猫嫌いの家族を猫好きに変えた子猫 しにせの“幻の看板猫”に

   東京の下町・両国にある相撲小物の専門店には、2匹の猫がいる。1匹は本の表紙になるほど評判の看板猫だが、もともと家族は猫が苦手だったのだという。そんな一家を大の猫好きに変えたのは、近くの神社で野良猫が産んだ子猫だった。

(末尾に写真特集があります)

   相撲小物専門店「両国高はし」はJR両国駅から徒歩5分、国技館のすぐ近くにある。大正元年に布団店として始まり、その後、びん付け油や足袋など実用品や、力士の絵柄が入ったタオルやカップなど相撲グッズを幅広く扱う店になった。いまも一番の商品は、力士が土俵下で座る「場所座布団」だ。

  店番をする高橋京子さんの傍らに、銀色のトラ柄の大きな猫がたたずんでいた。

「この子はアメショーとヒマラヤンのミックスの『はな』ちゃん。私の飼い猫で10歳のメスです。近くにある家から、毎日、自転車で私と一緒に通勤します。ここで12歳の猫『ミント』と合流して、気が向くと、店番を手伝ってくれます」

子猫の時から敏捷な「ミント」、シャイで店に出るのは年に数回(京子さん提供)
子猫の時から敏捷な「ミント」、シャイで店に出るのは年に数回(京子さん提供)

   店は京子さんの実家で、家族で経営している。1階が店で、2、3階の住居には母(93)と兄家族が住んでいる。店番は主に京子さんと兄嫁、布団の仕立てなどはお母さんとお兄さんが担当。1階の店の奥は仕立て室で、猫たちは行き来できる。

   といっても、お店に出るのは「はな」だけ。「ミント」は恥ずかしがり屋で、ほぼ客前に立つことはないという。

「『ミント』は年に1、2度だけ、ふらっと誰もいない時に店先に出る“幻の看板猫”なんです(笑)。でも、『ミント』との出会いがあったからこそ、家族みんなが猫好きになったんですよ」

神社から来た生後2カ月頃のミント。ガラス容器に入るほど小さかった(京子さん提供)
神社から来た生後2カ月頃のミント。ガラス容器に入るほど小さかった(京子さん提供)

猫嫌いの母が子猫を抱いてきた

 出会いは12年前にさかのぼる。

   お店の裏に神社がある。その神社で野良猫が子猫を産み、うろうろしていた。ある日、そのうちの1匹の子猫が店の敷地に迷い込んで来た。

「商売をしているし、『猫はダメね』と私が神社に戻しました。ただでさえ、うちは猫が苦手だったので…」

 実は京子さんが子どもの頃、家ではコリー犬を飼っていた。お母さんと一緒にコリーを散歩させていた時、近所の野良猫が突然コリーに飛びかかってきた。それを振り払おうとしたお母さんが、野良猫に手足をひっかかれてケガをしたのだった。

「母も私もその件がトラウマになって、ずっと猫を毛嫌いしていました」

   ところが、その母がある時、「飼ってあげましょう」とエプロンの中に子猫を入れて連れて来た。それまでも気になって、兄嫁と密かに神社へごはんを運んでいたようだった。「ミント」と名付けて育て始めると、「猫ってこんな可愛いの?」と、一家で文字どおり猫かわいがりするようになった。

 京子さんの猫への気持ちもがらりと変わった。店で「ミント」に会うだけでなく、自分の猫が欲しくなってしまったのだ。そして、知り合いの家で生まれた「はな」を迎えた。

   飼い始めると、2匹の性格の違いにびっくりしたという。

「『ミント』は神経質でおどおどしているので、猫ってそういうものかと思ったのですが。『はな』は何事にも動じず、お客さんがいても店を歩いたり、玄関マットで寝そべったり、猫好きなお相撲さんに抱かれたり、何も気にしない。今考えると、『ミント』は神社にいた時、何か怖い思いをしたのかもしれませんね」

店内をパトロール中の「はな」(右のふのりは、まわし下の縄暖簾をピンと貼る糊)
店内をパトロール中の「はな」(右のふのりは、まわし下の縄暖簾をピンと貼る糊)

いろいろな人を招いた「はな」

 2年前、道路の拡張にともなって、お店は以前の半分ほどに縮小された。そのリフォーム前までは大通りに面してショーウインドーがあり、「はな」が入って、表を通る人の目を引いた。たまたま通りかかったサラリーマンが、血相を変えて店に飛び込んできたこともあったという。

「『大変です、猫が店に入っちゃってますよ」と言いに来てくださって(笑)。『その子はうちの猫ですよ』って説明しました。私には看板猫という意識もなかったんですが、店に来た方が写真を撮ってブログに載せたら、それが出版社の方の目にとまって、『吾輩は看板猫である』という本の表紙にしてもらいました」

 それ以降、「本を見た」といって、遠くから客が訪れるようになった。

「北海道から九州まで、さらに台湾や韓国からもいらっしゃる方が増えました。看板猫巡りで、お店のはしごをするのだそうで、すごいなぁと驚きました」

 猫だけ見に来て何も買わない人もいるそうだが、「かまわない」と京子さんはおおらかに笑う。中には店の“本業”に目をつけて、「ペットの座布団」を注文する人もいるという。

「猫にも犬にも作ったことがあります。昨年は『お相撲さんの場所座布団を犬用に』と地方から注文をいただきました。白い生地から色を染めて、約1カ月かけて力士用と同じ工程で縫って名前を入れてお届けしました。幸せなワンちゃんだなあと思います」

人なつこく立派な体格で力士にも愛されている
人なつこく立派な体格で力士にも愛されている

お相撲さんのような体形に

   最近、京子さんにはちょっと悩みがある。「はな」がシニアになって、太ってきたのだ。

「お客さんに『相撲の町だから、こういう体形なんですか?』と聞かれ、獣医さんにも『ダイエットしないといけないね』と言われました。たしかにスリムな『ミント』より一回り大きいし、歩くとお腹がタプタプ揺れるんですよね。少し気をつけます。まだまだ元気でいてほしいので」

「はな」は寒い季節は部屋でまったり過ごす時間が多い。春になって暖かくなったら、「ようこそ~」と店を闊歩して、お客さんを迎える時間も増えそうだ。

藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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