不妊手術した野良猫13匹を自宅に引き取る 「幸せにしたい」
保護猫カフェ「ねこかつ」(埼玉県川越市)には、日々猫の相談事が持ち込まれる。保護依頼が多いが、その全てを保護することなど到底できない。TNRをすすめることも多い。その時の相談もそうだった。
「ご近所のおばあちゃんが入院してしまって、野良猫が残されてしまっています。保護してもらえないでしょうか。」
野良猫にご飯をあげていた一人暮らしのおばあちゃんが入院してしまい、猫たちが残されている。その猫たちを保護して欲しいという老齢の女性からの相談だった。
「何頭くらいいるかわかりますか」
「15匹くらいだと思います」
「人にはなれていそうですか」
「近づくと逃げてしまうから、なれてないと思います」
「不妊・去勢手術はされていますか。耳にカットは入っていますか」
「耳にカットは入っていません。不妊・去勢手術はされていないと思います」
そんなやりとりが続いた。
人になれていない野良猫を15匹も保護するのは難しい。保護する場所、保護した後の世話、なにより人になれていない猫を人になれさせ、新たな飼い主につなげるまでどれだけの時間がかかってしまうのか、やってみないとわからない。その手間をかけるなら、命の期限の切られた子たちをたくさん助けたい。
不妊・去勢して元の場所に
「その猫たちを全部保護するのは、今の私たちの力ではできません。でも、このままではかわいそうな猫たちが増えてしまって、不幸の連鎖が続いてしまいます。不妊・去勢手術だけでもしましょう。TNRだけならお手伝いできます。」
野良猫を捕まえて、不妊・去勢手術を施し、元の場所に戻す活動をTNR活動という。野良猫が増えないようにし、当該の猫一代限りの生を全うしてもらうことを目的とする動物愛護活動である。不妊・去勢手術を施した猫にはその証として、耳にカットをいれる。耳にカットを入れた猫は、その耳がさくらの花びらのような形をしていることから、近年「さくらねこ」とも呼ばれている。
「わかりました。不妊・去勢手術だけでもお願いします。」
しばらく考えたのち、女性は答えた。
数日後、獣医さんの予約などを終えて、現場に行くと、話の通り野良猫たちがたくさんいた。捕獲作業は小一時間で終わった。全部で13匹だった。
「この子たちをこれから獣医さんに連れていきます。明日退院になるので、リターンするときはまた立ち会ってください」
「かわいそう」と泣き出した相談者
手術も無事終わり、翌日、元の場所に戻すときがきた。
「じゃあ、これから放しますからね」
猫たちを放そうとしたそのとき、「ちょっと待って! やっぱり保護してもらうことはできないの」と、相談者の女性が再度涙ながらに訴えてきた。
「ごめんね。無理なんですよ。保護する場所もないし、それにこの子たちはご飯をあげてもらえば当面は生きられる。僕らのところには毎日毎日命の期限の切られた相談が来るから、この子たちを保護すると、その子たちを保護できなくなってしまうんです」
冷淡だが、そう答えた。
「でも、この猫たちだって、ここでいつまで生きられるかわからないでしょう。かわいそう」
女性は猫たちの入った捕獲器に抱き着いて泣き出した。
「人になれていないこれだけの数の野良猫を人にならすのは大変なんですよ。どうしても保護したいというのなら、ご自身の家にこの猫たちを入れて、ならしてください。触れるようになったら、こちらで引き取って責任もって飼い主探しをしますから。」
13匹もの猫である。引き受けるはずもない、と思いながら無理な提案した。
自宅で預かる決心をした
すると、女性はしばらく考えたあと、「わたし、やってみる。この子たちを幸せにしてあげたいから」と答えた。
13匹もの人になれてない猫を家にいれて世話をする。大変な作業で、下手をするといままでの生活を壊しかねない。リターンした方がいいですよ、と何度も説明した。
しかし、女性の決心は固かった。
13匹の猫たちを保護してから、1年半が過ぎた。5匹は新しい飼い主さんに恵まれ、3匹はねこかつで飼い主さん探しをしている。残り5匹はまだ人になれずに、その女性の家でひとなれの修行中の身である。
「どう、なれました?」
ねこかつにたまに顔を出すその女性に聞いてみた。
「ううん、まだパンチが飛んでくるの。でもね。ちょっとずつは変わってきたのよ。まだ時間がかかると思うけど、あの子たちに合わせてゆっくり見るわ」
女性が嬉しそうに答えた。
保護できる数に比して、野良猫は数が圧倒的に多すぎる。保護か、TNRか、毎回毎回悩みながらの活動となる。この現場の猫たちは相談者の女性のがんばりで保護となった。
- 保護犬・保護猫譲渡会
- 日時:12月1日正午~午後3時
場所:イケア新三郷(埼玉県三郷市新三郷ららシティ2-2-2)
主催:みさと動物愛護クラブ
事務局:保護猫カフェねこかつ
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