職人が本気で作る「ネコ家具」 高価でも国内外から注文殺到

 猫用に作られた「ネコ家具」が話題を呼んでいます。家具の産地、福岡県大川市の熟練の職人たちが丹精込めて作っているものです。猫がソファでくつろぐ動画はYouTubeで62万回再生。猫用家具にしては、かなり高価ですが、海外からも注目され、すでにソファとベッドが50点ずつ売れたそうです。新作を加え、11月にはオシャレな街、東京・代官山で展示会も開かれました。その狙いとは……。

(末尾に写真特集があります)

 アンティーク仕上げのソファ、赤い片肘のソファ、総無垢素材のベッド…。5つの新作を加え、展示会に出された7種類の「ネコ家具」はとても小さい。どれも人間用と同じ素材、同じ工程で作られた。確かな作りで、しかもオシャレだ。

ネコ家具(ベッド)に寝そべる猫 (大川市提供) 
ネコ家具(ベッド)に寝そべる猫 (大川市提供) 

「人間の家具を42%にリサイズしています。小さく作るのは難しいはずですが、これも職人の技術があるからこそできること。猫用だからといって、決して手は抜いていない。そこがウケたのかもしれませんね」

 そう話すのは、大川市インテリア課の石橋広通係長だ。大川市は480年の歴史がある日本有数の家具の産地。市の家具PRプロジェクト「職人MADE大川家具」の一環として、“わがままな動物の代表である猫”も満足させる家具、「ネコ家具」で、大川家具の品質を知ってもらおうと企画された。

PR動画で海外にも拡散

 まず、ソファ『サンタフェ』(広松木工)、ベッド『ラフィネ』(立野木材工芸)を作り、PR動画を流した。当初は販売の予定はなかったが、1カ月でホームページに30万回のアクセスがあり、予想外の反響に、昨年12月から販売を始めた。

 ソファ、ベッドともに、11万円(税別)する。それでも「国内だけでなく、シンガポールやアメリカ、台湾、フランス、ベルギー、中国など海外からも発注があり、それぞれ50本づつ売れました」。

 今年4月からは、このソファとベッドを「ふるさと納税」の返礼品にもした。その後、5つの工房を加え、10月からは7種類のソファやベッドを製造している。

 大川市には約300の家具関連工房があるが、「ネコ家具」は、市が全体のバランス等を考えて、この商品を猫用にと各工房に依頼したのだという。

ナカヤマ木工の中山貴裕さん「ソファのフレームは人間用と同じようにクッション性を持たせています」
ナカヤマ木工の中山貴裕さん「ソファのフレームは人間用と同じようにクッション性を持たせています」

職人も「猫用? あり?」

 たとえば、無垢家具にこだわる「ナカヤマ木工」は、釘を使わずホゾで組む指物の技術に現代のデザインを融合させた家具作りが特徴だ。2代目職人の中山貴裕さん(56)が作るのは「2Pソファー バナード」で12万円(税別)。流れるような肘掛けや全体のフォルムが美しく、使い込むほどにアンテイークの風合いが出るという。

 中山さんが説明する。

「1950年代にデンマークで使われていたデザインで、木のフレームにベルトバネを使用して弾力性と強度を出しています。少し太った猫ちゃんでも快適に座れますよ。布の色は70色(オリジナル30色、イタリア製40色)から選ぶことができて、数万円プラスすれば革でも作れます」

 中山さんのソファをネットで知って気に入ったという都内の男性が、展示会に実物を見に来たという。

「おとなの猫と暮らしている方で、リビングで北欧のビンテージの家具を使っているので、その横に置くとなると僕のデザインのソファが合うと言って選んでくれました。布の色について、一色がいいか、差し色を入れるかと長い時間をかけて相談しました」 

 そんな中山さんも「ネコ家具」の依頼があった当初は少し戸惑ったという。

「猫用の家具って“あり”だろうか。10万円以上して、ぜいたくじゃないかなと、最初思ったんですが、小さなサイズを作っているうちに、愛着がわいて可愛いくなってきたんです。他の家具と同時進行で作るため製作には約2カ月かかりますが、買った方がすごく喜んでくださるので、作りがいもあります。僕自身は猫を飼っていませんが、今年の春にちょっとした出来事があったんですよ…」

大川市の石橋さん、職人の中山さんに家具の質問をする来場者(T-SITEにて)
大川市の石橋さん、職人の中山さんに家具の質問をする来場者(T-SITEにて)

住宅メーカーから注文も

 中山さんの工場の周囲には、野良猫が何匹かいる。まだ寒い時期に、2匹の子猫が知らない間に工場の2階の隅に入り込んで、弱って死んでいた。親猫が「起きなさい」とでも言うように、その2匹の全身を交互に舐めていたのだという。

「かわいそうだったので、お線香をたいて、箱に入れて葬ってやりました。そのすぐ後、『ネコ家具』の話が決まったので、それは猫の恩返しだねと周囲に言われたりして(笑)。この新たな取り組みが、市のPRになり、大川市がどんどん元気になればいいなと思います」

 展示された中でいちばん高価なのは、「丸庄」が手がける黒革のソファ「パンコーネ」で27万8千円。人間用なら80万円近くもする高級品だ。「これいいね」と何人もの人が商品の前に立ち止まっていた。犬連れで訪れた人も「可愛い、うちの子にもいいわ」と、2匹の小型犬をちょこんと座らせてみていた。

 大川市の石橋係長は手応えを感じているようだ。

「住宅メーカーから連絡があり、猫と暮らす物件に置けないかなど相談をもらって、実際にコラボを始めた工房もあります。伝統家具がこうして広まるのはありがたいことですし、職人を目指す若い人もどんどん増えていくといいですね。猫はペットという以上に大切な家族なんだということも、家具を通して実感しました。今後は、猫の嘔吐や粗相の時にどうするかなど、もう一歩進んで考えていけたらいいなと思います」

藤村かおり
ペットライター。小説等の創作活動を経て90年代後半から、ペットの取材を手掛ける。2011年~2017年週刊朝日記者、2017年からsippoメインライター。丹念な取材と独自の目線から、動物と人の絆、動物と共に生きる人の心をすくい取る記事に定評がある。ペット関連の著書に『長寿猫』『明日にアクセス』など。現在は保護した黒猫、キジ猫と暮らす。

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