猫が飼い主を攻撃してきて怖い…どうすればいい? 猫の気持ちを考えて対処しよう

 猫と幸せに暮らすヒントや困りごとの解決法を、獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が教えてくれます。連載6回目は「猫が攻撃してくる時」です。

「猫がトラみたいになって私を襲う」

 私がまだ大学病院で行動学の勉強をしていた時の話です。あるクライアント様が、「とても怖くてお家には入れないの。うちの猫がトラみたいになって私を襲うの」と訴えられたことがありました。

 たった4キロの猫でしたが、お母さんに対する攻撃性は半端ではなかったようで、トラに化けていたようです。お母さんにとっては笑いごとではありません。飼い猫に攻撃をされて怖い思いをされている方は実は結構いらっしゃるのです。

猫は遊んでいるつもりでも

 猫はなぜ愛して世話をしてくれる飼い主を襲ってしまうのでしょうか?理由はいろいろありますが、最初にご紹介したいのが、遊び誘発性の攻撃行動です。

 猫さんは遊んでいるつもりなのでしょうが、人にとびかかっていってがぶがぶかみつく「遊び」は我々にとっては恐怖でしかありません。

狙いをつける猫
猫は遊んでいるつもりでも…

 最初にご紹介した猫さんも実は遊び誘発性の攻撃行動をする猫だったのですが、飼い主が仕事から戻るのを玄関のドアの影から待ち伏せし、玄関が開いたとたんに暗闇から飼い主の顔をめがけて飛んで行っていたようです。

 もちろん「ママ帰ってきた!遊んでー!」と飛びついていたのでしょうが、暗闇から猫が顔に飛んでくることを想像するとちょっと怖いです。

 こうした遊び誘発性の攻撃行動の対処として、まず、ご紹介している暗闇から顔に飛びつくトラさんのように感じる行動に関しては、危険なので、お出かけするときは寝室かリビングに閉じ込めていただき、その留守番をさせていた部屋を開ける際には、隙間を開けて様子を見て、おもちゃをもってそっちに気持ちを向けさせてからドアを開けるようにお伝えしました。

ルールを決めて猫と遊ぶ時間を

 多くの遊び誘発性の行動は、やはり猫の遊びが足りないから起こっていると考えられます。猫さんは人間が大好きで、特に若い猫さんは遊びも大好きです。やんちゃなので、人に飛びつくような遊びを発案する子もいます。

 ぜひ、遊ぶときは、素手で遊んだり、とびかかってきたときに「ダメでしょう!」と言いながら相手をしてあげるのではなく、おもちゃにとびかかる、というルールを教えていただきます。

 例えば、夕食後は必ず一生懸命一緒に遊ぶ、などルールを決めて猫と遊ぶ時間をとっておいてください。賢い猫さんたちは、遊ぶ時間があることを学習するとその時を待って遊ぶようになるでしょう。

遊ぶ猫
ルールを決めて猫と遊ぶ時間を

 猫の心理も幼い子どもの心理も実は一緒です。私も小さい時は普段遊んでくれないお父さんに遊んでもらうために、寝ている父の布団に飛び乗って父の反応を見たり、わざと仕事中に邪魔をしました。

 そして痛いからやめろと怒られていました。しかし、遊んでくれるお約束をしてもらうと、その時間までは一人でテレビを見て待つなど、自ら父の気を引くためのいたずらをしないで待てました。

 いたずらは結果的に怒られたりするし、結果的に遊んでもらえないので待つ方が得だからです。ぜひ猫ちゃんとは遊ぶ時間をとってたくさん遊んであげてください。

不安や恐怖から攻撃してしまうことも

 遊び誘発性の攻撃行動以外でよくあるのが、不安・恐怖と葛藤からの攻撃行動です。

 以前伺ったお話ですが、台所仕事をしていた際に猫さんが台所に入ってきたとき、偶然その瞬間圧力なべが「ピー!」という音を立ててしまい、猫がその音に驚いて飛び上がって逃げたそうです。その日から、お母さんが台所に立って、ちょっと動いたりするとお母さん背後からお母さんを襲うようになってしまいました。

不安そうな猫
強い不安が攻撃行動につながることも

 どうも、台所にお母さんが立つと非常に怖いことが起こる可能性がある、と学習し、お母さんが台所に行くと、勝手に強い不安を感じ、それがお母さんに対する攻撃行動へとつながったようです。

 対処法としては、食事の準備の前に猫を寝室に入れておき、食事の準備が終わったらまた出してあげる、ということをしていただきました。家族の誰かのことに対して恐怖を抱き、急に激しく攻撃することはよくあります。

 今回お話ししたように、環境を工夫して攻撃性を回避できればよいのですが、そうではない場合は、不安・恐怖や葛藤からのいきなりの攻撃行動に対しては、お薬を使って治療することができます。もともとすこしのストレスで激しい攻撃性が出るようになること自体、脳の機能異常がもともとある場合が多いため、お薬が有効になります。

体罰は「百害あって一利なし」

 遊びからの攻撃行動にしろ、不安・恐怖と葛藤からの攻撃行動にしろ、絶対に行ってはいけないことは体罰を与えることです。

 体罰を与えることで飼い主のことがもっと怖くなって、余計攻撃性が増したり、あるいは猫と人の関係が壊れてしまうことになります。体罰は百害あって一利なし、です。

攻撃性であったとしても、猫の気持ちを考えて、対処をしていきたですね。

(次回は1月10日に公開予定です)

【前の回】猫のいたずらや悪さを止めたい! 「やってはダメ」とどう伝えればいい?

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入交 眞巳
獣医師。東京農工大学 特任准教授。どうぶつの総合病院・行動診療科主任。旧日本獣医畜産大学卒業後、米国パデュー大学で学位取得、ジョージア大学付属獣医教育病院獣医行動科レジデント課程を修了。アメリカ獣医行動学専門医の資格を有する。

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この連載について
ねことの暮らし相談室
 獣医師で米国獣医行動学専門医の入交眞巳先生が、どうやって猫と幸せに暮らすかのヒントとともに、猫たちの困った行動への疑問に答えていきます。
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