鼻ぺちゃ犬に多い「短頭種気道症候群」 悪化させないためには
愛嬌たっぷりの表情で人気の鼻ぺちゃ犬=短頭種。その先天的で特徴的な構造から、生まれつき鼻や喉、気管などに問題を抱えていることが多く、放置したままにすると重篤な病気になる可能性があります。こうした病気を総称する「短頭種気道症候群」の治療や予防法について、獣医師の青木忍先生に聞きました。
犬が若いうちに手術をすること
「生まれながらの特徴的な形態が原因となっているので、症状を起こさない、悪化させないことが大切。そのためには、若いうちに手術をすることが推奨されています」
手術で鼻の穴を広げる、長すぎる軟口蓋を切除すると、気道が確保され、空気の通りがよくなり呼吸がしやすくなる。結果、「喉頭室外反」や、さらに進行する「喉頭虚脱」や「気管虚脱」といった重篤な病気の予防につながる可能性がある。
気道の変性や虚脱などが生じる前、具体的には2歳ぐらいまでには手術することが望ましい。早い時期が望ましいのは、短頭種の犬はそもそも麻酔に対して高いリスクを伴うからだ。
「短頭種は他の犬種以上に呼吸筋を使い、努力して呼吸しなければなりません。手術の際に全身麻酔で筋肉が弛緩すると、自分の力で十分に呼吸することが困難になる。その場合、気管にチューブを入れて空気を送らなければならないのですが、気管の入り口の前に大きな軟口蓋があるとうまく入らないことも。麻酔から覚める際にも、しっかり回復し、呼吸のための筋肉が十分に働くようになるまでは、自分ではうまく呼吸ができないことが多いのです」
若いうちに手術せず、「喉頭虚脱」や「気管虚脱」などの二次的変化が生じてから鼻の穴を広げたり軟口蓋を短くする手術をしても、呼吸状態が十分に改善されないことが多い。それだけでなく、手術の危険性はより高くなる。
「麻酔の危険度が高いのは、避妊や去勢手術でも同じ。そのため、それらの手術の際に同時に鼻や喉の手術を行うことも一つの方法です」
犬を太らせない、なるべく興奮させない
手術をしなかった場合、短頭種気道症候群を悪化させないために気をつけるべきことは?
「一つは体重管理。太らせない、太っているならばダイエットすること」と青木先生。
「太ると首周りにも脂肪がついて、狭い気道がますます圧迫されてしまいます。また、脂肪がつくと多くの酸素が必要になるため、さらに一生懸命呼吸しなければならなくなり、気道に負担がかかります」
温度管理も重要だ。特に暑い時期には、犬が過ごす部屋の温度は低めに設定する。
「暑いと舌を出してハァハァと激しく息をするパンティング(あえぎ呼吸)をして体内の熱を発散させる必要がありますが、上手に呼吸できないとそれができず、体温が上がって熱中症のようになってしまうことも」と青木先生。病院でも、症状が出ている短頭種の犬を治療する際には、室温を下げて診察、治療に当たるという。
暑い時期の日中のお散歩も控えること。犬は人間よりも路面に近いので、路面の温度がしっかり下がってから出かけることを心がけるべきだ。
「喉や気道に負担をかけないよう、首輪ではなくハーネスの使用をお勧めします」
そして、なるべく興奮させないことも重要。飼い主さんが帰宅し、大はしゃぎして走り回って、呼吸困難を起こして突然倒れてしまう……という例もあるという。
初めて短頭種の犬を飼う場合、先天的に気道に問題を抱えていることを知らない飼い主も多く、愛犬がひどいイビキをかいていても「犬ってこんなものかな?」と放置してしまうことも。若いうちに手術をせずに高齢になってしまった場合は、上記の生活での注意点に十分留意し、定期的に獣医師の受診を心がけたい。その上で、青木先生はこう指摘する。
「一刻を争うような緊急事態が起こることもあります。呼吸に異常を感じたらすぐに病院へ」
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◆ 鼻ぺちゃ犬は要注意! 呼吸しづらい「短頭種気道症候群」とは
■青木忍(あおき・しのぶ) 獣医師・獣医学博士。日本獣医畜産大学(現・日本獣医生命科学大学)獣医学部卒業。同大外科講師・助教授、岩手大学農学部獣医学科外科教授などを経て、現在、動物病院ヘルスペット(神奈川県横須賀市、http://www.healthpet.net/clinic/)で外科手術、耳科、皮膚科を担当。専門学校で教鞭をとる。
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