イギリスの獣医師に聞く シニア猫のために飼い主ができること

老化のサイン気づいていますか
老化のサイン気づいていますか

 動物も人間同様、長寿社会を迎えています。愛猫との日々が、あまりにも当たり前すぎて、老化のサインに気づかない。不調を隠すのが上手な猫は、特にそんな傾向が強いといいます。「高齢猫の早期疾病発見のために診るべきポイント」と題したセミナーのために来日中のサラ・カーネイ先生。イギリスで、猫専門医として臨床、研究、論文発表など多彩に活躍している、ご自身も大変な愛猫家です。そんなサラ先生に、シニア猫のためにどんなことがしてあげられるか、お話をうかがいました。

 

サラ・カーネイ先生 (撮影:岡田晃奈)
サラ・カーネイ先生 (撮影:岡田晃奈)

シニア猫って何歳から?

 ペットフードのパッケージなどをみると、9歳以上のシニアな猫ちゃんに…などと書かれていますよね。猫は人間の何倍もの速さで歳を取るとか、人間の一年は猫の何年に相当するとか、いろんな言い方をされますが「高齢期」の定義も、医学的には変化し続けています。

 私も参加しているインターナショナルキャットケアという慈善団体がありますが、そこでは指標として、11歳齢以上の猫を高齢期、15歳以上の猫を超高齢期、と呼んでいます。
もちろん、老化の程度は個体差があります。しかし、見た目に変わったところはなくても、一定の年齢に達した猫の身体は確実に変化しています。必要な栄養素も運動も、そして気を付けるべき点も、ステージごとに違うのです。また、高齢期以上の猫は、腎臓病、高血圧、甲状腺疾患、糖尿病などにかかるリスクが非常に高いため、注意が必要です。

 次に大切なのは、猫の生態や医学についてより詳しく、最新の医学情報にアクセスできている獣医さんとお付き合いすることです。

 日本国内はもちろん、世界レベルで獣医療の研究は日々進んでいます。新しい診断法や治療法が日々生まれ続けているのです。めったに獣医さんへ行かない、という飼い主さんは、そうした医療情報がアップデートしにくいですよね。数年前にはあきらめていたような症状も、今なら解決策があるかもしれないのです。また、ネットなどで学んだ情報も、かならずしもあなたの愛猫に当てはまるものではないかもしれません。

 では、自分のかかりつけの獣医さんがどれほど最新医療に長けているかを判断するにはどうしたらいいでしょうか。欧米にはキャットフレンドリーホスピタルというシステムがあります。これは設備であったり器具であったり、あるいは獣医師やスタッフの猫医療に対するモチベーションの高さを推し量って認定されるもの。日本でもいくつか、キャットフレンドリーホスピタルの認定を受けている病院があります。

 もちろん、認定を受けていない病院でも猫に詳しく、熱意のある獣医師はいるはずです。猫医学会も発足しましたし、そうした機関で開かれているセミナーに参加するなど、積極的に情報収集をしているかどうか。最新の医療情報にアクセスしているかどうか。飼い主さんは遠慮なく、かかりつけの先生に聞いてみればよいのです。そしてもし、今受けている医療に何らかの不安や疑問があるようなら、セカンドオピニオンを求めるのもよいでしょう。
ネットなどで評判のよい病院を探したり、キャットフレンドリーホスピタルを探したりするのもよいでしょう。新しい病院でも、「どの先生が一番、猫好きですか?猫を診るのが得意ですか?」と聞いてみましょう。わざわざ聞かなくても、猫への接し方、猫の体の扱い方やコミュニケーションの態度を見ていれば、猫が得意な先生かどうかは、わかりますよね。

猫の体重を測り変化を感じ取る
猫の体重を測り変化を感じ取る

家でするチェックは「体重測定」がおすすめ!

 飼い猫のことを一番よく理解しているのは、飼い主さんです。私たち獣医師は、飼い主さんの協力なしには良い仕事はできません。ですが、私たち獣医師にしかわからないこともたくさんあります。シニア期を迎えた愛猫が、より健康で幸せな毎日を送るために大切なことは、飼い主さん自身が「大した事ではない」と思うような、ささいなことでも獣医師に伝え、相談してくださることです。愛猫が歳をとればとるほど、動物病院と密に連携して、猫の体調管理や病気の早期発見に努めてあげてほしいと思います。

 あまりにも毎日愛猫に接していると、小さな変化には気づきにくいものです。また、愛猫が歳をとった、という意識があると、ささいなことならば「歳のせいだ」と思いがちですよね。この問題はイギリスも日本も同様です。猫になれていればこそ、「歳をとればこれぐらいは普通だろう」とか「前にお世話した子もこうだったから…」と、過去の経験が判断の邪魔になることもあります。

 何か変化に気づいたとしても「この症状が出たらこの病気」という明確な一対一の組み合わせはないということを覚えておきましょう。たとえば、水を飲む量が増えてきたな、とか、おしっこの量が増えてきたな、というようなとき。これらの症状は慢性腎臓疾患でも起こりますし、甲状腺機能亢進症でも糖尿病でも発現する症状です。そうした変化に気づき、病院を訪れて血液検査などでその他の情報を手にして、はじめて診断ができるのです。

 では、家庭で変化を感じ取るにはどうしたらいいの?とお思いでしょう。私は一番手軽で継続しやすいチェック方法として、体重の測定をお勧めしています。

 赤ちゃん用の体重計をひとつ、用意します。そして猫の体重を毎日、毎日が無理なら週に1度でもよいので、測って記録するのです。

 大人になった猫というのは、体重があまり増減しない動物です。日々の生活が安定していて、健康な猫であれば、体重のグラフは水平線のようにまっすぐです。しかし、わずかでも減ってきた、あるいは増えてきた、という場合。猫の様子に変わったところがなくても、身体の中で何かが起こっている可能性はあります。獣医さんに相談するタイミングやきっかけを、体重のデータが教えてくれるでしょう。

おしっこの量は砂の塊の大きさで判断
おしっこの量は砂の塊の大きさで判断

飲水量とおしっこも貴重な手がかり

 先にお話した中でも例に挙げましたが、猫の健康状態を推し量るなかで、飲水量とおしっこは大切な手がかりになります。

 では、飲水量はどうやってはかるの? おしっこはどうやって…?と思うでしょう。たしかに正確な数値を測ろうとするとなかなか大変です。まして複数の猫や犬と暮らしていると、わかりにくいかもしれません。

 飲水量は、いつも決まったボウルで与えているでしょうから、水を補給するタイミングで減り具合を見るといいでしょう。
おしっこは、トイレを片付けるとき、砂の塊の大きさで判断します。
そして、もし採尿ができるならば、それを持って猫と一緒に動物病院に行って尿検査をするのがベストです。採尿の方法は、非吸水性の砂を使ってトイレの片隅にためたり、二重構造になったトイレでおしっこだけ下の層に落ちるものを使ったりすればやりやすいでしょう。

 そして私たち獣医は、猫のおしっこのサンプルが手に入ったら、まず濃度を調べます。猫は非常に濃縮されたおしっこをする動物ですが、腎臓病、甲状腺機能亢進症、糖尿病などではおしっこが薄くなるという症状が現れます。また、糖尿病ではおしっこに尿糖が出ますからわかります。このように、おしっこを調べることは様々な疾患の早期発見につながるのです。

 猫は不調を隠す動物です。また、全身が美しい被毛に覆われているために、人間のようにしわが増えてもわかりません。見た目にわかるほどの変化が起きたときには、人間が思う以上に症状は進んでいるのです。特に貧血などは来院したころには、すでにひん死に近い状態だった、ということも珍しくありません。

 日々の暮らしの中で猫をしっかり観察し、何もなくても定期的に獣医師に診てもらう習慣をつける。そうすることで、飼い主と第三者とでモニタリングできて、病気や老化の早期発見につながるのです。

(通訳・久保田朋子)

サラ・カーネイ

ブリストル大学院卒。獣医学博士。20年以上、猫専門の獣医療に携わり、特に高齢期の猫のケア、猫医学のスペシャリスト。イギリス猫医学界でも代表的なひとりとして国際的にも知られ、世界の猫医療従事者に向けた多くの専門書を執筆している。イギリスの猫のための慈善団体・インターナショナルキャットケア(ICC)と、国際猫医学協会(International Society of Feline Medicine)にも長年貢献している。

浅野裕見子
フリーライター・編集者。大手情報出版社から専門雑誌副編集長などを経て、フリーランスに。インタビュー記事やノンフィクションを得意とする。子供のころからの大の猫好き。現在は保護猫ばかり6匹とヒト科の夫と暮らしている。AERAや週刊朝日、NyAERAなどに執筆中。

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