北海道の懐かしい風景と、そこに生きる猫 写真集「かべねこ」
隙間や端が好きな猫は、壁に寄りそうようにいることが多い。そんな“壁好き”な猫を北海道の古い街並と一緒に切りとった異色の写真集『かべねこ』(北海道新聞社)(写真・文、吉田裕吏洋)が発売された。“昭和”を感じさせる、どこか懐かしい街の風景にとけ込む猫。それは過酷な環境下で生きる外猫たちの「記録写真」でもある。
(末尾に写真特集があります)
古く赤茶けた壁、蔦の絡まるグレーの壁、赤い文字で落書きされた壁や、朽ちた木の壁。ページをめくると、様々な背景に写りこんだ猫がいる。うたた寝をしたり、仲間と並んで座ったり、のびをしたり、どの猫もリラックスしている。
本書は50枚余の写真で構成されるが、登場する猫のほとんどは野良猫や外猫。猫そのものを撮ったというより、自然な風景の一部として納まっている。
撮影したのは、北海道札幌市在住の吉田裕吏洋さん。日ごろは団体職員として遺跡発掘調査に関わり、記録保存を目的とした撮影業務をしている。「仕事外」である猫を撮るようになった経緯を聞いてみた。
「元々猫は好きでしたが、趣味での撮影対象は風景や花でした。雪解けが進む3月の晴れた日に近所を散歩していたら、いつも通る道の隅に1匹の猫がいて、何の気なしにシャッターを切りました。その日を境に行くところ行くところで猫に出会うようになり、“猫に関わる人”との出会いも増え、猫を多く撮るようになりました」
猫を撮るようになってから、外猫の世話をする人に北海道の猫事情について聞き、さらに撮影したいという思いを強くしたという。
「北海道の外猫は環境の厳しさから寿命が短いという話を、お世話をする方から伺いました。もともと記録保存の写真を撮っている身なので、彼らの生き様を撮って残したいという気持ちが芽生えたのです。猫撮りも自分にとっては“記録保存的”な意味合いがあるのは事実です。撮影した街には、現在では技術的に作ることが出来なくなった装飾ガラスやすりガラスなど、昭和の職人さんの技術を感じさせるものが残されていますが、そうした昭和の記憶を、断片的にでも、逞しく生きる猫と共に撮り残したいと思いました」
壁際にいる猫たちを、吉田さんは、親しみを込めて「かべねこ」と呼ぶようになった。壁を背景にして撮る時の工夫はあったのだろうか?
「猫にはお気に入りの壁があり、その壁に寄り添う姿を個性だと自分なりに解釈して、撮り納めました。記録保存の写真としては、何処に何がどの様な状態であるのか、必要な情報を十分に取り入れ、かつ、不必要な情報は出来る限り排除し、伝えたい情報が明確になる撮り方をするので、猫写真にもその要素が組み込まれているのかもしれません」
撮影中の苦労や楽しみなどは?
「私が行くと必ず出迎えてくれる猫さんがいて、近寄り過ぎて撮れないこともしばしば(笑)。また、撮影に行った地域の方と話し込んで、結局数枚しか撮れないで帰ることもありました」
本人お気に入りの1枚は、休日の工場で撮ったもの。ベルトコンベアーで猫が遊んでいるユニークな写真だ。
「休みの日の工場のオープンスペースで狙って構えていたところ、壁際にいた猫たちがまったく予想していなかった動きをしたんです。滑り台のようにコンベアーを上り始めたので、思わずシャッターを切りました」
ロケ地は北海道だが、そこにまた猫が捨てられたりしないようにと、場所は公表していない。
「北海道の都市部の飼い猫はほぼ室内飼いですが、郊外になればなるほど自由に出入りする猫が多い。牧場や農家に住み着き、ネズミ退治などをして働き、共存する地域の猫もいると思います。写真の多くは、猫と同じ目線の高さで撮っています」
北海道の街の風景の写真集であるとともに、懸命に今を生きる猫たちの記録でもある。
- 吉田裕吏洋さんのブログ「ゆりねこ」
- 『かべねこ』
- 写真・文:吉田裕吏洋/北海道新聞社刊/B5変型判/オールカラー60ページ/定価1,296円(税込)/『ゆきねこ』も同時発売
- 写真集『ゆきねこ』『かべねこ』 発売記念写真展
- 場所:札幌市中央区大通西3丁目6 北海道新聞社1F 道新プラザ DO-BOX
日時:10/23(火)~10/28(日)10:00~19:00(最終日は16:00まで)
トークショー:27日(土)28日(日)の11:00~、14:00~予定
問い合わせ:北海道新聞出版センター ☎011-210-5742
![「かべねこ」より (撮影 吉田裕吏洋)](http://p.potaufeu.asahi.com/9340-p/picture/13612215/a1dfc106390655967b4baab976a577c7.jpg)
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