具体的な数値基準へ、転換求めているのは市民 愛護団体VSペット業界の構図ではない
現在、環境省において、ペット業者が遵守すべき「数値規制」をどのような内容にするかについて、検討が進められています。
フワッとした基準では違反指摘できない
これまでも業者が守るべき基準はありましたが、「動物が日常的な動作を容易に行うための十分な広さ及び空間を有すること」などのフワッとした内容であり、犬や猫を狭いケージに入れて何段にも積み重ねて全く外に出さなかったり、数人で数百匹を見ていたりするような状態であっても、明確に基準違反であるとは指摘できないとされていました。
そのため、少なくとも20年位前から、動物愛護団体を中心に、日本でも海外の一部で導入されているような、具体的な数値基準による規制を取り入れるべき――と法改正の議論をする度に問題提起がされてきました。
2012年改正の際には、環境省内に小委員会を設置されて本格的な検討がされましたが、他にも多数の検討項目がある中で十分な議論の時間が取れなかったため結論は出ず、より専門的な会議を設置して検討することだけが決められ、「積み残し課題」となりました。
数値基準が動物を救う
その間、私も弁護士として、売れ残りなど不要となった犬猫を有料で引き取る業者や、大量の犬猫繁殖施設(パピーミル)による劣悪な飼育環境等を動物虐待であると告発した事案を担当しました。
ひどい飼育環境であることが一見して明らかであっても、具体的な数値基準がないことで、自治体による指導監督が適切にされず、それも一因となって劣悪飼育の状態が野放しにされていたと考えられる事態を目の当たりにし、具体的数値による基準の必要性を痛感しました。
数値基準ができることで、今も劣悪環境下に置かれているであろう動物を救うことはもちろん、それにとどまらず、自治体職員は明確な指針(武器)を与えられ、さらには、業者に雇用されている従業員は加重労働から解放される可能性があります。
そして、2019年の動物愛護管理法改正により、飼養設備の規模(ケージの大きさ)、動物を飼養保管する従業員の数、繁殖回数などを環境省令で定めること、特に犬猫の販売業者(ペットショップやブリーダー)の基準は具体的なものにすることが法律上明記されました。
実際の基準案については、つい先日、環境省内の検討会で配布された『飼養管理基準として定める事項(案)』に記載されています。朝日新聞の太田匡彦記者の記事に問題点を含め、詳しく紹介されていますので、あわせてご参照ください。
なお、この基準は、動物保護シェルター(第二種動物取扱業)にも準用される方向で進められています。
ペット業界の対面にいるのは市民
今回の数値規制をめぐる議論でもそうですが、動物取扱業に対する規制は、とかく「動物愛護団体」VS「ペット業界」の対立とされ、ニュースなどで取り上げられる場合も、わかりやすいのか、そのような構図で紹介されているのを散見します。
しかしながら、実感としては10年前くらいから、動物愛護団体とは関わりのない著名人が続々と声をあげ、それに動物愛護団体とは関わりのない多くの人が共感・呼応してSNSなどで意見を表明しています。そもそも対立させるような問題ではないと思いますが、あえて対立構造にするとしても、ペット業界の対面にいるのは、今や「一般市民=世論」ではないかと感じます。
関係者の長年にわたる努力、そして多くの人が関心を持ち世論が形成されたことなどの結果として、ようやく、「あいまい基準」から「具体的な数値基準」への転換が実現しようとしています。ただ、過去の法改正において、何度も不可解などんでん返しがされてきたことも事実であり、最後まで予断は許しません。
今年の秋ごろには環境省案に対するパブリックコメントが予定されています。その機会に、より多くの意見を届けていただければと思います。
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