後追い、夜鳴き…中年猫のちょっと重たい愛 女性が下した決断
縁あって女性が引き取ったオス猫は、大変な甘えん坊だった。恋人のように、家の中をべったり付いて回り、外出時には犬のように鳴いて抗議する。やがて夜鳴きも始まり、睡眠不足になった飼い主は対策を講じた。
横浜市の実家で暮らす画家・大野愛(めぐみ)さん(30)のもとに、茶白猫「トロ」(当時推定5歳)がやって来たのは、1年8カ月前。
千葉市の動物保護指導センターに収容され、その後、ペットの譲渡施設に移ったが、なかなかもらい手が見つからないと聞いて、愛さんが引き取ったのだ。
当時、愛さんは両親と祖母、そしてオスの先住猫「チビ」(当時13歳)と暮らしていた。
「トロはラガーマンみたいに肩がムキムキで、先住のチビの倍くらい体重がありました。チビはその名の通り、小さくて神経質。オス同士だし、徐々に慣らした方がいいと家族で話し合って、最初の頃、トロは3階の私の部屋だけで過ごしていたんです」
すぐになついた猫
トロは愛さんにすぐ心を開き、最初の夜から一緒のベッドで寝た。日中はドアを閉めて仕事に出かけ、時々お母さんが部屋をのぞくと、トロはベッドや窓辺でくつろいでいたという。
1カ月もすると、階下で暮らすチビが階段を上ってやって来て、ドア越しに「シャーッ」と声をあげたり、ドアの隙間から手を出しあったりしていた。2カ月経つと、トロがドアの外に出たがるようになり、愛さんの在宅時は、ドアを開けて出入りできるようにした。
「廊下に出て階段を下り、さらにリビングへ行き、“この家はこうなってたのか”というように見回りしていました。たっぷり時間をかけたせいか、チビともたいしたケンカになりませんでした。お互い、『ふうん』『いたんだ』という感じで、並んでごはんを食べたり、同じ空間で過ごすことができるようになりました」
どこにでも付いて回る
普通と少し違ったのは、その後だ。トロはリビングにいるチビと一緒に過ごすより、愛さんの部屋で1匹で過ごすことが多かった。そして、愛さんの後を追うようになった。トイレに行くと、ドア前で「まだー?」と出待ち。お風呂もついて来て、湯船にまで入ってきた。
さらに仕事に出かける時には、恋しがって“絶叫”するようにまでなった、とお母さんがいう。
「娘がアトリエに出かけると、ワォーワォーと犬みたいに鳴いて、しばらくすると、諦めたのか鳴きやんで、ふて寝するように寝ていました」
愛さんがアトリエから帰宅すると、トロはいつも寝起きのような顔でリビングに下りて来て、夕食をとる愛さんの隣に座る。その後は甘えタイム。両手で愛さんの腕にしがみつき、ペロペロなめたり甘がみしたり。夜は「待ってました」とばかりに、同じ布団に潜りこんだ。
突然始まった夜鳴き
そして、そんな甘い生活が続いた後、ある日、異変が起きた。
「私が寝て2、3時間経つと、鳴いて騒ぎ出したんです。お腹がすいたのかと思ってごはんをあげると、食べて落ち着き、また2、3時間すると鳴く。鳴くだけならいいけど、ティッシュを引き出したり、机の上の小物を落としたり、書類を引きちぎったり、私が起きるまで暴れ続ける。そのうちそれが習慣のようになって」
夕食を多めにあげても、夜中にウギャーッと騒ぐ。「昼間、暇でさみしいのかも」と、愛さんはできる限りトロをかまっていたが、睡眠不足に陥ってしまった。
「普段の日なら大丈夫なんですが、個展などで朝から晩まで出ずっぱりで忙しいとフラフラになってしまって……。悩みましたが、トロは私がいなければ諦める割り切りボーイなので、どうしても忙しい時は、睡眠を取るために、外泊することにしたんです」
2、3カ月に一度、家の近くや個展の場所のそば、また飲み会の場のそばのビジネスホテルに泊まり、朝までぐっすり眠る。それだけでも体が楽になったという。
1匹になっても続く訴え
「猫を飼うのはトロで5匹目ですが、こんな甘えん坊は初めて。もっとも最初から部屋を開け放していれば、私にここまで執着しなかったかなとも思うんですが……。チビが途中で体調を崩したこともあり、やはり棲み分けがベターかなと思ったんです。母と父はチビ、私はトロと役割分担したわけです」
チビはもともと胃腸が少し弱く、昨年夏前に腫瘍が見つかり、11月に亡くなった。リビングのケージで闘病している時には、トロがそばで様子を見守ることもあったそうだ。
現在は、いつも出入り自由にして、家族みんなでトロを可愛がっている。トロはお母さんになでられてもゴロゴロと嬉しそうに喉を鳴らす。それでも愛さんが仕事に出かける時は、“行かないで~”と訴えるように、今も野太い声でひとしきり鳴くという。
大柄なオス猫トロ、推定7歳。女性画家への熱愛は続いている。
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