校門の前に置かれていたハチワレ猫 家族になったとーちゃん、かーちゃんとの14年

 日差しがやわらかく差し込むリビングに入ると、床に座ってじっとこちらを見上げる、白黒のハチワレ猫。

(末尾に写真特集があります)

「お客さんだよ」と、飼い主の聡子さんが声をかけると、ゆっくりと私に向かって歩いてきた。その様子は、まるで「私の話を聞きにきたのね」とでも言っているようだった。

 今回は、そんな彼女の声に耳を傾ける。

まるでおはぎみたい

 私の名前はミミといいます。白黒ハチワレの雌猫で年齢は14歳。漫画家のとーちゃんと、料理本の編集をしているかーちゃんと一緒に暮らしています。

 2人に出会ったのは生まれて3カ月目ぐらいのときで、場所は動物病院の待合室でした。私は、茶白のお兄ちゃん猫と一緒にコンビニの袋に入れられて、小学校の校門の前に置かれていたそうです。そのときの記憶はありません。子供たちがみつけて、猫の保護活動をしている通称「猫おばさん」の元に届けられ、動物病院に預けられたと聞きました。

 保護猫譲渡サイトに私たちの写真が載ったところ、とーちゃんとかーちゃんが見つけて、会いにきてくれました。茶白のお兄ちゃんと、白黒ハチワレの私がくっついて寝ている様子がまるで「きなことあんこのおはぎみたい」で可愛かったのだそうです。

床の上の猫
「かーちゃん、今日は床の掃除完璧ね」(小林写函撮影)

 猫おばさん立ち会いのもと、待合室で小一時間ほど2人と戯れて、私が引き取られることになりました。2人の家には先住猫がいて、同じ白黒ハチワレ柄だったからです。お兄ちゃんは、別のおうちの子になることが決まりました。

 先住猫、正太郎兄ちゃんとは、すぐに仲良くなりました。6歳年上で活発でやさしくて、家の中のことは何でも知っていて、頼りになりました。私は、いつもお兄ちゃんの後をついてまわり、一緒に遊び、眠りました。

明るく元気なかーちゃん

 正太郎兄ちゃんは、かーちゃんがお嫁に来る前から、この家でとーちゃんと暮らしていました。後から来たかーちゃんのことは「自分より立場が下」とみなしているらしく、完全にかーちゃんに心を許すことはなかったそうです。それで「自分に丸ごと甘えてくれる猫」を、かーちゃんは探していたのでした。

 元気で明るくて、料理上手なかーちゃんを、私はすぐに好きになりました。かーちゃんも、人懐っこくておっとりした性格の私をとても気に入ってくれました。私がひざに乗ったり、抱っこして欲しいとせがむと、かーちゃんはとても喜びました。

 木造2階建ての一軒家の1階、大きな窓から光がやさしく差し込むリビングが、かーちゃんの仕事部屋です。かーちゃんのひざの上で庭の緑を眺めたり、ソファで昼寝をするのが日課となりました。

 平和で幸せな猫生活だったのですが、10年近い月日が流れた頃、正太郎兄ちゃんが腎臓を悪くして、虹の橋のたもとへ旅立ちました。15歳でした。

 闘病期間は2年間ぐらいでした。それまでは、人間の食べものに手を出すほど食欲旺盛でからだも大きかったのに、食が細くなって痩せてしまいました。薬を飲み、通院治療もしましたが、回復はしませんでした。

いすの上の猫
「かーちゃんの仕事の邪魔しようかな」(小林写函撮影)

 私も悲しかったけど、とーちゃんとかーちゃんはもっとつらかったと思います。それまで健康優良猫で、ほとんど病院のお世話にならなかったお兄ちゃんは、20歳ぐらいまで生きるだろうと信じていたからです。

大先生は言った

 それから数年経った夏、今度は私が体調を崩しました。食べたご飯を吐き、食欲がなくなり、夏バテかと思ってかかりつけの動物病院に連れて行かれたところ、腎臓の状態がよくない、とのことでした。

 そこは、私が子猫のときに預けられたところとは別の病院で、家から車で数分の場所にあります。長年、この街で開業しており、人々から「大先生」と呼ばれている院長の獣医師さんは、ちょっとこわもて。でも評判はよく、つねにテキパキ、淡々と治療をするので、とーちゃんもかーちゃんも信頼しています。

オモチャで遊ぶ猫
「またこれね」(小林写函撮影)

 その大先生が、真顔で言いました。

「今日からごはんは、療法食にしてください。ほかのごはんは絶対にあげないように。そうでないと、腎臓が溶けるからね」

通院は自転車で

 その日から、かーちゃんがくれるご飯は、本当に療法食だけになりました。おやつは一切なしです。そして前より私の変化に敏感になりました。ご飯の食べ方、トイレの様子や回数などをつぶさに観察し、ちょっとでも異変があると「病院へ連れて行ったほうがいいかな」と、2人で相談しています。

 病院は、好きではありません。待合室ではいつもかーちゃんに「早く帰ろうよ」と声に出してアピールします。診察中は、ことが終わるまでじっと固まっていることにしています。

 通院は自転車です。以前は車だったのですが私が苦手なので、かーちゃんはリュックタイプのキャリーバッグに私を入れ、おなか側に抱えてペダルをこぎます。スピードがゆっくりだし、外の風を感じられて気持ちいいし、バッグの中からかーちゃんの顔も見られるので快適です。

 かーちゃんは言います。

「ミミ、腎臓が溶けるのは怖いよね、嫌だよね」

 大先生の言葉が、よほどこたえたのでしょう。先生に脅された日から、私は1日も体調を崩さずに、元気で暮らしています。

(次回は11月27日に公開予定です)

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宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。
著書にsippo人気連載「猫はニャーとは鳴かない」を改題・加筆修正して一冊にまとめた『ハチワレ猫ぽんたと過ごした1114日』(河出書房新社)がある。

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この連載について
動物病院の待合室から
犬や猫の飼い主にとって、身近な存在である動物病院。その動物病院の待合室を舞台に、そこに集う獣医師や動物看護師、ペットとその飼い主のストーリーをつづります。
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