難病の高齢犬を引き取る 自然体の愛情に包まれ、奇跡の回復

難病を克服して元気に走り回る和香ちゃん=塩満さん提供
難病を克服して元気に走り回る和香ちゃん=塩満さん提供

 フィラリアと乳腺腫瘍という難病を患い、歩くのもやっとだったミックス犬の和香ちゃん。保護施設と引き取り手による地道なケアで病気を克服し、元気に走りまわるまでに回復しました。

「聴診器で心臓の音を聞くと、虫が動くザワザワという音が聞こえたそうです。強陽性(重度)のフィラリアでした」

 横浜市港南区在住の塩満美代子さんは、愛犬・和香ちゃん(ミックス、メス)を引き取ったばかりの頃をそう思い出す。

 和香ちゃんは推定10歳。ラブラドールの系列を思わせる、引き締まった体つきと穏やかな容貌の中型犬だ。茨城県の愛護センターから、動物保護団体アニマルハートレスキューに引き取られてきた。

 塩満さんと和香ちゃんの出会いは2017年7月。自宅近くのホームセンターで開かれた譲渡会をのぞいた時のことだった。

 たまたま見かけた和香ちゃんは、周囲の喧騒に戸惑っているように見えた。

「その姿がどうにも気になって、家に帰っても頭から離れなかった。自宅にはすでに猫が2匹いて、夫も当初は犬を引き取ることに前向きではありませんでした。でも、私が『あの子を飼えない』とメソメソしていたら、『それほど言うなら』と同意してくれました」

甘える和香ちゃん=塩満さん提供
甘える和香ちゃん=塩満さん提供

おびえて震えていた犬

 2週間のトライアル期間を経て、晴れて塩満家の一員となった和香ちゃん。体調の割には痩せており、常にどこか人の顔色をうかがう様子があったという。保護施設で手厚い治療と看護を受けたおかげで、引き取った時にはある程度改善されていたものの、かつて劣悪な環境にいたことが推測された。

「保護施設の方が引き取ったばかりの頃は、骨と皮ほどにやせ細り、立つのもやっとだったそうです。フィラリアに加えて乳腺腫瘍もあり、摘出手術を受けた後も継続的な通院が必要な状態でした」

 十分な世話がされていなかったばかりではなく、虐待を受けていた可能性もあるという。

「うちに来てすぐ、室内で粗相をしてしまった時のことです。おびえた顔でブルブル震えて、『いいんだよ、大丈夫だよ』と言っても、ずっと落ち着かなかった。きつい折檻を受けた記憶があるのかもしれません」

 心身ともに傷ついた和香ちゃんを、塩満さんは自然体の愛情で見守り続けた。

膝の上で寝てしまった和香ちゃん=塩満さん提供
膝の上で寝てしまった和香ちゃん=塩満さん提供

「保護犬」も他の犬も差はない

 動物好きの家庭に育ち、常に動物のいる環境で生活してきた塩満さん。だからこそ、「重病のシニア犬」を引き取ることに対して抵抗が薄かったのだろうか。

「最初は迷いました。でも、病気が人にうつるわけではない。子犬の時に健康だった子でも、いつ病気になるかわからない。気になった子がたまたま病気だった、という感じです。人間が心構えをして飼えばいいんだ、と考えて、引き取ることを決めました」

 その口調からは、「動物を飼う」ということの現実を知っている人ならではの落ち着きが感じられた。

「ペットショップの動物たちを否定するわけではありません。ただ私は、行き場のない子がいるなら、そういう子を引き取りたいと思いました」

 保護施設で他の犬猫と暮らしていた和香ちゃんは、集団生活に抵抗がない。同居の猫に威嚇されながらも喧嘩はせず、散歩中に会う犬に対しても友好的だ。「保護犬」も、他の犬も、それぞれ一長一短あり、歳をとり、病気になり、この世を去ることに違いはない。

「いつ、何が起こるかわからないのは人も動物も同じ。どんな子だって、家族になれば『うちの子いちばん』です。和香を見た人から『何犬ですか?』と聞かれたら、『スペシャルドッグです』と答えることもありますよ」

 塩満さんに撫でられながら、和香ちゃんは穏やかな表情で座っている。

大きな目で見つめる和香ちゃん
大きな目で見つめる和香ちゃん

重度のフィラリアが完治

 塩満さん宅に引き取られて約半年たった2018年2月、和香ちゃんの病状に変化があった。かかりつけの動物病院でフィラリアの検査をしたところ、陰性の結果が出た。地道な通院と投薬の効果だった。

「一瞬、陰性と陽性を間違えて覚えていたのかと思いました。治るなんて想像していませんでしたから。本当にフィラリアが消えたと分かった時は、小躍りしたくなるほど嬉しかった」

 これまで苦しんできた咳や嘔吐などの症状も減り、和香ちゃんはますます元気になった。現在も腫瘍の検査と投薬は続いているというが、一見しただけではわからないほど健やかな印象だ。走ることが好きで、広い場所でのびのびと走っている時がいちばん活き活きしているという。

「海に出かけた時は海藻を体に巻きつけて遊んだり、雪が降ったら童謡の歌詞みたいにはしゃいで庭を走り回ったり。目の表情が違いますね。嬉しいんだなあと感じます」

 以前は出かけることの少なかった塩満さん一家も、和香ちゃんを遊ばせるために車で外出することが増えたという。

笑うように走り回る和香ちゃん=塩満さん提供
笑うように走り回る和香ちゃん=塩満さん提供

一緒に暮らす喜びを感じて

 「理屈うんぬんではなく、動物たちが傍にいるということは、なんとも言えず単純に幸せな気持ちです。手間よりも、動物がいる安らぎの方が大きい。ただただ、可愛くて仕方がないです」

 保護犬を引き取ることに興味があるが、一歩踏み出せないという人には、「まず会いに行ってほしい」と考えている。

「保護施設には、すごくいい子がたくさんいます。出自がどうであれ、家族になったらそこには幸せがある。保護活動をしている方々のような大きな活動は何もできない私ですが、いつか、『保護犬』『保護猫』という言葉がなくなるくらい、保護動物の引き取りがペットを迎える上で当たり前の選択肢になる事を願っています」

<和香ちゃんの出身団体>

一般社団法人アニマルハートレスキュー
横浜市を拠点に犬や猫の保護活動を行っている。1996年から横浜駅・関内駅の猫の避妊去勢保護活動を開始。2000年から定期的な里親会を開催するとともに、茨城県動物指導センターからのレスキューを開始。シェルターは、動物病院・ドッグホテル・トリミングサロン・グッズショップの複合施設「アニマルセラピーハウス」に併設されている。

住所:横浜市都筑区茅ヶ崎中央28-8
TEL:045-530-4771
アニマルハートレスキュー公式HP: http://www.animal-heart-rescue.net/
アニマルセラピーハウス公式HP: http://www.momo.yokohama/

鈴木紗綾子
1984年神奈川県生まれ。sippoライター。出版社勤務、英国大学院留学等を経て現職。文鳥、アゲハ蝶の幼虫、ミックス犬(保護犬)などを飼ったのち、 現在は老チワワ(オス、16歳)と暮らす。
この特集について
幸せになった保護犬、保護猫
愛護団体などに保護された飼い主のいない犬や猫たち。出会いに恵まれ、今では幸せに暮らす元保護犬や元保護猫を取材しました。
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