犬の歯周病を放置すると、細菌が全身にまわって深刻な病気に…
歯についた歯垢が歯石となり、さらに歯垢が付着して歯の周りの組織が炎症を起こす「歯周病」。放っておくと、さらなる深刻な病気にもつながっていきます。老犬の場合、全身麻酔での治療が必要になるとリスクも大きくなります。犬や猫の口腔衛生に詳しいフジタ動物病院院長の藤田桂一先生が解説します。
歯周病が悪化し、炎症が歯の根っこである「根尖」(こんせん)の周囲まで及ぶと、その周辺の骨が溶け、「瘻管」(ろうかん)と呼ばれるトンネルのようなものができてしまうことがある。
「トンネルの出口が皮膚の外側に開く『外歯瘻』は、目の下などの皮膚に穴が開き、そこから血や膿が出ます。出口が歯肉側に開くと『内歯瘻』と呼ばれ、外歯瘻同様に血や膿が出ます」(藤田先生)
犬は口と鼻を隔てる骨が非常に薄く、歯周病によってそこの骨が溶けてしまうと、トンネルの出口が鼻腔につながってしまうことも。それが「口腔鼻腔瘻」(こうくう・びくうろう)だ。くしゃみや鼻水、鼻からの出血がきっかけで来院し、原因が歯周病だったという犬は少なくないという。
◆重症化すると小型犬はあごが骨折することも
小型犬は下の顎の骨の厚さに比べ歯が大きいため、歯の根っこ部分が下顎骨の下のラインとほぼ同じ位置にある。歯周病が重症になって下顎骨まで溶けてしまうと、硬いものを噛んだり、外から衝撃が加わったりしたことがきっかけで簡単に折れてしまう「下顎骨骨折」を引き起こす。
さらに、歯周病に関与する細菌や炎症性物質が歯周ポケットから血管を通じて全身にまわると、体全体に影響を与える可能性も。
「人では心筋梗塞や脳梗塞、糖尿病への影響が知られていますが、犬の場合も心臓や肝臓の疾患、あるいは腎臓に炎症が引き起こされる炎症性細胞が増える糸球体腎炎という病気のリスクが高まります」(藤田先生)
愛犬に歯周病の症状が出ていたら、すぐに病院で診察をしてもらうことが大切だ。
◆全身麻酔で歯石を除く 老犬は獣医と十分に相談を
歯周病の治療について藤田先生に聞いた。
「歯石や歯の周りの状態を確認した上で、歯垢と歯石を除去します。これを『スケーリング』と言います。歯の表面だけでなく、歯と歯肉の間の歯周ポケットの中の歯石まで取りきることが大事。処置は全身麻酔下で行います」
最近、無麻酔でのハンドスケーリングを売りにしている治療やサービスが多く見受けられるが、藤田先生は「根本的な治療にならない」と指摘する。
「歯の表面の歯石しか取れず、最もきれいにしなければいけない歯周ポケットの中まで除去できません。また、犬が嫌がったり怖がったりして歯肉や口内組織を傷つけてしまう可能性も。とても危険です」
老犬の場合、年齢が高くなるほど全身麻酔のリスクもある。「病気や健康状態などを検査した上で、獣医と相談し判断しましょう」(藤田先生)
◆すべて抜歯してでも歯周組織を良好に!
重度の歯周病の場合は、抜歯するケースもある。
「なるべく抜かずに残してほしい」と頼む飼い主が少なくないが、「犬の場合、極端に言えばすべての歯を抜いてしまっても問題ありません」と藤田先生。人間は歯が無くなると食べることなどに影響が出るが、犬の歯はそもそも人間のように食べ物をすりつぶして食べるような形状ではなく、ドッグフードを食べる飼い犬なら大きな影響を与えない、という。ただし、抜歯直後に歯肉を縫合するので、あたると痛みがある。また、その部位が開かないようにするためにも2週間ぐらいは柔らかい食事を与えたほうがいい。
「周りの組織が炎症を起こしている歯を無理やり残すより、抜歯して歯周組織を良好に保つ方が、犬にとっては健康で質の高い生活を送ることができるのです」
何より大切なのが、歯周病にならないための予防。次回は、ホームケアのコツを紹介します。
■藤田桂一 (ふじた・けいいち) 獣医師・獣医学博士。1956年生まれ、日本獣医畜産大学(現:日本獣医生命科学大学)大学院獣医学研究科修士課程終了。日本小動物歯科研究会会長などを務め、研究活動を行う。フジタ動物病院(埼玉県上尾市、http://www.fujita-animal.com/)には、全国から愛犬の口腔疾患で悩む飼い主が訪れる。
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