引き出した子猫に重い病気 4度の手術と懸命な看病で命を救った
猫の保護をした後、不妊・去勢手術やワクチン接種といった医療措置を施すのは当然だが、そのほかにも風邪の治療などが必要となる場合がある。ある時、動物愛護センターから引き出した子猫が、手術が必要な重い病気であることがわかった。
「センターの子猫の収容がいっぱいになったから引き出してあげたいんだけど、シェルターも預かりさんもいっぱいで無理。誰か預かれないかな」
春から夏にかけて、望まれずして生まれたたくさんの子猫たちが連日、動物愛護センターに持ち込まれる。そんな子猫たちの多くは殺処分される運命だ。保護猫カフェ「ねこかつ」でもセンターから猫の引き出しをしているが、到底救い切れる数ではない。
その時は、シェルターや「預かりさん」と呼ばれるボランティアさんの家などもすでにいっぱいだった。そのため、ねこかつのスタッフに保護の打診をしたのだ。
「子猫だったらなんとか」
数人が手を挙げてくれた。その中にスタッフの多田もいた。
スタッフたちの協力が得られたので、センターに子猫を引き出しに行った。その日引き出した子猫は約30匹。その中の2匹の兄妹を多田に託すことにした。
「この2匹で大丈夫?」
体重約300グラム。痩せて薄汚れてはいるが、元気に見えた。
「大丈夫です。しっかり育てます。かわいいです」
後に「こもも」と名付けられる猫と、その兄弟だった。
小さな子猫に起きた異変
こもも達の世話をはじめて数日もすると、多田が異変に気付いた。
「こももにご飯をあげると、しばらくしてみんな吐いちゃうんです」
兄弟猫は食べた後なんともないのに、こももは食べるとすべて吐いてしまう。そこでミルクに切り替えてみると、吐くことは減ったが、やはりおかしい。
「なんかおかしいよね。病院で調べてもらおう」
かかりつけの獣医さんに診てもらった。診断は食道狭窄。食道が細すぎて、食べたものが喉を通らない病気だった。いままで保護した猫たちにはなかった珍しい病気だ。
獣医さんと今後について相談をした。
「ある程度、大きくなるまでミルクで育ててもらう。そして麻酔に耐えられるような大きさになったら、流動食をチューブで胃に流せるようにするため、胃ろうの手術をする。数カ月間、胃ろうで育ててもらった後、食道を拡張する手術をすることになります」
順調にいっても数カ月はつきっきりで面倒をみなくてはならない。その間に数回の手術が必要となる。
「どうする? 大変だけど、できる?」
多田に聞いてみた。
「はい! もちろん!」
二つ返事だった。
しかし、順調にはいかなかった。こももの食道の狭窄が進み、すぐにミルクも喉を通らなくなってしまった。300グラム台しか体重がないのに、リスクの高い胃ろうの手術を受けることになった。獣医さんにこももを託した。
「先生、こももをお願いします」
「本当はもうちょっと大きくなってからの方が安全なんだけどね。今やらないと助からないから、がんばってやってみますよ」
「こももももちろんなんですけど、こももが亡くなってしまうと多田さんが潰れてしまうから」
「そうですね。多田さんのためにも成功させないと」
数回の手術、大きな費用
胃ろうの手術は無事終わった。その後も、こももに24時間つきっきりの多田の生活が続いた。その中、様々なアクシデントが起きた。チューブの入っている傷口が化膿してしまったり、チューブが抜けてしまったり。その度に多田から泣きながら電話がかかってきた。
そんな苦労を知ってか知らずか、こももは元気ないたずらっ子に育ってくれた。大きくなるにつれて、もうひとつの大きな問題が現実となってきた。
「こももの食道狭窄の手術は、うちではできません。大学病院もしくは同等の設備のある病院でないと」
かかりつけの獣医さんの言葉だった。
食道狭窄の手術は通常1回では終わらない。食道を拡張させる手術を何度もやらないと完治しないのだ。それを大学病院もしくは同等の設備のある病院で受けるとなると、手術費用は少なくとも数十万円、百万円かかるかもしれない。
「梅田さん、手術どうしましょう」
多田が不安そうに質問してきた。
「やるよ。捨てられて右から左に簡単に殺されてしまう子たちをここまでして助けている人間がいるって、実践してやろう」
笑いながら答えた。
「費用はどうしますか。寄付を募るとか、クラウドファンディングとか」
「いや、50万円、100万円あれば、どれだけの猫たちが救えるかわからない。それをこももだけに使おうというんだから、寄付とかクラウドファンディングとかちょっと違う気がする。自費でやろう。お金が途中でなくなっちゃったらごめんね(笑)」
「こももだけは手放せない」
結局、大学病院での手術は3度に及んだ。手術も無事終わり、再発するかどうかを見極めるための期間も無事経過した。そんなある日、多田が言い出した。
「あの、こもものことなんですけど。完全に元気な子になったので、保護活動をしている人間がうちの子にしたいとか言っちゃいけないのわかっているんですけど……。こももだけは、どうしても手放せなくて。うちの子にしてもいいですか」
私たちのように保護活動をしている人間のもとには、不治の病にかかった猫やハンディキャップを持った猫、人に懐かない猫など、譲渡しにくい猫もたくさんやってくる。保護活動をしている人間が自分の家に迎える猫はそういう猫であって、人懐っこくってかわいい猫ではないと、何かのときに話したことを多田は気にしていたようだった。
「もちろん。途中からそう言ってくるなと思っていた。獣医さんともそんな話をしていたんだよ」
多田の献身的な世話がなければ救われなかった命。病気を持って生まれてきたこと、保護され多田のもとへ行ったこと、すべてが運命だったのかなと思った。
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