動物病院での治療に「前向き」だった重い病気の猫 診察台に飛び乗り、注射も怖がらず
動物病院が好きだという猫はあまり聞かない。待合室でも診察室でもじっと固まっているか、または不安そうに鳴いていることが多い。診察室では獣医師や動物看護師に威嚇をする場合もあると聞く。
その点、ぬいぐるみ作家でありギタリスト、絵描きとして活動するおおくぼひでたかさんの “次女”「コロナ」は、ちょっと変わっていた。重い病が発覚し、亡くなるまでの約半年間の闘病中、自ら診察台に飛び乗って獣医師にからだを預けるほど、治療に「前向き」だったからだ。
気立てのよい猫
アメリカンショートヘアに似た灰色のしま柄と、客人を愛想よく出迎える気立てのよさで、誰からも愛されたコロナ。先住猫「モナコ」の妹として子猫のときに迎え入れて17年、大きな病気にかかることもなく過ごしてきた。だがこの春、あごの下が腫れ、動物病院に連れて行くと、舌の裏に悪性腫瘍が見つかった。
家から自転車で通えるこの病院は、西洋医療に東洋医療などの代替療法を取り入れた治療を行う。モナコを乳腺がんで亡くして以来、コロナと、その弟にあたる茶トラ猫の「なっちゃん」の食事を毎日手作りにするなど、愛猫の健康には気を使ってきたおおくぼさんは、病気の治療も、できるだけ猫に負担をかけない方法を望んでいた。
院長は美人のベテランの女性獣医師で、きさくで明るいが、言うべきことはにこやかにハッキリと口にする人で、真摯さを感じた。
おおくぼさんが、自然療法に近い形での治療を相談すると、手術や抗がん剤・放射線治療は行わず、コロナの体質に合わせて、自然治癒力を引き出す治療をしましょうと提案された。
コロナは通院中はずっと元気で、食欲もあった。ただ、舌の裏にできた腫瘍が大きくなって舌を出せなくなり、自力で食べることはできなかった。おおくぼさんはミキサーでポタージュ状にした手作りご飯をシリンジでコロナに与えた。
待ってましたとばかりに
コロナは治療に対して、とても積極的だった。
家から病院に連れて行くまではほかの猫にたがわずひと苦労だったが、自転車のかごにのせるとバッグからちょこんと顔を出し、気持ちよさそうに景色を眺めた。病院に着くと、待ってましたとばかりにバッグから出て、診察室の扉の前に座って自分の番を待つ。扉が開くと、トコトコ歩いて中に入り、自ら診察台の上に飛び乗る。診察中もしっかり先生のほうを向き、注射も怖がらなかった。
自分が何の目的でここへ来ているのかを、おそらく理解していた。
治療が終わってもまだ病院にいたいらしく、バッグに入ろうとしないこともあった。その様子に、院長や動物看護師、皆が笑顔になった。「こんなにやる気のある猫ちゃんには会ったことがない」と褒められた。
病院には院長の夫が顧問として勤務しており、おおくぼさん夫妻は「コモンさん」と呼んでいた。彼は「動物の言葉がわかる人」だった。
通院を始めたころ、おおくぼさんがコロナの病気についてあれこれ調べては先の見通しが暗いことに落ち込んでいたことがある。
そのとき、コモンさんは言った。
「飼い主さんが暗いと動物も元気がなくなり、自然治癒力が下がります。飼い主さんが治療に積極的に向かう姿勢を見せると、動物も安心して臨むことができるんですから」
この言葉は、おおくぼさんにとっての指針となった。飼い主の気持ちは、コロナに伝わっていたのだろう。
今日も台所に立つ
夏に誕生日を迎えて18歳になったが、毛づやもよくふくよかで「その歳には見えない」と言われるのはおおくぼさんの自慢であり、コロナも鼻高々な様子だった。
亡くなる直前まで食欲もあり元気だったが、心臓の具合が思わしくないね、と話していた矢先、心筋症によって旅立った。
舌の裏の腫瘍は、すっかり小さくなっていた。
おおくぼ家の末っ子なっちゃんは、コロナを失った直後は現実が受け入れられず、コロナを探して家の中を歩き回った。いないとわかると落ち込んで、食が細くなった時期もあった。
今は、元気に一人っ子の生活を謳歌している。
そんななっちゃんにご飯を作るため、おおくぼさんは今日も台所に立つ。
(次回は12月25日に公開予定です)
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