ける。かなりの人見知り猫なので、連れていかれた可能性は考えにくかった。捜索2~3日後、「これはもうこの辺にはいないのでは」と、ネットで見つけた「ねこてっくす」という会社にチラシの作成を発注した。猫たちの写真はいつも撮っていたので、車窓からでも特徴がよくわかる大きめの写真を使ってもらった。チラシをスーパーや商店に配り、町なかに貼りながら、通る人に聞き込む日々。捜索やポスティングを、友人たちが大協力してくれた。

猫の捜索ポスター
特徴が明記されて、人目をひくチラシ

 情報はぽつんぽつんと入ってきたが、いずれもまるで違う猫だった。町の食堂のそばで見た、という情報が寄せられたときは、何日も張り込んだものの、空振りだった。

 SNSでも発信して拡散してもらったが、この地区はSNSなどからの情報を得る人は少ない。冬を迎え、コロナ禍で役所の窓口とは連絡が取れなくなってしまった。ねねがいない春を迎え、暑い夏が過ぎていった。

「何を食べて生き延びているのやら。寒い日にはどこで凍えているのだろう、暑い日には水は飲めているだろうかと、心が締めつけられる日々でした。でも、絶対にどこかで生きていると信じていました」

 あちこち捜索を続けながら、町なかのチラシは、破れたり色あせたりする前に新しいものに貼り替え続けた。

「以前、探し犬のチラシが電柱に貼られたままですっかり色あせて破れているのを見たんです。この犬は行方不明のままなんだろうか、飼い主さんはもうあきらめたんだろうかと、せつなかった。だから、『今も、探してます!』の思いを伝えるため、貼り直し続けたんです」

「この猫を、隣町で見ました」

 一年が過ぎたある日、携帯が鳴った。

「チラシの猫を、隣町で見ました」

 4キロ離れた隣町に住む女性だった。この町に来るたびに、きれいに貼り直し続けられているチラシがずっと気になっていたという。「こんなにいつまでも、いなくなった猫を探し続けている飼い主がいるんだ」と思い、猫の写真をまじまじと眺めた。

 その女性が、たまたま知り合いの高齢女性の家を訪れたとき、室内にいる猫を見て、あのチラシの猫と気づいたのだった。

「まさか、あんな遠くまで」と半信半疑で駆けつけた幸子さんだったが、玄関をあけたとたん、「ねね」とその名を呼んで、泣き崩れた。

猫の後ろ姿
左後ろ足のかかと模様が、大きな特徴

「たとえ、どんなに汚れて痩せ細っていたとしても、背中やかかとの模様で間違いようがなかったはずです」と、幸子さん。

 高齢女性は、口数少なかったが、「半年前に現れた」と話した。隣町に行くこともなく、SNSなどとも無縁だったから、探し猫とはまるで気がつかなかったのだ。可愛がられていたのだろう、ノミよけ首輪をつけてもらい、行方不明当時よりも少しふっくらしていた。幸子さんが差し出した指の匂いを嗅いだねねは、壁にスリスリして、甘えたいけどテレくさい、といったしぐさを見せた。

「半年もねねの面倒を見てくださり、情が移って別れが寂しかったはずなのに戻してくださったお気持ちには、感謝してもしきれません」と、幸子さんは語る。

一緒に新しい年を迎えるしあわせ

 実家に連れ帰ったねねは、あんなに仲の良かった「との」をすっかり忘れた様子である。

「父母は『ほんとに、ねねだ!』と大喜びしながら交代で抱っこしてました。でも、2度と行方不明にさせるわけにはいかない。実家での室内飼いは難しく、悩んだ末、私の家に迎えて室内飼いにすることにしました」

 幸子さんの家には、この地で保護した若い猫が3匹いる。ねねは、いちばん年長で、一番新入りとなった。お近づきになりたいチコは、さっそく猫パンチを食らう。ねねは、夏まではおそらく流浪の日々だったのだろう、少し気が強くなって、うんと甘えん坊になって帰ってきた。

ぽっちゃりした猫
太って帰ってきた、ねね

「ねねの新しい猫生は、この家で始まったばかり。時間をかけてゆっくり新しい仲間とうちとけあって、のんびり楽しく長生きしてほしい」と、幸子さんはほほ笑み、こう付け加えた。

「どの子も、宝物です。一緒に年が越せてうれしい」

 捜索をお手伝いした「ねこてっくす」の女性店長新村さんは、こう語る。「『絶対に見つけるからね!』という強い意志を持つ飼い主さんの場合、見つかるケースが多いですね。気持ちが猫に伝わったとしか思えません。そばに猫がいてくれる何でもない日常が、ほんとうに奇跡のようだと、私自身もかみしめながら、かけがえのない家族なのだと伝わるチラシ作りをしています」

 ねこてっくすがお手伝いして見つかったケースの最長は、失踪から3年5カ月ということである。

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佐竹 茉莉子
人物ドキュメントを得意とするフリーランスのライター。幼児期から猫はいつもそばに。2007年より、町々で出会った猫を、寄り添う人々や町の情景と共に自己流で撮り始める。著書に「里山の子、さっちゃん」「猫だって……。」など。Webサイト「フェリシモ猫部」での「道ばた猫日記」は11年目。

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猫の物語を描き続ける佐竹茉莉子さんの書き下ろし連載です。各地で出会った猫と、寄り添って生きる人々の情景をつづります。
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