「触れあい、動物の心に入り込みたかった」ムツゴロウさん語る
生き物に触れあうほど、それぞれに個性があり、生態や性格まで様々であると気づかされる。生き物と親しんできた人は何を感じ、何を思うのだろうか。「ムツゴロウ」として知られる作家・畑正憲さんを訪ねた。
――ムツゴロウさんにとって、動物とはどんな存在ですか
そんなものは無いですよ。好きな順番についてもよく聞かれるけれど、それも無い。人間も動物も全部一緒。順番はつけないんです。愛に順番はありますか?兄弟に順番はつけないでしょう。そういうようなところで、理解しようとすることが間違っているんです。あなたの質問は間違えているんですよ。僕は動物から何か学んで、人間に適用しようとか功利的なこと考えていないから。
――ムツゴロウさんは動物と暮らしていました。なぜですか?
それはね。動物の心の中に、自分が入っていってみたいという風に思ったからです。実際に心に入れたと思う時もあります。できなかった時もある。動物と言っても、それぞれ様々な生活をしてきているわけだから。
動物から人を見たときに「人間はこういうもんだ」と理解していると思うんです。人間に対する防御反応がいっぱい出来ている。その鎧(よろい)をはがさないと、動物の本当の心には近づけないんですね。それは、その動物によって全然違うんですよ。
――動物の心には、どうすれば近づけるんですか?
それにはレベルがあるでしょ。人はたくさん色々なつまらんことを心のなかに詰め込んでいますから。それを外さなければいけない。
――生き物に親しむことについては、どう思いますか?
親しむ人がどんどん増えてくれればうれしいですよ。まずは、人間とよく触れあうことですね。我々は人間ですから。人間も動物。人間が基本ですよね。
◆動物と向きあう 何事にも代えがたい瞬間
――生き物と親しくするコツみたいなものは、ありますか?
一言では言えないですね。例えば人間にかみつく犬がいるでしょう? 僕は世界中を回って、人にかみつく犬と数知れずつき合いましたけども、1回もかまれたことがない。近づいちゃだめだよと言われるんですが、かまれない。
――その違いはなんですか?
修業してもらわなきゃダメですね。体からにじみでるものですよ。競馬場にリボンを着けている馬がいるんですよ。頭だと「かみつく」、お尻だと「蹴飛ばす」という意味です。近づくと危ないよって言われるけども、ふぅっと近づいて、ヨシヨシとできる。馬を信用させる気持ちが体に出ているんでしょうね。積み重ねてきたものだから、コツとはいえない。
私も最初はずいぶんやられましたよ。けがもたくさんしました。ヒグマにあごを割られたり、ライオンにかまれたりもしましたね。
――それでも触れあってきたのはなぜですか?
例えば馬が難産していて、脚が片方しか出てこないで引っかかっててね、どうしようもない。そのときはね、(動物王国の職員が)僕を呼びに来るんですよ。僕はばっと裸になるんですよ。そこから診断してね。子馬を一回押し込んで膣(ちつ)の中で成形するんですよ。口にロープをくわえてね。そういう時なんかね。特別な瞬間ですよ。
何かを学ぶかとかじゃない。トキメキというか、「自分がやらなきゃこれ死んじゃうぞ」「俺の中の知識はどれぐらいなんだ」と常に激しく問われるんですよ。その全部を出して立ち向かっていかなきゃいけない。それが小さな犬だろうと、大きな犬だろうとドキドキするよ。やっぱり新しい命がでてくるんだもん。
――そういう特別な感情を、いろんな場面で感じるんですか?
そりゃそうですよ。病気もするし、けがもする。本当に色々なことがあるんだもん。一口で「親しむ」と言ってもね、いっぱいあるんだから。それは自分で手探りでやっていくしかない。だから面白いんですよ。何事にも代えがたい瞬間っていうのが、時々くるんですよ。
(浜田知宏)
はた・まさのり
1935年生まれ。東京大学理学部生物学科を経て、大学院で運動生理学を研究。「われら動物みな兄弟」「ムツゴロウの青春記」など著書多数。テレビや映画でも活躍。
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