犬や猫が虐待される事件を見つけたら 警察に通報して情報提供、刑事告発という手段も

 ペット関連の法律に詳しい細川敦史弁護士が、飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点から解説します。今回は、動物の殺傷や虐待事件を見つけたときに、私たちができることです。

事実を整理して冷静に伝えよう

 子犬や子猫、ウサギなどの弱い動物が殺されたり、虐待される事件をしばしばニュースで目にします。

 どこかで殺した動物の死骸だけを公園や学校など人目につきやすい場所に放置するケースもあれば、単に目立ちたいとか、反応を見て喜びたいだけなのか、それとも動画の再生回数でお金が入る仕組みがあるのか、インターネット上で虐待動画を公開するケースもあります。

 皆さんも、こうした殺傷・虐待事件を見つけた場合、気分が悪くなったり、やった人間を許せないという激しい感情を抱くこともあるでしょう。

 このようなとき、市民の立場でできることは、最寄りの警察署や交番に通報し、情報提供することです。電話では伝わりにくいときは、警察に出向いて資料を見てもらいながら説明すると効果的なこともあります。できる限り感情を抑えて、いつ、どこで、誰が、何を、どうした、という「5W1H」を意識した説明に努めると、初めて事情を聞く警察官も理解が早いと思います。

捜査をして厳しい処分を求めたいとき

 さて、事件があったことは間違いないのに、警察がなかなか動いてくれないと気をもんだことがある人もいるかもしれません。捜査は秘密裏に行うことが通常なので、捜査の進展状況は教えてもらえません。情報提供者にすぎない一市民の立場からは、やむを得ないことともいえます。

 ただ、うやむやにせず、きちんと捜査をして厳しい処分を求めたいときは、刑事告発を検討することがあります。

 告発は、被害者以外の者が捜査機関に犯罪の事実を申告して処罰を求めること、をいい、刑事訴訟法上、誰でもできることになっています。飼い主のいない動物の殺傷や虐待事件の場合、被害者である動物は声をあげられないので、人が代弁する形で告発することになります。

刑事告発という手段もある

 告発状は、一定のルール、形式に従って作成する必要があります。ここでもやはり、「5W1H」を意識した具体的な事実を記載し、それが動物殺傷罪、動物虐待罪に該当することを具体的に指摘することが重要です。

 提出先は、警察と検察のどちらにもできるとされていますが、現実的には、1次的な捜査機関であり、人手の多い警察(生活安全課)にすることが一般的です。

 告発状の形式や、一定の証拠がそろっていれば、警察は告発を受理することとされています。告発が受理されると、①その事件について捜査機関は捜査義務を負い(被疑者を捕まえる義務まではありません)、②検察庁は最終的な処分結果を告発人に通知する必要があり、③不起訴の場合、告発人は検察審査会へ申し立てることができる、というもので、単に通報して情報提供をしただけの立場とは大きく異なります。

虚偽の告発には重い刑罰の可能性

 ただ、告発によって、刑罰という重大な不利益を他人に科す結果となる可能性がある以上、むやみにしてはならないということは当然であり、慎重に検討しなければなりません。また、虚偽の告発をした場合は、「虚偽告訴等の罪」(刑法172条)として、3カ月~10年の懲役という重い刑罰が科される可能性があります。

 もちろん、結果として立件されなかった告発が直ちに虚偽告発罪となるわけではありませんが、事実の把握や整理をしないまま、感情的にうったえるだけでは、警察も取り合ってはくれないでしょう。

事実を整理して冷静に伝えよう

 動物の殺傷や虐待は、弱い標的を狙うという意味で、幼児や女性を狙った犯罪にエスカレートする可能性も決して否定できません。動物の死体が頻繁に放置されるような地域では、安心して暮らせないでしょう。将来のより重大な犯罪を予防するという意味でも、適正な告発をすることは、社会にとって有意義な行為といえます。

自分で適切な告発手続きができるように

 私は以前より、動物保護団体や個人の方からの依頼を受け、動物の殺傷・虐待・遺棄事件について、代理人として刑事告発をしています。これらの事件は全国どこでも発生する可能性があり、こうした事件も手掛ける弁護士が各地にいることが理想的ですが、残念ながら、そのような状況にないため、遠方からの依頼でも、どうしても必要であると判断すれば、可能な限り行っています。

 しかしながら、将来的には、冷静に事件を見て、証拠を整理することのできる動物保護団体関係者に、実際の事件を通じてノウハウを身につけてもらい、弁護士の協力がなくても、自力で適切な告発手続きができるようになってもらいたいと考えています。

 動物保護団体関係者がスキルアップすることで、日本でもよく議論される「アニマルポリス」とはいえないまでも、捜査機関へのつなぎとしての役割を担うことが可能となります。

(次回は12月21日に公開予定です)

【前の回】ノーリードで犬の散歩をすべきではない理由 国レベルで原則禁止、損害賠償のリスクも

細川敦史
2001年弁護士登録(兵庫県弁護士会)。民事・家事事件全般を取り扱いながら、ペットに関する事件や動物虐待事件を手がける。動物愛護管理法に関する講演やセミナー講師も多数。動物に対する虐待をなくすためのNPO法人どうぶつ弁護団理事長、動物の法と政策研究会会長、ペット法学会会員。

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この連載について
おしえて、ペットの弁護士さん
細川敦史弁護士が、ペットの飼い主のくらしにとって身近な話題を、法律の視点からひもときます。
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