飼い猫には名前が必要だと気づく ハチワレ猫をなんと呼ぶ?

 血液検査とウイルス検査の結果、ハチワレ猫は健康上に特に問題はなく、猫白血病と猫エイズも陰性だった。

(末尾に写真特集があります)

診察台のハチワレ。(小林写函撮影)
診察台のハチワレ。(小林写函撮影)

 強いていえば体重が5kgと「ぽっちゃり気味」なので、これ以上太らせないように注意することぐらいだった。栄養補給のためのビタミン剤注射に、ノミダニ駆除薬の投与、危険を回避するための爪切り。家猫になる準備が着々と進むなか、仕事を終えたツレアイも病院にやってきた。

 ツレアイは、今日から3日間は仕事が立て込んでいた。「家に迎えたばかりのハチワレが夜中に鳴いたり、走り回ったりして睡眠に支障をきたすと困る」と彼は言い、この3日間、動物病院のペットホテルで預かってもらえないかと頼むために来たのだった。

 先生は「足の怪我の経過も見られるからいいですよ」と快諾してくれた。看護師さんも「いい子そうだから、お泊まりも大丈夫じゃないかしら」と言う。

「ただ、名前はどうしましょう?病院内で呼ぶのに名前がないと不便なので……」
と看護師さん。

 飼い猫には名前が必要だ。当然のことだが、このときまで考えたことはなかった。ハチワレを引きとる日までに決めてくることにし、「それまでは適当な名前で呼んでください」と頼み、キャリーごとハチワレを預けて病院を後にした。

野良から家猫になり、脚もきれいに。(小林写函撮影)
野良から家猫になり、脚もきれいに。(小林写函撮影)

 その晩、私たちは近所のビストロで祝杯をあげた。

 翌日の午後、ハチワレの様子が気になり病院に電話をした。すると、「猫ちゃん、くつろいで横になっていますよ。今日は缶詰を食べて、オシッコもちゃんとしました」とのこと。

 病院のケージに入れられると、暴れるか緊張して固まってしまい、水も食事も受け付けなくなる猫がいることは知っていた。どうやらハチワレは、おおらかというか、神経がずぶといというか、そういう性格らしい。安心したところで、次は名前だ。

 私は「クグロフ」という名前をひそかに考えていた。「クグロフ」は、私がかつて「お菓子修業」と称して長期滞在したことのあるフランス・アルザス地方の郷土菓子の名称だ。愛称は「クーちゃん」かな、と漠然と思い描いていた。

 しかし、飼い主の思い出を投影した、猫の個性とは無関係な外国語の名前をつけることに、気恥ずかしさもあった。だから言い出せないでいた。

 その日の夕食の席で「ハチワレの名前、どうする?」と私はツレアイにたずねた。数秒の間があり、「ぽんた」と彼は答えた。

「あの猫は“ぽんた”っていう感じがする。“ぽんた”がいいよ、名前」とツレアイ。

「それいいね、そうしよう!」と私。

 どうして賛成したのか、自分でもわからない。でも「ぽんた」と聞いた瞬間に「クグロフ」の案は頭から消えていた。

リビングをのぞく、ぽんた。「入りたい‥‥‥」。(小林写函撮影)
リビングをのぞく、ぽんた。「入りたい‥‥‥」。(小林写函撮影)

 飼育書によると、猫を引き取るのは、午前中が望ましいそうだ。夜までに新しい環境に慣れさせるためで、できれば休日など飼い主の時間に余裕のある日がよいという。だから引き取る日を含めて、3日間は外出の予定は入れないようにしていた。

 久しぶりに病院で見るぽんたは、毛づやがよくなり、特におなかの部分が白く、こぎれいになっていた。数日室内にいただけでこんなにも変わるのかと驚いたが、それは毛づくろいのせいだと看護師さんに聞き、さらに驚いた。毛づくろいは、ただ気持ちがよいからやっているだけかと思っていた。毛や地肌についた汚れを取り除くためだとは知らなかった。

 自転車でぽんたを家に連れて帰り、玄関にキャリーを置き、扉を開けた。するとぽんたはゆっくりと顔を出し、部屋の中を徘徊しはじめた。私はすべての部屋のドアを開け放った。ときどき鼻をヒクヒクさせながら、用心深く、しかし興味津々といった様子で部屋という部屋を渡り歩く様子は、飼育書に書いてある「探検」の行為そのままだ。

 今日から、人間2人の生活に、猫1匹が加わる。家の中に猫がいる風景は、見慣れないせいかどこかよそよそしい。

 新しい生活に慣れるまで、どれくらい時間がかかるのだろうか。

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宮脇灯子
フリーランス編集ライター。出版社で料理書の編集に携わったのち、東京とパリの製菓学校でフランス菓子を学ぶ。現在は製菓やテーブルコーディネート、フラワーデザイン、ワインに関する記事の執筆、書籍の編集を手がける。東京都出身。成城大学文芸学部卒。

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この特集について
猫はニャーとは鳴かない
ペットは大の苦手。そんな筆者が、ひょんなことから中年のハチワレ猫と出会った。飼い主になるまでと、なってからの奮闘記。
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