猫の適切な飼い方を考える 室内飼育が推奨される理由とは

 今、SNS上の一部で論争が起きている。「猫は完全室内飼育するべきだ」という考えに対して「猫を外に出さないのは不自然だ」「虐待だ」とする意見があるのだ。

(末尾に写真特集があります)

「猫は室内飼育」が推奨される理由

 まず大前提として家猫(イエネコ)は「完全室内飼育が望ましい」という考え方が、現在の主流だ。獣医師会も行政も自治体も室内飼育を推奨しているし、多くの保護団体は猫の譲渡の条件にしている。それはなぜなのか。外に出すことのデメリットは何か、考えてみよう。

生活環境による猫の平均寿命

 一般社団法人ペットフード協会の『2019年全国犬猫飼育実施調査』によれば、飼い猫の平均寿命は、家の外に出ない猫は平均15.95歳、家の外に出る猫は平均13.20歳で、家の外に出る猫は、完全室内飼育に比べて2年半以上も寿命が短いのだ。

 ちなみに野良猫(飼い主のいない猫)の調査結果はないが、平均すると3~5年と言われており、外での生活が非常に過酷であることがわかる。

保護した時は下半身不随だったとは思えないほど、元気なご長寿猫・ちょび。その後の小田さんの「猫人生」へと導いた最初の猫
保護した時は下半身不随だったとは思えないほど、元気なご長寿猫・ちょび。その後の小田さんの「猫人生」へと導いた最初の猫

感染症の恐れ

 外に出れば、さまざまな危険が待ち受けている。そのうちの一つが感染症だ。

 公益財団法人「動物臨床医学研究所」理事長で東京農工大学名誉教授の山根義久先生は、

「家猫が外へ出れば、飼い主のいない猫(野良猫)と遭遇して喧嘩になります。特に雄猫は激しい喧嘩をする。ケガをするだけでなく、そこから感染症(猫ウイルス性鼻気管炎、猫カリシウイルス感染症、猫白血病ウイルス感染症(FeLV)、猫クラミジア感染症、猫免疫不全ウイルス感染症(猫エイズ、FIV))に感染するリスクがあります」と話す。

 中にはダニなどの寄生虫によって人間にも感染する病気もあるので注意が必要だ。

交通事故

 野良猫・家猫の区別なく、外に出ていれば被害にあう可能性は低くない。

 東京都千代田区で区行政と連携しながら、20年以上にわたって飼い主のいない猫の問題に取り組み、区内の猫殺処分0を達成しつづけている一般財団法人ちよだニャンとなる会の古川尚美さんは言う。

「NPO法人『人と動物の共生センター』が全国の政令市・中核市を対象に調査したところ、2017年に戸外で回収された猫の(車にひかれるなどのロードキルによる)死体数は34万7875匹(推計)で、殺処分数の4万3216匹の8倍にも上ることが分かったのです」

 こうしてみると、猫を外に出すことはリスク以外なさそうに思えるが、いったいなにが論争になっているのか。

ツイッターで論争に

「完全室内飼育」推進派で、論争の当事者の一人に話を聞いた。画家、イラストレーターであり、美術解剖学などで大学で教鞭をとる、小田隆さんだ。

「ツイッターで『猫を外に出さないのは監禁だ』『虐待だ』という意見が散見されるようになって、それに反論したことから始まったんです」

若いゴヤには資料棚も本棚もキャットタワー! 今日も仕事部屋の探検に余念がない
若いゴヤには資料棚も本棚もキャットタワー! 今日も仕事部屋の探検に余念がない

 小田さん自身、18年前に保護した猫を筆頭に、保護猫ばかり3匹と暮らしている。野良猫を保護したりと、保護団体との協働経験も少なくない。そんな小田さんが猫の室内飼育を主張したところ、一部の外出擁護派から「虐待者」だと決めつけられ、攻撃されているという。

猫は外来種である

「飼い猫を自由に外に出すべきだ」とする人々の主張は、

・猫は古くから日本いた在来種であり、いて当たり前だ
・昔から外で暮らしてきたのだから、それが自然なのだ
 というもの。まずそこに論争の火種がある。

 昔からそこにいる動植物=在来種
 後からやってきた動植物=外来種 

 というものではない、と小田さんは指摘する。また、外来種=害をなすもの、とも限らない。

「生物学・生態学的な定義では、生き物が自分の能力で移動したものはすべて在来種。人間が介在して持ち込んだものはすべて外来種です」

 米も大根やトマトなどの野菜も、すべて外来種。だが、それらを「駆除」しようとする人はいない。なぜならそれらは人間が「食べるために」「管理して」「栽培している」ものだからだ。

小田さんのツイート、#幸せそうな室内猫から。小田さんの愛猫「チョビ」(メス)。18年前、栄養失調からか下半身不随の状態で出合った人生初の猫。高齢ながら今も元気!
小田さんのツイート、#幸せそうな室内猫から。小田さんの愛猫「チョビ」(メス)。18年前、栄養失調からか下半身不随の状態で出合った人生初の猫。高齢ながら今も元気!

 一方、私たちが可愛がっている猫は、外来種であり、家畜である。前述の山根義久先生が説明する。

「家猫の起源はリビアヤマネコだといわれています。それが長い時間をかけて、人間の生活に入り込んできた。猫と人間と、どちらが最初にアプローチしたのか、それは記録がないからわかりません。しかし、猫がネズミを駆除してくれるなど、人間には恩恵があった。猫にとっても人間に保護されることで安心して生きられるようになった。その結果、家畜化したのが今のイエネコ(学名:Felis silvestris catus)です」

 つまりイエネコはペルシャ猫だろうがアビシニアンだろうが三毛猫であろうが、生物学的にはFelis silvestris catus一種しかいない。そのすべてが、「人間が生活環境内に持ち込んだ外来種」であり『家畜』なのだ。

 その定義にてらせば、「猫は外にいるのが自然であり、それを阻害するのは監禁にあたる」という主張は間違っていることになる。なぜならば、

・猫は人間が持ち込んだ外来種であり家畜である。
・家畜は必ず人間が管理せねばならない動物である、から。

 牛や豚が外に出たがったからと言って、自由に出してよいものではないし、それは犬でもウサギでも鳥でも同じことだ。

小田さんが3匹目に迎えた男の子、ゴヤ。自宅近所で繁殖した子猫を、保護団体さんのご縁で譲り受けた
小田さんが3匹目に迎えた男の子、ゴヤ。自宅近所で繁殖した子猫を、保護団体さんのご縁で譲り受けた

 小田さんは言う。「人間は自由に外に出られるのに、猫の自由を奪うのは不自然だ、という人がいます。でもね、僕らはいつ外に出ても『社会』の枠組みに守られているんですよ。言葉も話せる。字も読める。基本的人権も交通ルールもある。海外に行ってもパスポートが身分を証明してくれるし、言葉が通じなくても同じ人間同士通じるものはある。

 猫が外に出るということは、人間が武器も道具も衣服もなしに、身ひとつでジャングルの中に放り出されるようなもの。身を守るすべもなしに、どうにか生き延びろって言われるようなもの。それほど過酷なんです」

完全室内飼育の猫は不幸なのか?

 こういう議論の中には「田舎なら車も少ないし大丈夫」という人がいる。

「確かに交通量だけをとってみれば、事故の件数は田舎の方が少ないかもしれない。だが、猫同士の喧嘩による殺傷や感染症のリスクは、都会・田舎で比較できる問題ではない」(山根義久先生)

「タヌキやカラスなど野生動物に捕食されてしまうリスクもある。田舎の場合、野生動物用のわなにかかってしまうことも。田舎=安全、という保障はどこにもない」(ちよだニャンとなる会・古川さん)

小田さんの仕事場にて。コピー機の上でくつろいでいるのは、キジトラのダリと黒猫のゴヤ
小田さんの仕事場にて。コピー機の上でくつろいでいるのは、キジトラのダリと黒猫のゴヤ

 話を聞いている限り、田舎なら安全、という保障はどこにもないようだ。

 ではなぜ、室内飼育の猫は不幸だ、という考えが根強く残っているのか。それは古い時代の飼育スタイルをよしとする人が多いせいでは?と古川さんは指摘する。

「日本人の価値観の中に家と外を自由に行き来する飼い方が原体験にあるからではないかと思いますね。絵本や漫画の中にも、そういう描写はたくさんあります。『猫が自由に外を歩ける街は平和だ』っていう人もいますが、そういう問題ではないのはもう明らかですよね」(古川さん)

猫のストレスを軽減するために

 では、外に出たがる猫たちをどうしてあげたらよいのか?

 山根先生は次のように指摘する。

・窓から外が見られるようにする→外を見たいという好奇心を満たす
・キャットタワーなどを用意する→上下運動、高いところに上りたがる欲求を満たす
・箱や猫つぐらなどを用意する→狭いところに隠れると安心する
・おもちゃで遊ばせる→狩猟本能を満たす

「猫という生き物の特性を理解して、人間が補ってあげる。そうすることで、外に出られないストレスは軽減できます。家畜として飼う以上、人間が努力を惜しんじゃいけません」

 多くの野良猫を保護してきた古川さんも言う。

「保護直後には外に出たがる子は確かにいます。それは環境が変わったことをストレスに感じているだけ。やがて家の中が安心だとわかり、適切な食事や運動を満たしてあげれば、やたらと出たがることはなくなります」

幸せそうな室内猫

 小田さんは最近、自宅の仕事部屋などでくつろぐ猫たちの写真をツイッターに投稿している。『#幸せそうな室内猫』というハッシュタグをつけて。

「僕は別に、相手を論破したいわけじゃないんです。ただ、間違った情報を流布してほしくない。これから動物を飼おうかと考えている人や若い人たちに間違った常識を植え付けてほしくないんです。室内で飼われている猫は不幸だ、と決めつけている人たちに理屈で何を言ってもダメ。でもうちの猫たちは全員、外から保護された子たちですが、実際幸せそうでしょ?というのを示したくて」

 ハッシュタグを「幸せな室内猫」ではなく「幸せそうな…」にしたのはなぜ?

「だって、本当に幸せかどうか、それは猫に確かめようがないからわかりませんよね(笑)」

 今日も小田家の猫たちは画材をひっくり返し、デッサンの上で大きなあくびをしているのである。

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浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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